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マ魔王様はお忙しい!  作者: 依静月恭介
ママな魔王様、まあまあな勇者と出逢う。
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06 人間色々、魔族色々、ついでに勇者も色々


「そう、ですか。彼の故郷が、魔族(われわれ)に……」


 深い痛みに耐える様に、罪の意識に苛まれる様に目を瞑る魔王。その表情は魔族達の王というよりも、聖女のそれに近い。


「いやでも、貴女が手を下したわけじゃないですよね?」

「そーね。その事に責任を感じる事はないんじゃない?」

「ありがとうございます。でも、私が統治すべき種族の行った事ですから……」


 フレイとスピカの擁護に魔王は感謝しつつも、やはりその曇った表情が晴れる事はない。

 だが魔王の言葉を聞き、フレイが顎に手を当て思案し始める。


「統治……統治か」

「どうしたんですか?」

「いや。いくら魔王とはいっても魔族全体を常に管理できるわけではないし、人間がやっている様に地域や細かい種族ごとの代表者に管理させるべきではないか……って思って。まあ、そこまで和平が進められればの話だけど」


 フレイはもう魔族と人間の未来を考え始めているようで、少し気の早い考えをしていたらしい。


「うふふ。確かにまだその話をする段階には至っていませんが、真剣に考えてくださる事は、とっても嬉しいですよ」


 言って、魔王はごく自然とフレイの傍に寄り、その赤い髪を撫でる。


「……勇者が魔王にナデナデされとる」

「他の勇者が見たらどう思うかな、この状況」

「う、うるせぇな……」


 スピカとリアラが揃って茶化すので、フレイは赤面して頭から魔王の手を退ける。


「フレイ様は照れ屋さんですね〜」

「…………話題を戻しましょう!」


 今度は魔王から茶化された──‬恐らく魔王本人としては素直な発言をしただけだが──‬ので、フレイは無理矢理話題をガロッサの方に戻す。



「ガロッサの村は、略奪されるでもなくただ殺戮されただけだった。ガロッサは必死に生き残りを探したが、無事だったのは村の大人達が懸命に隠した僅かな子供達だけ。村の備蓄を持てるだけ持って、子供達と住む場所を移すべく村を出たんだ」


 フレイは紅茶で喉を潤しつつ、ガロッサの口から聞いた過去を話す。


「だが辺境の村だったが故に、他の人里へ着く前に備蓄が切れた。衰弱した子供達に食わせるため、ガロッサは──‬山賊になったんだ。木を切るために使っていた斧を脅しの道具にして、行商人を襲った。そして子供達が安心して暮らせるようにと、その手で魔族を殺した」

「そうだったのか……」


 ゲイルは冷静に見えて優しい心を持っているのだろう、同胞を殺された事に憤りもしない。寧ろガロッサを憐れむ様だ。


「悪事を働くには、ガロッサは優し過ぎた。すぐに捕まったが、幸い子供達は孤児院の預かりになったし、ガロッサ自身も『人は殺していない』として軽い罰で済んだんだ。そして色んな場所を転々として、今は俺達を手伝ってくれている」


 フレイがガロッサの過去を簡潔に述べ、ふぅと溜息を吐く。


「確かに、魔族に村を滅ぼされたとなれば、私達の野望に賛同するのは躊躇われますね。世論のイメージではなく、魔族から直接被害を受けたわけですから」

「いや。俺が思うにだが……ガロッサは被害を受けた事に対して恨んでいるわけじゃない。勿論忘れる事のできない悲劇であるとは思うけれど」


 魔王の言葉を否定し、フレイは仲間の心を推し量る。


「多分ガロッサは、子供達を守るためとはいえ、魔族の生存圏を奪ってしまった事を自覚して迷っているんだ」


 フレイの言葉を聞き、他の4人がハッとする。

 ガロッサが当時どのような気持ちで魔族を殺したのか。それは定かではない。


「それに、山賊って事は、その……殺した魔族の種類が」

「そうですね。山魔族(ゴブリン)と考えるのが、妥当だと思います」


 暫しの沈黙。洞窟内にいる山魔族達はフレイ達の話を理解しているのかいないのか、プギプギと雑談でもする様に鳴いている。


「……私は、仕方のない事だと思います。同族の彼らがどう思うのかは判りませんが、今の世は魔族と人間が争い合うのが常ですから」

「私もそう思いますが……。恐らくあの男に最も怒りを抱いているのは、あの男自身です」

「……うん。俺もそう思います。周りが許しても、自分達が生きるために山魔族を押し除けた。そして別の地とはいえ、山魔族に懐かれてしまった。きっとそれをきっかけに、過去の行いを思い出して省みているんだと思います」


 ゲイルの意見に賛同したフレイ。

 彼の言葉を聞いた面々は、俯いて黙ってしまう。若く経験の浅い勇者一行はガロッサの心を救う術に乏しく、魔族2人もまた人間への理解には遠く、何を言えば良いか判らずにいた。


「……多分、今は待つ時なんだと思うわ。アタシ達がもっと仲良くなれば、ガロッサも『魔族にも人間にも色々いる』って頭よりも深いところで理解して、割り切れる時が来るかも知れない」


 間を空けて、スピカがゲイルの言葉を借りて言う。


「フッ。そうだと良いな。人間の時というのは、魔族のそれよりもずっと濃密だと聞くからな」


 スピカの言葉に気付いたゲイルは、優しく微笑んで彼女に同調した。

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