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盗賊の皆様と、カーネナイの幽霊屋敷


 夜もけて、人々が眠りに就く時間帯、リーン、リーン――と、初夏の虫がにぎやかに、夜空に風情をもたらす。

 街中とはいえ、街路樹や公園、ふとしたところに緑はある。少し遠出をすれば、そこは緑にあふれた、野生の王国だ。


 その中間と言うお屋敷の廃墟では、初夏の虫に混じって、不気味な声が響いていた。


「ひと~つ、ふたぁ~つ………たくさぁ~ん………」

「デナーハの兄貴、ちゃんと数えようぜ~」

「べックちゃんもね?」

「バルダッサ………お前はいつまで女の姿で………いや、何でもない」


 公園と言われても納得と言う広さの中庭は、お屋敷の広さを物語る。

 しかし草は伸び放題に伸び、かろうじて水の通りは良いらしい噴水は、悲しく音を響かせていた。

 カーネナイの、お屋敷であった。


「なぁ~………お化け、出ないよな………、幽霊、いないよな………」

「大丈夫よ、ベックちゃん。しゃべるワンちゃんとか、下水のワニとか、赤く輝く幽霊とかあるけど………お屋敷の幽霊の噂は、私達のことよ、きっと」


 おかしいでしょう?――と、同意を求める奥様の仕草だ。手をひらひらとさせて、ちょっと奥さん、聞いてよぉ~――と。


 ただし、2メートルオーバーの、マッチョなお姉さんだ。


 本人は、完璧な変装のつもりである。

 むしろ、誰もツッコミを入れる勇気を持てないのだ。こだわるあまり、真紅のロングヘアーを、くるくるカールにするほどだ。スカートのすそや、胸元からあふれる、ムキムキマッチョには、目を奪われてはならない。


「バルダッサ………笑い事じゃないぞ、幽霊見たさのバカがよってきたらどうする」

「デナーハに同感………」

「もぅ、デナーハちゃんも、バドジルちゃんも、気にしすぎよ………あと、ベックちゃんは、落ち着きなさい」


 ちぐはぐに見えて、とっても仲良しな四人組だ。

 仲良く、ずたぶくろから宝石を取り出し、数を数えている。いったいどれだけ、こうしているのだろう。夜空の下で、ちょっと不気味だ。


 おもちゃ屋さんの倉庫から、自分達の財宝を取り戻した4人組は、今後に備えた備品の確認の最中であった。

 お楽しみは、財宝の確認であるが………


 ちょっと、不気味だった。


「でも、不思議よねぇ~、野宿には慣れてるのに、古いお屋敷だってだけで、不気味に感じるんですもの………」

「不気味だ………」

「………お前らな、それでも盗賊か。密偵のベック、変装のバルダッサ、運び屋のバドジルに、そしてリーダーはオレ、デナーハだ。みんな、ドラゴンの神殿に手を出した、大物なんだぞ。もっと、威厳を――」

 

 リーダーらしい演説だった。

 それは途中で、周囲への警戒モードにさえぎられる。マヌケに見えても、彼らはドラゴンの神殿から財宝を盗んだ実力者だ。とっさに警戒をとった。


 しかし、何も起こらない。

 しびれを切らせて――不安に負けて、すでにビビリまくっていた密偵のベックが、口を開く。


「………どうしたんだよ、兄貴?」


 幽霊話をしているのだ。少し風が吹くだけで、小動物が木陰を走るだけで、なにかがいると感じても、不思議はない。

 そのほかの可能性に、デナーハの兄貴さんは、緊張していた。


「いや、ちょっと、気配が………」

「幽霊だ………やっぱ、古いお屋敷には、幽霊が………」

「あら~、このお屋敷には、最近までカーネナイの人が住んでたって聞いたけど?」

「オレ、聞いたことある。夜の寒さに負けて、戸口を叩くと、親切なおばあさんが現れて、入れてくれるんだ。だけど――」

「やめい、しゃれになっとらんわ。空を歩く老婆の噂だけで、十分だ」

「気付いたら、焚き火を囲む影が増えてるとか………あれ?増えてる?」


 ひときわ臆病な印象のベックが、気付いた。

 山と積まれた宝石は、これが自分たちの財産だと思うと、誇らしく、ちょっと怖いものだ。

 だが、多くないだろうかと、不思議に思ったのだ。


「なぁ、宝石、多くないか………」

「どうした?」

「………割れてる………ってか、これ、ガラス?」

「あらん、懐かしいわねぇ~、おもちゃの宝石じゃなぁ~い」


 運び屋のバドジルの手柄によって、とりあえず運び出されたが、どこか、抜けていると判明した。キートン商会の倉庫から運び出した宝の半分は、おもちゃの宝石だったのだ。キートン商会の主が、おもちゃと間違えて本物を運び出したことも理由の一つだ。

 ねずみが、そのうちの一つを持ち出したことも、小さな理由の一つだ。


「おもちゃの宝石と間違えるって………」

「まぁ、見た目があんまり変わらないからさぁ、仕方ないんじゃな~い?」

「おもちゃの中に隠す………いいアイデアだと思ったんだけどなぁ~」

「うわぁ~………」


 うなだれる運び屋のバドジルさんと、笑っている2メートルオーバーのお姉さんバルダッサは、丁寧に選別を始める。

 リーダーの、デナーハの兄貴さんは、どうやら区別がつかないようだ。幽霊におびえている密偵のべックは、まともに鑑定しているのか、怪しいものだ。


 新たな売り先を考える前に、本物を見分ける作業が、待っていた。

 その様子を、遠くから見つめる執事さんがいた。


「ガーネックにトドメを刺す材料と思ったが………」


 ここ、カーネナイのお屋敷の執事さんであった。

 主であるフレッド様は、どこから執事服を拝借してきたのかと、疑問を抱いていたようだが、出所はここであった。

 メジケルさんと言う執事さんは、自分に与えられた部屋に、戻っていたようだ。


 その瞬間を、デナーハの兄貴さんが、感づいていたらしい。さすがと思いつつも、心配はしていなかった。


「レーバスが言っていた盗賊どもか………さて、宝石を取り戻せば、フレッド様の有利になるのかな………?」


 ガーネックを追い詰める材料か、主を有利にする材料を探していた執事さんであったが、お着替えに戻ってみると、獲物が集まっていたようだ。

 ガーネックを追い詰め、主を自由に出来るかもしれない手柄が、目の前だ。


 焦ることなく、静かに見つめていた。



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