表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/205

オットルお兄さんと、騎士様のお屋敷


 昼食が終わり、午後の仕事が始まろうとする時間帯。青年オットルもまた、ひと仕事をしようと、とあるお宅にお邪魔していた。

 修行の身であるが、簡単なお仕事は、こなす力はある。町で見かける魔法使いとは、彼らのような下っ端の方々だ。


 その仕事の一つが、まじないの維持管理だった。

 本日は、騎士様のお屋敷で、まじないが切れているのではと、確認の依頼があったのだ。

 立派な門構えに立つと、オットルは呼び鈴を鳴らす。


「ねずみよけのまじないがおかしい………そう聞いてきたんっすけど――」


 すぐに、おじさんが現れた。この手のお屋敷にいる、番兵さんだった。

 身分の証には、ローブのほかに、証明書もあった。修行中でありながら、仕事が出来ると、魔法組合が認定した組員に送られる品である。


「あぁ、午後から来るって言ってた組合の………ちゃんと聞いてるよ、入りな」


 番兵までいるとは、自分の世界とずいぶんと違うものだと、きょろきょろと見つめてしまう十九歳のオットルお兄さん。

 石造りの立派な門構えは鉄製の柵で守られ、中に入れば、まっすぐと石畳が続く。

 正面玄関の平屋根の下は、涼しそうな木陰が出来ている。出来れば、そこでお話をうかがいたい、初夏の昼下がり。案内をしてくれる番兵さんは、そのまま木陰を通り過ぎると、内庭に向かった。


 ちらりと、横目に白亜のテラスが見えた。

 優雅にお茶会でも出来そうだ。部屋の窓はカーテンに仕切られている。他人の窓をのぞくのは失礼だと、おじさんの背中を捜すと、不思議そうに、こちらを見つめていた。


「魔法使いさんだと、こういったお宅は見慣れてるんじゃないのかい?」


 年配の番兵さんは、おかしそうにたずねる。この道一筋といったおじさんだ。そのため、魔法使いのことも、それなりに知っているようだ。お屋敷に興味津々の子供のようなオットルの仕草が、おかしいらしい。


 魔法の使い手は、数が少ない。そのために、貴族様や騎士様のように、選ばれた人々と言う分類なのだ。

 実際に、そういった方々との付き合いの割合は、とても高い。貴族のお宅に招かれ、助言を、旅の共をと願われることもあるのだ。


 確かにそうなのだが、下っ端の下っ端には、縁のないこと。オットルお兄さんは、愛想笑いでごまかした。


「あぁ、奥様だ」


 上品に笑みを浮かべる女性と、隣には庭師だろう若者もいた。

 オットルは改めて身分を明かし、そして、説明を受けた。

 まずは、噴水近くの排水溝を、のぞいた。


「っかしいなぁ~………お屋敷のまじない、ちゃんとしてますよ」


 噴水付きのお庭など、普段は縁がないオットルお兄さんだが、魔法のこととなれば専門家である。普段の口調になりかけ、やや言葉をただした。

 起き上がりながら、続ける。


「ねずみが入ったのなら、仕組みを知って――」


 いいながら、まさかと考え込む。

 偶然、ねずみがまじないの隙間すきまからお屋敷にもぐりこむ。

 

 ありえる話だ。

 だが、それはまじないが古くなった場合で、まじないを新しくする時期が来たという合図だ。

 香水であれ、刻み込んだ文字であれ、劣化し、風化し、効果は薄れるのだ。魔法もまた、同じことだが、そうではなかった。


 確信がないために、オットルの言葉は途切れたままだ。奥様と番兵さんと、庭師のお兄さんが不思議そうに言葉の続きを待つ。

 オットルは、今は結論だけ語ろうと、気持ちを切り替えた。


「とにかく、効果が切れているわけではないようです。侵入者の件は気がかりですけど、出入りしただけで、壊れるはずもありませんし………」


 分かっているだろうが、オットルは一応、確認をした。

 下水の清掃などで、排水溝を開閉することもある。だが、その程度では、壊れないつくりになっている。それが、魔法の品なのだ。


 それは、お屋敷の皆さんも知っているはずである。

 強盗が入り込んだという。確かに気になる話でありながら、石を動かした、そのためにまじないの効果が切れるというものではない。

 まじないを施した石は、魔法の力、仕組みを知らなければ動かせないのだ。強盗が魔法の力を持っていた可能性もあるが、ねずみよけのまじないを壊す意味がない。


 しかも、壊したのではなく、戻している。

 では、どういうことか。


「とりあえず、他のまじないも見て見ましょう」


 下水と鉄格子で仕切られている場所は、噴水わきだけではない。今は言われたことだけをしようと、疑問はそっと胸にしまうことに決めたオットルお兄さんだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ