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晩御飯と、仲間達


 そよ風が、部屋の窓から入ってくる。

 

 ひび割れを、やっつけ仕事で修理したらしい窓からは、初夏の日差しが差し込み、眠ったままの少年の顔を焼いていた。


 眠ったままの魔法使いの少年、ネズリーだった。

 まぶしさに、眠っていても目を開けそうなものだが、ネズリーは眠ったままだ。まるで粗大ゴミのようにシーツに包まれ、部屋の隅に置かれていた。


 ここはネズリーの部屋であったが、扱いは粗大ゴミであった。それが仲間と言うものなのか、その一人が、口を開く。


「でよ、そのお屋敷にねずみが出たってんで、呼ばれたんだけどよ」


 オットルは言って、パンを一口かじった。

 一仕事のあとで、午後のおやつと、少し早い夕食を兼ねていたオットルお兄さんだ。

 床に、胡坐あぐらをかいて座っていた。隣の袋紙の中身は、ハムにチーズにと、豪勢ごうせいだ。なんと、デザートにリンゴまである。貧乏学生にとって、なんとも贅沢ぜいたくであろうか。


 臨時収入があったからだ。


みょうだったんだよな~、ねずみよけのまじないを、ねずみが解除したっぽいんだよ」


 騎士様のお屋敷から、依頼があったのだ。


 ねずみが、出たと。


 ねずみよけのまじないが、壊れているのではないかと。

 修行中の身とはいえ、オットルは組合から仕事を任せられる実力は備えていた。魔力は強くないものの、器用であるために、下っ端の仕事は、それなりにこなしている。

 町で見かける魔法使いとは、彼のような下っ端である。


 もちろん、仕事は仕事である。報酬はありがたく、贅沢ぜいたくな食事に変わっていた。

 だが、どうにも、納得できないと、仲間におこぼれを恵んだついでに、相談していたのだ。


「変ねぇ………誰かが芸を教えたってことでも、限界あるし………そもそも、ねずみよけのまじないって、ねずみが本能的に近寄りたくないって思わせるものだから」


 レーゲルお姉さんは、本を読みながら、空中でチーズを切り分ける。

 とても器用な魔法運用である。


 そして、魔法と言う力を扱うからこそ、彼らは不思議と言う出来事に対しては、敏感びんかんだ。目の前で起こっている不思議があれば、興味を惹かれないわけはない。解明してやると、燃えないわけはない。


 ただ、燃えすぎる愚か者も、存在する。


「魔法を解除できるねずみ、本当にいるのだとすれば、誰かが意識を移したとか考えられませんね………こいつみたいに」


 言って、ホーネックはネズリーを指で刺す。

 愚か者の末路だと、指差していた。


 すでに何日だろう、一同、ベッドに横たわる、ねずみ色の髪をした仲間を見る。

 魔法の力のない人にはわからないが、うっすらと、力の気配がある。これは、今も、力は使っているということだ。


 それは、件のお屋敷の、ねずみではないかと言う指摘であった。

 しばし、見詰め合う四人。


 そして――


「「「「まっさかぁ~」」」」


 四人仲良く、笑った。

 オットルお兄さんが、本日出向いたお屋敷に、妙に賢いねずみいるという。それが、まさかネズリーの成れの果てではなかろうか。


 そんな、まさかと。


 まさか、ねずみになったまま、戻れないというバカなことが、あるはずがないと。


「でもね、相手を支配する魔法って、逆に乗っ取られたり、乗り移ったまま、自分が人間であることを忘れたりするって、この本に書いてある………」


「………でもさぁ、レーゲル姉、ねずみだよ?いくらネズリーがおバカさんでも、ねずみに負けちゃうとか、ないと思うけど………」


「ですがフレーデル、その瞬間の気分次第では、分かりませんよ。油断して、舐めきった相手に負ける。調子に乗りやすいネズリーらしいじゃないですか」


「おいおい、ホーネック。確かに、この魔法陣には、ねずみくらいしか………あぁ、あとはゴキブ――」


 オットルお兄さんは、女子二人から、鉄拳を食らった。

 近年では『G』との名前が与えられている“ヤツ”の名前が出たのだから、当然だ。黒光りしてカサコソと台所を歩き回る“ヤツ”の話題を、しかも、食事中にしたのだから。

 気を取り直して、我らが最強の炎使いのフレーデルちゃんが、提案した。


「じゃぁさ、私達も意識転写魔法、実験してみようか」


「ネズリーを元に戻す方法………調べるには、確かにそれがいいかも。ネズリーが失敗した理由が、術との相性が問題だとしてもね」


「あぁ、お料理が上手でも、格闘が出来るわけじゃないとか………だっけ?」


「まあ、大体そんなところです。得手不得手は、個性に左右される。魔法も同じですからね」


「はっ、はっはっ………いいじゃねぇか。ここに四人もいるんだ。誰か一人くらい、ネズリーみたいに、意識を乗っ取られるかも知れねぇけどな?」


 温度差はあっても、フレーデルの提案に、リーダーのレーゲル姉さん、本の虫のホーネック君に、腕白ボウズのオットル兄さんも同意した。


 夕日は、静かに赤みを帯び、そろそろ紫色に近くなった時間帯。魔法使いの卵たちは、新たに挑戦する術式の結果が楽しみで、楽しみで、楽しそうだった。



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