丸太小屋メンバーと、地下迷宮と、ワニさん
時間帯は、夕暮れ。
魔法のローブをまとったい不思議な一団が、とある下水出口の前で、たたずんでいた。
そろそろと沈み始め、とたんに暗く、夜の帳が落ちる時間帯。それはもう、いきなり明りが消えたように、暗くなるのだ。
そうであるのに、なぜ、わざわざ暗いところへと行かねばならないのか。町外れの下水のトンネルを前に、暗がりを見つめる四人組みが、うなだれていた。
四人と言うか、アニマル軍団だった。
「ねぇ~、レーゲル姉………ワニさん、出てこないよねぇ~」
「………ドラゴンのあんたが、なんでワニさんを怖がるのよ」
「不思議だワン」
「くまぁ~………」
森の清らかな空気と水が、さっそく恋しいアニマル軍団だ。
それはそれは、食欲の湧かない夕食を終えた丸太小屋メンバーは、夜に現れるという下水の幽霊を探すために、再び、町外れの下水入り口へと姿を現していた。
ドラゴンの宝石を、捜すためだ。
明るい輝きを放つ宝石が、空中に浮いている。
魔法の宝石のほかに、どのような可能性があるというのか。もちろん、幽霊である可能性もあるものの………
実際に、明るい宝石の方々が群れを成していたのを、アニマル軍団は目撃していたのだ。
ねずみの後ろで、ワラワラと浮遊する宝石の大群を、目にしていたのだ。
だが、ワニさんとの追いかけっこに忙しく、魔法の宝石だと意識する余裕がなかった。
気付けば、その姿も消えていたわけである。そして、ねずみに導かれた出口にて、それでは――と、手を振るねずみさんを見送ったのだ。
後になって、そういえば………と、思い出したときには、手遅れである。探すようにと言われていた宝石の皆様は、そういえば、目の前にいたのだ。
それを思い出したのは、仲良くお見送りした、そのずっと後のことだった。
炎を全身にまとって、フレーデルちゃんは叫んだ。
「もぅ、とっとと捕まえてやる。――っていうか、私もドラゴンだぞっ、ドラゴンの宝石なら、言うことを聞きなさぁ~っい」
髪の毛と同じく、真っ赤なドラゴンのお尻尾をピンと立てて、両手もいっぱいに伸ばした、ヤケになったポーズである。
もう、ローブの下にお尻尾を隠す練習など、忘れている。炎の勢いで、ローブがバタバタとはためいていた。
何か、やらかしそうだ。
そんな気持ちで、丸太小屋メンバーは、お子様の炎を見つめていた。
ちなみに、銀色のつんつんヘアーのレーゲルお姉さんはもちろん、クマさんのオットルお兄さんも、ローブを肩にかけている。
サーカスのクマさんか、お人形のクマさんが身につける衣服のようだ。
マヌケと言う評価になるのは、中身がオットルお兄さんであることが、理由だろう。うなだれているように見えるが、四速歩行も出来る、むしろそちらで歩くのがクマさんである。
「さぁ、行くわよ」
「おぉ~」
「ワン」
「く、くまぁ~………」
女子二人を背に乗せても、問題なくトコトコお散歩が出来るクマさんだ。幸いというべきか、下水のせせらぎを眼下にした岸辺は、人が二人並んで歩くにも余裕の広さである。
滑りやすさは、湿気と、コケをはじめとした謎のキノコなど、下水の生態系が故だ。
フレーデルちゃんの炎で、明るく照らされていた。おかげで、少しは足元が見えるが、不気味には違いない。
その歩みは遅い。下水と言う迷宮へと、再び足を踏み入れたのだ、当然と言える。
それに、悪夢が潜んでいると、知っているのだ。
巨大なるワニさんと言う、悪夢である。
ざざざ――と、下水のせせらぎを激流に変えて、黄金に輝く瞳で、こちらを見つめるのだ。
巨大な口が、人などは丸呑みに出来る牙の並んだ恐怖が、ここにいるのだ。
お昼の追いかけっこから、さほど時間が経過していない。夜を前にした時間帯の、改めての迷宮探検である。
懐かしい、波音が近づいてきた。
ざざざざざ――と、波が激しく近づいてきた。
「ね、ねぇ……何か聞こえない?」
「く、くまぁ、くまぁぁ~」
「や、やめてくれ、だワン」
「ん~……もっと明るくしよっか?」
追いかけっこの記憶が、脳裏をよぎる。
輝く宝石の方々をめがけて、巨大な牙の大群が口を開けた、ワニさんとの追いかけっこは、お昼過ぎのことであった。
先頭を歩いていたレーゲルお姉さんは、明るい炎に向かって、振り向いた。
そういえば、こんな明るさだったな――と
「呼び寄せてない?――ねぇ、フレーデル………あんた、本当はワニさんと仲良しになりたいんでしょう。そうなんでしょぅ?」
ワニさんが、大きなお口を開けて、やってきた。
フレーデルちゃんをめがけて、やってきた。
「えぇ~、なんで、なんで、なんでぇ~っ」
「炎に決まってるでしょぉおおっ!」
「逃げるんだワンっ」
「くまっ、くまっ、くまぁ~っ」
逃げろ、逃げろ、にげろぉおおお――と、クマさんの叫びに、追いかけっこがスタートだ。
見通しはとてもよい、フレーデルちゃん炎が、燃えている。
炎を消してしまえばいいのだが、フレーデルちゃんにとっては、自然に発生する炎である。感情のままに生み出せる炎は、パニックになっている時には、さらに燃え上がるのだ。
仲間も燃やす、本物の炎を発生させない歯止めは、もちろん出来ている。そこはしっかりとほめてあげたい。
ただ、明るいだけだ。
その様子を、なんともいえない瞳で見つめているねずみがいた。
「ちゅぅ~………」
またかよ――
ねずみは、仲間達の追いかけっこを眺めていた。
頭が、痛いと。
頭上の宝石の方も、やれやれと言わんばかりに、ピカピカと光っていた。