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ひとまずの、解散



 赤毛の小さな女の子が、尻尾をパタパタとさせていた。

 例えではない、小さなお尻からドラゴンの尻尾が生えているのだ。赤毛のロングヘアーの女の子、フレーデルちゃんは、幼子モードに戻っていた。


 興奮が抑えきれない瞳が、輝いていた。


「サーカス、また来るの?」


“ヤツラ”という、襲撃者とのじゃれあいが、楽しかったようだ。


 それは、人々にとっては災いだった。

“本来の姿”で遊んでよい。そんな相手など、初めてだったのだ。今にも探しに行こうというワクワクの塊が、レーゲルお姉さんの腕に捕らえられていた。

 解き放たれれば、ドラゴンが町を襲うのだ。


 あそぼう――と


 銀色のツンツンヘアーのお姉さんは、焦っていた。


「そんなに来られてたまるもんですか――っていうか、探しにいっちゃだめだからね、冗談じゃないからね?」


 話を聞いているのか、大変不安だった。一応、仲間を傷つけないように気をつけているはずだ、ドラゴンモードに変身するときは、距離をとっている。普段の生活は、幼子の姿でもある。


 産毛が残った尻尾がパタパタと、元気いっぱいだ。

 この調子で街へと突撃されれば、災いである。マッチ箱に突っ込む子犬の勢いで、ドラゴンが家屋を破壊してしまうのだ。悪気があるわけではないが、ドラゴンとは、知性を持つ自然災害と例えられるとおりに、災害なのだ。


 執事さんが、笑っていた。


「ははは、皆様、そろって里に遊びに来たものです」


 死に神です――

 そのように自己紹介をされて、誰も異議を挟まないだろう執事さんが、遠い目をしていた。かつてのお祭り騒ぎを思い出しているのだろう。


 目が、死んでいた。


「ははははは、ドラゴンだもん、だって、ドラゴンだもん」


 スレンダーなメイドさんも、遠くを見ていた

 はっきりと説明されたわけではないが、同郷らしい。そして、本日の襲撃者という“ヤツラ”も、同郷らしい。人間離れした実力者であった、並みの人間であれば、いいや、魔法使いすら相手にならないだろう。


 相手が悪かった、雛鳥ひなどりドラゴンちゃんが相手で、敗北したわけだ。


 なぜか散り散りになって暮らしている様子だが、その元凶が、目の前のワクワクした子犬ちゃんを見て、察せられる。


 赤毛のロングヘアーのお姉さんが、苦笑していた。


「まぁ、それは別種?っていうのかな~………けど、そっちから遊び相手ができたら、探しに行きたくもなるよ。あそぼう――ってね?」


 ベランナお姉さんは、20歳にまだ届いていない、大人の女性というには幼いが、少女と言うには立派なスタイルのお姉さんだった。

 あくまで、見た目だけだ。


 その正体は、ドラゴンである。7メートルの子犬という印象のフレーデルちゃんの、実のお姉さんである。

 人モードでは5歳児に見える姿のフレーデルちゃんに対して、では、ほぼ大人と言う年齢の姿なら、どれほどの巨体になるのか、確かめたくもない。


 スタイルのよいお姉さんモードで、笑っていた。


「相手が強ければね、ついつい、本気を出しちゃうっていうか、手加減を忘れるって言うかね?」


 ねずみを追いかけて、すこし疲れていたのが、よかったらしい。

 相手の力量を図る意味でも、ねずみの活躍は、小さなものではなかったらしい。この言葉で、執事さんとメイドさんの疲れが、更に増えたようだ。


 そして、ねずみへの期待が高まった。


「ねずみ殿、お見事でした」

「ははは~、ほんと、ありがとうね~」


 偶然だったが、ねずみに頼ったことが正解だったと、お疲れの執事さんとメイドさんが、ねずみへ感謝の言葉を送っていた。

 次も、よろしく——と


 犬耳メイドさんは、腕を組んでいた。


「傭兵の里の民か………人の姿をした獣人と言われているが、なるほど、われ――私でも苦戦しそうだ――です」


 銀色の毛並みの犬耳メイドさんは、すこし楽しそうだ。ロングスカートのメイド服では、パタパタと動く尻尾は隠せていない。

 しかし、人間の枠組みである。


 人間の枠を踏み越えたミイラ様が、笑った。


「そろそろ日も暮れる、レーゲルや、みんなを送っていけや」


 ミイラ様が、命じた。

 年下の恋人君をはべらせ、幼子ドラゴンちゃんを抱きしめていたお姉さんは、もちろん従う。夕方には少し早いものの、子供達は町へと返さねばならない。


 空を飛ぶカーペットに乗ったお嬢様がおいでのために、もう少し遅くとも問題はないだろうが、家に帰る時間には違いない。


 お子様達は、まだ遊び足りないようである。


「サーカス、また来るかな?」

「サーカスじゃありませんわよ」

「ねずみさん、帰りますわよ」


 さすがは、好奇心が旺盛おうせいなお年頃である。お嬢様ぶっておいでのヘイデリッヒちゃんも、もっと知りたいという気持ちを隠せていない。しかし、危ないことをしないと約束があるために、しぶしぶ従うのだ。


 駄犬が、活躍した。


「魔法使いになるのも大変なんだワン。ここから先は、大人たちに任せるんだワン」


 本来の自分も修行中の魔法使いであるが、すっかり忘れている、駄犬である。


「くま~、くまくま、くま~」


 オットルというクマさんの言葉は、だれも分かるまい。

 ただ、しぐさから、また明日もおいで――とでも、言っているように感じる。何度もやり取りをしていると、伝わるのだ。


 白い毛玉も、お返事をしていた。


「にゃ~ご、にゃ~ごぉお~」

「そうね、リリーちゃん、皆さんにごあいさつですよ?」


 大きなリボンのお嬢様にも、伝わったことだろう。おそろいのリボンのお友達を抱きしめて、クマさんにごあいさつをしていた。

 空を飛ぶ魔法少女ではないのだ、森を抜ける陸路は、それなりのお散歩コースだ。


 子供なら、1時間では足りないのだ。


 一応、魔法使いの側の師弟コンビもいるため、道に迷うこともないだろう。まじないによって、森を出るなど、簡単であるはずだ。


 一刻も早く離れようと、おっさんが震えていた。


「おおおお、おぼっちゃま、ここは危険です。ははははは、早く――」

「おちつけ、師匠」


 ドラゴンの恩恵を受けることで、上を目指そう。そんな野望を抱いていたらしい中堅魔法使いのおっさんは、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

 一方のお坊ちゃまは、冷静だった。


 当然のように、白いお猫さまを抱いたお嬢様に、腕を奪われたためだ。恋人のデートの続きと言う気分で、大きなリボンのお嬢様は、幸せそうだ。

 つかまったお坊ちゃまは、遠い目をしていた。


 同じ瞳の少年同士、目が合った。


「大変そうですね」

「………はい」


 少年イードレの腕も、奪われた。


「イードレ君、じゃぁ、お姉さんが送っていくね」

「ボク、森林保護隊なんですけど………いえ、いいです」


 確保された彼氏君に、選択肢などあるわけがない。面倒ごとは面倒ごととして押し付けられて、予想外という犯人の乱入に始まり、武器の破壊に終ったのだ。


 探すという手間を考えれば、楽なのだろうか


「レーゲルや、ほれ、忘れもんだ」


 ミイラ様が、壊れた武器の破片を浮かばせた。

 レーゲルお姉さんは、あわてて手を差し出し、すっと、その上に破片が落ち着く。本来なら、選ばれた方々しか手にできない、一般の魔法使いでは、目にすることすらできないという武器らしい。

 探せという、ムチャなご命令は魔術師組合の組長様からのムチャだった。

 上回るムチャが、目の前だ。


「なぁ~に、残りも見つかるはずだ、なぁ?」


 ミイラ様は、シワシワな目を、シワシワとさせて微笑んでおいでだ。

 意味するところを察することができなければ、弟子などやっていられない。レーゲルお姉さんは涙目で、破片を手に取った。


 伝言も、任されたのだ。

 それが、涙目の理由である。伝言を受け取った魔術師組合の組長様が、どのような反応をするのか………

 受付嬢たちも巻き添えにしようと、お姉さんは決めた。


「さぁ、ねずみさん、行きますわよ」


 空に浮かんだオーゼルお嬢様が、手を差し出した。

 気付けば、宝石の皆様が集まっていた。先ほどまでいなかったというのに、まさに魔法少女の所業である。

 ねずみは、浮かび上がった


「ちゅぅ~………」


 お辞儀をして、紳士を気取っていた。

 そして振り返って、改めて仲間たちへと、別れの挨拶だ。


「またね~」

「お嬢様、また明日だワン」

「くま~、くま、くま~」


 赤毛の幼女と言う雛鳥ひなどりドラゴンちゃんに、駄犬にクマさんにと、順番に声をかけていた。


「あんた、こっち側でしょうに――」


 レーゲルお姉さんのつぶやきは、だれも気にしない。耳に入っても、アニマル軍団の仲間と言う人しかないだろう。

 魔法使い側として、騒動を治める側だとは、だれも思うまい。


 ねずみなのだ。


「ちゅうぅ、ちゅうう~」


 旅立ちを気取って、手を振っていた。




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