表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/205

ねずみと、キートン商会の地下室


 お部屋の壁は、ボロボロの、隙間だらけだ。

 ところどころ劣化し、ねずみが出入りする隙間が生まれていた。何かをぶつけたのか、壁にあいた穴は、隠し金庫として利用されている。

 しかし、地下への扉だけは、頑丈な木製の扉である。ねずみでさえ、忍び込めないほど、隙間すきまのない扉だ。


 カギまで、つけてある。

 立ち入り禁止と言う古びた張り紙が、従業員を近づけない工夫だ。鍵も、持たせていないのだろう


 ねずみは、魔法の力にすがった。


 ――ガチャ


 扉が、開いた。


「ちゅうう、ちゅうう」


 ほんとに、開いちゃった――

 

 自分で、驚いていた。

 ねずみは、気合一発、鳴き声をあげたのだが、成功したようだ。額の汗をぬぐう仕草をして、そろり、そろりと、扉へと近づく。

 抜き足、差し足と、四速歩行のねずみが、二本足で、忍び足をしていた。


「ちゅぅ~………ちゅぅ~………」


 そおぉ~っと………そおぉ~っと………


 ひょっとして、下に誰かがいるかもしれない。盗品を管理する人物がいないとも限らず、地下室は、どこかからトンネルでつながっている可能性もある。

 下手をして、下水の通路につながっても、それはそれで、脱出路だ。


「ちゅう………」


 誰も、いないようだ。

 ねずみは、両手を前に掲げて、気配を探った。小さな物音でも、聞き逃すまいと集中する。それ以上に、薄く魔力を流すことで、生き物が発する気配を探ろうとしているのだ。


 ドキ、ドキ、ドキ――


 隣の宝石も、応援している。

 それはもう、ピカピカと、暗闇の階段を照らして、ここに、怪しいやつがいると教えている。これで気付かないのは、よほどのまぬけか、誰もいないか………


「………ちゅぅ~う………」


 気分が、台無しだ。

 非難を含んだ鳴き声であるが、ねずみの気配察知は、すでに終わっていた。

 しかも、いつもよりも、魔法の力を、使いやすかった。 宝石のおかげなのかと思いつつ、ねずみは、振り返る。


 最初こそ、この宝石は、ねずみの周囲を浮遊するだけ、ねずみの感情の高まりに反応して、光を放つだけと思っていた。


 力も、与えてくれるようだ。

 まるで、魔法の宝石だ――と、ねずみはやっと、気付いた。


「………ちゅぅ………ちゅちゅ?」


 お前、魔法の宝石なのか?――


 ねずみの問いかけに、宝石は、後ろを振り向いた。この態度は、誰のことですか?と言うものであり、本当に、意思があるのではと疑いたくなる。


「ちゅぅ」


 ついて来い――


 ねずみは、宝石に命じた。

 深く考えることを、やめたようだ。そして、足音を気にする必要もないと、四速歩行に戻って、ちょろちょろと、階段を一気に駆け下りる。


 宝石も、ねずみと共に、滑り降りる。

 暗闇でも、ある程度は地形を把握できるねずみだが、大きな明りがそばにあるおかげで、はっきりと見える。


 地下に到着したとたん、宝石は、やや高い位置に移動した。

 そして、明るさも、部屋にあわせてくれた。うっすらと、部屋の全体が見えてくる。ロウソクで照らすよりも、明るい。


 不気味な気配がするのは、明るさが、赤みを帯びているところだろう。もしも、ここに魔法の宝石の仲間がいれば、がやがやと、まぶしそうだ。

 そして、ねずみが騎士様のお屋敷に戻るときには、大変だ。ぞろぞろと、空中を浮かぶ宝石を引き連れてのご帰還は、ごまかせるはずがない。


 魔術師組合が、出張ってくるに、違いない。

 魔法の宝石は、魔術師組合が管理する財産であり、魔法使いなら、誰もが欲する宝石だ。そうなれば、気楽なねずみ生活が、終わってしまう。

 それは、避けたい。


 幸い、ここには、見本品として、わずかな品しか残されていないようだ。いくつも倉庫を借りているようなので、盗品はおそらく、そこである。

 ねずみは、棚を駆け上ると、小箱の行列を見つけた。


「ちゅぅ~………」


 ニセモノだ――


 ねずみは、宝箱たちを見つめた。

 宝石の小箱が、所狭ところせましと並んでいる。赤い宝石の輝きの元で、本当に、財宝に囲まれている錯覚さっかくを覚える。


 いや、これは、おもちゃの金銀財宝だ。遊びの、ゲームのための演出だ。

 本来、この小箱の中身は全て、ゲーム用のコインなのだ。ゲームのための、おもちゃの宝石に、おもちゃの金銀財宝。


 合法の賭博では、掛け金の上限が設けられており、子供の小遣こづかいでも楽しめる仕組みだ。

 景品は、おもちゃの宝石を含め、時代遅れの彫像など、子供心をくすぐるようで、微妙だ。

 それでも、ゲームを楽しむことが目的なら、それでもいいのだ。


「ちゅううう~」


 それでか――

 

 探偵を気取って、うなった。


 おもちゃの倉庫は、隠れみのに利用されたのだ。

 おもちゃの景品に隠れて、盗品の骨董品や、宝石などが、並んでいることだろう。売り払うまでの、保管場所だ。


 盗賊が、金銀財宝を手にして、それで終わりだろうか。生活のためと言う目的であるのなら、生活資金に換金する場所が必要である。

 金銀はともかく、骨董品や宝石の類などは、どのようにしてお金に換えるのか。


 販路はんろが、必要だ。


 キートン商会の倉庫は、盗品の保管場所として、ちょうどよいらしい。そして、裏賭博をしているのなら、ついでに、裏オークションをしても、不思議はない。


 ガーネックは、どこまで、手を伸ばすつもりなのか。

 しかし、キートン商会の主は、操られて、終わるつもりはないようだ。そのため、パーティーを開くのだと。


「ちゅぅ?」


 自滅覚悟か?――

 ねずみは、キートン紹介の主が、疲れた顔でつぶやいた言葉を思い出す。


 ――ガーネックめ、待っていろ


 古いだけで、落ち目の商家がパーティーを開いた理由だ。

 この宝箱を、見せるつもりなのだ。

 ニセガネの金銀財宝をパーティーのお客たちに見せ、犯罪行為をしているのだと、招待客に暴露する。


 その結果は――


 ねずみは、考えた。

 キートン商会の主の計画が、うまく進むためには、なにが出来るだろうかと。


「ちゅうう」


 帰ろう――


 ねずみは、頭上の宝石に告げると、地下倉庫を後にした。

 階段は巨大であるが、ねずみにはすべて巨大だ。しかし、人の目ではとらえられないほど、素早いのだ。

 

 もう、扉の前だ。


「ちゅううっ」


 いくぞっ――


 ねずみは、宝石に声をかけると、魔法を発動させた。ねずみの魔力だけでは、とても動かせない巨大な扉が、閉じていく。


 次にこの扉をくぐることは、あるのだろうか。そんな気持ちで見つめるねずみは、地面に落ちていたクラッカーを発見した。


カリカリカリカリ——


 いまは、これで我慢しようと、必死にかじる。運動の後であり、たくさん、魔法を使った後なのだ。


 少し落ち着いたのか、つぶやいた。


「ちゅうううぅう」


 忙しく、なりそうだ——



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ