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ねず美さんとの、出会い


 ――ガーネック、捕まる。


 この知らせに、ねずみは小躍こおどりして喜んだ。

 アーレックと共に、取調室へ行くのが楽しみで………すぐに、がっくりと肩を落とした。


 いいや、予想すべきだった。

 取調室では、すでにガーネックは解放されたという知らせが、待っていた。

 カーネナイ事件でも、一度はつかまりながら、逃げのびていたガーネックなのだ。今回も、逃げ延びることは、十分に考えられた。


 犯罪の関係者が、ガーネックの屋敷に現れた。関わりがあるのではないかと言う証拠でありながら、それでもガーネックは、逃れたという。


 ねずみは、先日ガーネックの屋敷に忍び込んだときのことを、思い出す。執事さんに発見され、部屋を緊張のあまり、赤くピカピカと、ドキドキと輝かせたことを、思い出す。

 なにか、決定的な証拠となるものを探していたのだが………


「ちゅぅ~………」


 ねずみは、うなりながら、下水を走る。


 証拠を、探さねば――と


 隣の宝石も、元気出せと、ピカピカ、光る。

 下水道を使っての移動は、表通りを、人に踏み潰される恐れがない移動方法として有効であり、闇にうごめくやからを察知する方法としても、有効である。


 なにか、新たな手がかりがないものか。そういえば、盗品はどこへ行ったのか………

 しかしながら、この事態は予想していなかった。


「ちゅぅ………ちゅぅ~………」


 一匹のねずみが、弱っていた。

 毒を口にしたのか、エサの取り合いで、致命傷でも受けたのかもしれない。それは、下水でなくとも、野生ではよくある光景であった。放置すれば、他の生物のエサとなって終わる。森の中であろうが、下水であろうが、他の生物がいる環境では、自然なこと。

 ネズリーと言うねずみは、いつもならばそう思い、通り過ぎていたはずである。


 しかし、見過ごすことが、なぜか出来なかった。


「ちゅぅ~………」


 あぁ、そういうことか――


 ねずみは納得した。

 排水溝からこぼれ出る、初夏の強い日差しが、その姿を照らしていた。ドブネズミよりも、はるかに小さなねずみである。


 美しかったのだ。


 ねずみ色のねずみの毛並みに比べ、神々しいほどの、美しさをたたえていた。太陽の光のおかげもあるのだろうが、真っ白な輝きをたたえていた。

 もちろん、下水を住まいとしている以上、かなり汚れているし、ねずみ色と異なり、目立つために、餌食となりやすいはずである。


 まさか、飼いねずみだったのか。

 そのように感じても不思議はない、ねずみはいつの間にか、弱った白いねずみさんのそばにいた。


「ちゅぅ~………」


 弱々しく、こちらを見上げる白いねずみ。

 なぜか、女性だとねずみは感じた。嗅覚で感知できるとは、ねずみは便利だ。しばらくお付き合いをしていると、実は男だ――というネタは、必要ないのだ。ねずみと言うだけで、十分だ。


 弱っているねずみは、どうやら、ねずみ毒を口にしたようだ。ねずみよけのまじないがありながらも、確実なねずみ対策として、ねずみ毒も販売されている。

 しかし、ねずみ毒を使うなど、めったにない。そのために、ねずみは興味を引かれたのだ。


 公共の衛生に関わることであれば、魔術師組合への依頼は無料である。お金持ちの特権でもなく、まじないをする魔法使いには、組合から報酬が支払われる。わざわざ毒を購入することは、多くないのだ。


「ちゅ………ちゅう………」


 ねずみは、問いかける。

 どこで、毒を食らったのかと。


「………ちゅぅ~………」


 弱った白ねずみは、答えた。

 もちろん、ねずみには、ちゅう――としか、分からなかった。


 生粋きっすいのねずみではない、ネズリーという少年の意識のままである。ねずみに、その言葉が理解できるわけがない。

 しかしながら、見捨てておくのは気が引けると、毒を解除する方法を考える。


 毒を口にした場所へと、案内をしてくれるかもしれない。この街では必要のない、ねずみのための毒エサを、なぜ、このねずみは口にしたのか。

 単純に、街へ越したばかりで、知らなかった人物が用意した可能性はある。

 それが、自然な結論である。


 だが、そうでない可能性に思い至る程度に、ねずみは探偵を気取っている。その直感と言うか、疑って考える習性によって、名探偵となりえたのだと。


「ちゅぅ、ちゅぅっ!」


 ダメで、元々だ――


 ねずみは、魔法を発動した。

 隣の宝石も、ぴか~………と、強く輝いた。

 体内にある毒素を見極め、肉体の外へと吸いだす。

 医療用魔法として知られるが、ネズリーは、使ったことがない。知識として知ってはいるが、知っているだけなのだ。


 魔力量が、不足だ。


 膨大な魔力を、放出し続けねばならないのだ。

 実験のためであっても、動物にわざと毒を食らわせることに、気が引けたことでもある。医療用魔法の研究には、不向きな性格だった。

 使命感から、ねずみの解剖を日々訓練する連中は、尊敬に値する。


 そんなネズリー時代の記憶に浸っていると、鳴き声がした。


「………ちゅう?」


 白いねずみが、顔を上げた。

 死にかけていたにもかかわらず、一体何が起こったのかと、周囲をキョロキョロとして、ちょっと可愛い。

 そして、ねずみと目が合う。


「………ちゅう」


 成功したようだ。

 ちゅぅ――としか分からないものの、弱り、死にかけていた鳴き声とは、明らかに異なる。解毒魔法に、成功したのだ。

 成功するとは、ねずみ自信、信じられなかった。


「ちゅぅううう………っ!」


 これが、オレの力か――


 ねずみは両手をゆっくりと上げ、初めて成功した魔法の余韻を味わっていた。

 出来たんだ――と。


 神々しく、ねずみの頭上では、宝石が輝いていた。

 救世主を気取って、ぴか~………と、輝いていた。

 ねずみの心を反映した、うぬぼれを感じさせる、まぶしさである。


「………ちゅぅ~」


 白いねずみが、こちらを見ていた。


 ねずみは、浸っていたために、少し反応が遅れる。気付けば、白いねずみが、ねずみの周囲を歩き、匂いをかいでいた。


 少し照れくさいが、ねずみは、なすがままとなる。ねずみと言う種族の愛情表現、あるいは感謝の気持ちと言うところだろうと。

 まさか、油断させて、捕食と言うことはないと思いたい。共食いはありえるが、今は、そのような状況には思えない。


 ドブネズミが相手なら、即座に逃げるが………


「ちゅぅ~………」


 白いねずみは、とたんに駆け出した。


 行こう――


 ねずみは、白いねずみさんの声が、聞こえた気がした。

 もちろん、気のせいである。ねずみが、人間の言葉を用いることはない………と、思う。


 単に、ねずみに興味を失って、走り去った可能性もあるが、ねずみはとりあえず、あとを追う事にした。


 ピカピカと、ネズリーの頭上の宝石も、光っていた。

 おい、早く追いかけてやれ――と、おせっかいを焼いた気がする。


 そう思いたいネズリーだが、心配になってくる。

 他人………と言うより、関わりのない野生のねずみなのだ。ガーネックを倒すための手がかりを探している途中である。余計なことに、首を突っ込む余裕はないのだが………


 毒エサをまた食らわないのかと、心配になってくる。一度は助けた、白く美しい輝きを持つ、ねずみなのだ。


 そうだ、ねずさんと呼ぼう。


 体調が戻ったのなら、まずは食事である。ならば、りずに同じ場所にいく可能性も、あるのだから。


「ちゅぅ~っ、ちゅううう~………」


 ねずさん、まってくれ~――


 新たな事件の匂いを追って、ねずみは、走った。



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