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鉄腕ラリアット  作者: 鳩野高嗣
第一章 ラリアットガール
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ラリアットガール【Bパート】

 卓球台の前に直実(なをみ)は立っていた。

 右手には素振り以外にはほとんど使われていないラケットがギュッと握られている。

 しかし、握り方からして既に卓球のものではなかった。


「時間がもったいないから十一点先取のワンゲームマッチとするわ。

 それからサービスは()ポイントごと。いいわね?」


「はいっ! よろしくお願いします!」


 長谷川の提案に直実は大きな声で答えた。


 部長の肩書きは伊達ではない。

 関東大会で賞状をもらうまでの長谷川と、卓球台での練習回数が片手にさえ余る直実とではハナから勝負になるはずがなかった。


(とにかくサービスを全力で打ち返す! これっきゃない!)


 直実は唇を固く結びラリアットの構えを取ると、普段の愛嬌(あいきょう)のあるタレ目が鋭く変わる。


「鷹ノ目さん、いくわよ!」


 カシュッ。


 乾いた音を発して長谷川が得意技であるツッツキサービスを繰り出す。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 直実は見えないまでに速いスウィングで弾き返した。

 しかし、白いピンポン球は卓球台を大きく逸れ、体育館中央で練習している男子バスケットボール部員の背中をレーザービームの如く直撃した。


 ビチッ!!


「痛ってぇ~っ!」


 背中を撃ち抜かれた男子バスケ部員が声を上げた。


「すいませ――ん!」


 左手を高く掲げた直実にピンポン球が返ってくる。


(う~ん‥‥コントロールが効かないかぁ‥‥。)


 絶対的な経験不足と実力不足を感じつつも、続く長谷川のサービスも直実はラリアット風の全力スウィングで迎え撃つ。

 ――が、今度もコースは大きく逸れ、ピンポン球はバスケットボールのリングを直撃した。

 更にその次は壇上を覆う幕に、その次は体育館の二階の窓にと飛距離を次第に延ばしていった。


「よくあんな軽いモンがあそこまで飛ぶよなぁ‥‥。」


「バッティングセンターと勘違いしてんじゃねぇか、あいつ。」


 バスケットボール部員が半分笑いながら呟き合っていた。

 いつの間にか二人の試合は体育館にいる全ての生徒に注目されていた。


「ちょ、ちょっと鷹ノ目さん、真面目にやりなさい!」


 見世物になっている事に気付いた長谷川が顔を赤らめて怒鳴った。


「やってます! でも‥‥部長に勝つ為にはこれしかないんです!」


 直実は至って真剣だ。この熱くも的はずれな答えが長谷川の闘志に火をつけた。


(私に本気で勝つ気? 冗談じゃないわ。卓球をなめてる人に(いち)ポイントもやるものですか!)


 長谷川は無愛想にサービスチェンジを迎えた直実にピンポン球を放り投げる。


「いきます!」


 直実はピンポン球を高く真上へ放り上げた。

 そして落ちてきた所を力任せのラリアット風のスウィングで思い切り叩きつける。

 刹那、


 ビチィーン!!!!!!!!


 卓球の試合では絶対に耳にする事のない激しい音が体育館に響き渡った。

 それは直実のサービスで放たれたピンポン球が長谷川の鼻を直撃した音だった。


「す‥‥す、すいません!」


 直実はその場でうずくまる長谷川に大声で謝った。


「た‥‥卓球する気がないようね‥‥良くわかったわ!

 とっとと去りなさい!」


 鼻を押さえた涙目の長谷川がヒステリックに叫ぶ。

 普段の冷静沈着な彼女からは想像がつかないほどの御乱心(ごらんしん)に、部員たちはただオロオロするばかりであった。


「えっ? でもまだ私、負けた訳じゃ‥‥。」


 弁明しようとした直実であったが、上級生部員たちの敵意(てきい)()()しの視線が集中砲火で浴びせられると、それ以上言葉を続けられなかった。


「わかりました。

 私、辞めます。‥‥お世話になりました。」


 深々と一礼すると直実は走って部室へと去っていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 水の一念、鍛え抜いたラリアット。でも敗れる。 最初からはうまくいかないところがいいですね。
[良い点] 激闘の末、卓球部をやめる事になった直実の心情がよく伝わりました。
[良い点] ピンポン玉を弾丸のようにはじき返すラリアットが面白いと思いました。
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