カウントダウンは、始まっていた
動物になってみたい
そんな、子供の夢のような魔法は、たしかに存在する。
意識を移す、情報系の魔法の一種である。
動物を操るので、召喚獣系統だとも言われる。そのような分類わけは、用途や、術の性質によっていくらでも分類できて、混乱するのが常である。
また、魔法の成否は、個人の資質に左右される。
力自慢だが、細やかな作業が苦手な人物に、針の穴に糸を通すような作業ばかりを続けさせれば、どうなるか。
ぶちきれる。
手先は器用だが、細身も病的と言う人物に重労働をさせれば、どうなるか。
ぶっ倒れる。
逆であれば、問題ないだろう。そうした色々のおかげで、魔法は万能に見えて、全く万能ではないのだ。この認識は、魔法使いでなくとも、知っている。
魔法は、使えないと。
そんな魔法使いたちの頂点のお一人は、シワシワの目を細めて、にっこりと笑っていた。
「おまえら、そろいもそろって、面白いことになったなぁ~………」
森の丸太小屋を前に、長いローブを引きずるミイラ様は、楽しそうだった。
今のお弟子さんたちが、アニマル軍団という、森の丸太小屋の住人になっていたのだ。予想外過ぎて、とても楽しそうだ。
ミイラ様の前には、アニマル軍団が全員、ひれ伏していた。
駄犬ホーネックと、クマさんのオットルお兄さんの耳は、ぺたんと。
ドラゴンの尻尾も、ぺたんと、ひれ伏していた。
この国をはじめ、人にとっては神々と言う扱いのドラゴンも、おてんば娘には違いない。
老婆と言う年齢を数倍生きたバケモノ………偉大なる魔法使いにとっては、教え子の一人である。
大変手間がかかるため、いやでも共にいる時間が長くなる。手間がかかっているために、少しの成長でも、まぶしく思える。
失敗をして、成長するというが……
「まぁ、今回の尻拭いは、自分達でやるしかない………まぁ、いい薬だなぁ~」
怒っているのか、あきれているのか、微妙な時間であっても、油断は出来ない。気付けば、地面から首だけを出した、反省タイムが待っている。
クモの大群が、首の周りでマイム、マイムを踊る時間が始まるのか、ワサワサと、カサカサと、黒光りするヤツらの、『G』による、宴会の特等席になるのか。
もう、いい子になりますから、許してくださいと言いたくなる時間だ。
ただ………すぐに、忘れるらしい。
「安全対策の結界は、ちゃんと発動しているしなぁ………まぁ、成長してるとは、思うんだわ………」
成長しないのは、後先を考えない、好奇心だけだ。
魔法技術としては、それなりの成長がある。そのため、実験を強行しようと、新たな術を自慢しあおうという、無謀を行うわけだ。
素直に、師匠の言葉通りに修行をする。そんないい子ちゃんばかりでは、寂しいものだ。たまにこのような悪ガキ軍団を育てるのだが………
アニマル軍団となっていた。
「ところでなぁ、さっきも言うたが、あんまり動物の姿で魔法を使うと、ヤバイな。その状態で、どれだけ魔力を使ったか知らんが………最後には、衰弱死………かなぁ~」
顔を上げたクマさんは、真っ青だ。
必ず組合に顔を出す必要はなく、目減りしていく財布の重さを悲しみつつ、日々を送っていた。まだ、数日と言うことも、理由だ。
ただ、命のタイムリミットまで、数日かもしれないと思うと、真っ青だった。
「あぁ、しばらくは、何とかなろうな。ホーネックの少ない魔力でも、犬っコロに言葉を使わせる程度じゃ、早々、死なんわ」
ただし、いつまでもこの状態では、カウントダウンが止まらない。止める方法を、唯一知るのはレーゲルお姉さんだ。
だがそのお姉さんの答えは、すでに聞いている。
「自分で、戻ろうとする………戻らなきゃって感じることで戻る………って、ことだから」
気まずそうに、アニマルモードになった仲間を見るレーゲルお姉さん。個人の意思次第という、なんら、役に立たないものなのだ。
そんな助言で戻れるなら、戻っているのだ。
動物とのつながりが強くなりすぎると、動物であることが自然だと感じると、人であったことを忘れてしまう。
ネズリーはおそらく、何か小さな動物に意識を移し、身軽になった楽しさから方々を駆け回り………そのまま、人としての色々を、忘れたのだろう。
むしろ、自由を選んだ。
好奇心が旺盛な学生さんとして、ありえる可能性だ。
ミイラ様は、確認をとる。
「魔方陣でくくっていた動物の大きさは、まぁ、小さかろうと………そうだな、レーゲル」
うなずく、お姉さん。
ついでに、指で小さな円を描く。小鳥か、ねずみ程度しか入れることの出来ない魔方陣である。
最初は、安全を期して、小さなことから、コツコツと。
そのつもりだったのかもしれないし、手ごろな実験材料と言う理由もあったかもしれない。
消費される魔力量は、操る獣のサイズに左右される。
ミイラ様は、どこかを見つめて、つぶやく。
「まぁ、手に乗る、ねずみ程度のサイズなら、一ヶ月や、二ヶ月は大丈夫だ。魔法で物をぽんぽん浮かせたり、調子に乗って、強い力を使たり、せん限りはなぁ………」
まずいだろうなと、全員が感じた。
調子に乗りやすいおバカさん筆頭だ。やらかす人物として、まず思いつく身近な人物と言えば、誰か。
ネズリーである。
自分たちを棚に上げているが、自分たち以外でやらかすのは、ヤツだけなのだ。
強い力に目覚めて、試さずにいられるだろうか、眠ったままの今の状況が教えている。
「ネズリーが、一番最初に眠ったままになってるし………ヤバイわね」
「うん、ネズリー………ヤバイ」
「くまぁ~………」
「危険だと思うワン」
みな、意見が一致していた。