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ねずみ VS ヤツラ


 草原に、銀の狼が現れた。


 遠くからでも、夏の太陽がまぶしく輝く季節である。いや、季節に関係なく、銀色の毛並みは輝いている。カーネナイのお屋敷に預けられている、とある領主様のパーティーに乱入した、侵入者の犬耳さんだった。


 草原に、足を踏み入れていた。


「………?」


 銀色の毛並みはふさふさと、涼しげな草原の風にあおられている。

 メイドの衣服を身につけているため、ロングスカートのため、尻尾はうまく隠れている。カチューシャも、目立つ犬耳を隠す手助けをしている。

 今は、隠しきれていない、ぴくぴくと、些細な物音も聞き逃すまいと、忙しそうに動いていた。

 小さな鳴き声すら、聞こえたはずだ。


 ねずみの、鳴き声だ。


「ちゅぅうううううっ~」


 助けてくれぇえええ――


 言葉が伝わらなくとも、伝わっているだろう。ねずみの必死の形相と、追いかけられている様子から、伝わるだろう。

 3人組が武器を手に、ねずみを追い掛け回していた。


「おのれ、ちょろちょろと――」

「ちっ、まるでねずみのようにすばしっこい」

「だって、ねずみじゃん?」


 やりが輝き、剣がうなり、そして、ナイフが風を切る。


 真夏もお昼を少し過ぎ、それでも暑い時間帯はまだ続く草原において、ねずみと3人組の対決が始まっていた。

 犬耳メイドさんが固まっても、不思議はない。


 そして、レーゲルお姉さんも、戻ってきた。


「………なにこれ――」


 色々と面倒を押し付けられて、やっと戻ってきたという丸太小屋の目の前が、不思議となっていた。

 なお、胸元には、哀れな生け贄が抱きしめられていた。


「戦ってますね………とっても小さい何かと………あぁ、お仲間さんですか」


 観察力は、すばらしいようだ。

 イードレ君と言う少年は、ねずみの苦境を察したらしい。しかし、自らは何もできない、ただ、お姉さんに連れられるままに、連れられてきた少年なのだ。

 レーゲルお姉さんが魔術師組合の組長様に命じられ、面倒ごとを押し付けられた帰り道、救いの天使に出会ったのなら、捕らえるのは当然なのだ。

 彼氏なのだから。

 15歳らしい、将来は美青年になるだろう、腹立たしいことである。


 そして、哀れである、お姉さんに捕まったのだ。


 冷静に、3人組を観察していた。


「犯人さん――見つけちゃいましたね?」

「宝物殿の侵入者――だったよね、イードレ君がいてくれたおかげかな」


 彼氏君は、冷静だった。

 一方のレーゲルお姉さんは、現実を直視することを拒んだらしい。そのまま手を引いて、丸太小屋メンバーがお茶会をしている現場へと向かった。

 巨大な丸太をテーブルに、そしてイスも丸太という、森のお茶会にはふさわしい賑わいへと、向かった。


 ねずみは、鳴いた。


「ちゅぅう、ちゅちゅぅぅううううう」


 何かを、叫んでいた。

 助けを求めていると、その顔を、涙目を見れば気付けただろう。人間の視力には限界があり、叫び声すら、聞こえたか怪しいものだ。

 犬耳メイドさんに、レーゲルお姉さんと彼氏君までそろったのだが、そそくさと見物席へと向かっていった。


 演目の邪魔をしないための、気使いだった。


 ねずみ VS 3人組


 草原では、対決が行われていた。

 剣が舞えば、ねずみは飛び。やりの連撃に、ねずみは踊る、そしてナイフが接近すれば駆け上がり、パンチの動きを馬とびに、相手の背中を駆け下りる。


 見事に、逃げ続けていた。


「………さっすが、ねずみくんだ」

「お見事です、ねずみ殿」


 メイドさんと執事さんが、応援していた。


 ねずみくんなら、へ~きだよ~ ――

 ご武運を、ねずみ殿 ――


 バトル開始の、合図だった。


「く、当たらぬ、当たらぬ………」

「おのれ、ちょこまかと、ねずみみたいなヤツだ」

「ねぇ~、慣れない武器なんかやめて、拳でやろうよ。俺たちの拳は、すべてをくだくんでしょぉ~」


 約一名、飽きてきたようだ。

 ナイフの攻撃は、ほぼパンチと言うことであっても、ねずみサイズには岩石の落下に等しく、威力は考えたくもない。

 人間のパンチであっても、直撃すれば岩石に押しつぶされた犠牲者と言う惨劇になってしまうのだ。


 食らうねずみではない。


「………ちゅぅ」


 ふっ――と、笑った


 頭上の宝石も、ねずみの心を映し出す鏡のようにピカピカと挑発していた。やんのか、やんのか――と、ボクシングポーズを決めている相棒のようだ。


 仲良く、空中に浮かび上がっていた。


 おかげで、人間の目線に近い。そして、客席のみんなにも見えているようだ、ねずみの姿は豆粒より小さくとも、輝きが教えてくれる。

 何より、翻弄される3人組が教えてくれる


 ねずみが、有利だと。


「ねぇ、オットル………“ヤツラ”って人たちよね、あの3人組」


 バトルシーンを横目に、レーゲルお姉さん達は、丸太のテーブル付近へと到着した。

 巨大な丸太を輪切りにしたままのイスとテーブルに、ティーセットとお子様達が散らかっている、草原のティータイムだ。


 あるいは、演目の特等席だ。


「くまぁ~、くま、くまくま………」


 クマさんが、お返事をした。

 当然のように、隣には年下の彼氏君も座り、メイド服の犬耳さんは気遣ったのか、少し離れた場所に座った。


 ティーセットが、差し出された


「くまぁ~、くま、くまくま、くまぁ~」


 まぁ、落ち着けというしぐさである。

 それ以外は不明ながら、ナイフのような巨大な爪で指差された方角が、ねずみとバトルの現場である。


 お姉さんは、紅茶を一口すすった


「うん、そうだね――」


 目にも留まらぬ、バトルシーンであった。


「無理よね~………ドラゴン様と出会う前に、ヤツラを探せ、捕らえろ――だなんて」

「われ――私もそう思う。人の姿をした獣人とも言われているのだ、無理なのだ」


 犬耳さんが、レーゲルお姉さんの独り言に同意していた。

 どちらも、無理難題という命令を、与えられたようだ


 ドラゴンは、楽しい事が大好きだという。それは、退屈している若者と言い換えてもよい、戦いを挑む人々がいなくなって久しい中、武器を手に現れてしまえば、喜んで相手になるだろう。


 巻き添えは、町の危機だ。


 そのために、ドラゴン様に見つかる前に、何とかしろ――という無茶な注文を受けていたわけだ。


 執事さんが、そっと背後に現れた。


「ヤツラにも困ったものだ、夢をあきらめきれぬとは――」


 あきらめた執事さんが、静かだった。

 裏社会に足を突っ込み、静かに生きていたつもりの、死に神です――という印象を隠せない執事さんが、静かだった。

 すでに、手遅れなのだ。


「ははは~、無理だった、やっぱ、無理だったよ~」


 メイドさんは、笑っていた。

 これから起こるであろう惨状を思って、ちらりと巨大な尻尾を見つめる。草原の中心で、ちゅ~、ちゅぅ~――という鳴き声が聞こえるが、たいした話ではない。


 何とかしてくれる気配があって、ねずみくんに任せたわけだ。


 時間は、ドラゴン様の気分次第なのだから。


 いや、手遅れのようだ


「ねぇ、ねぇ、おねえちゃん」


 雛鳥ひなどりドラゴンちゃんが、駄々をこねていた。

 尻尾をパタパタと、興奮が抑えきれない様子は、うずうずと身を縮めている様子からも伝わってくる。

 イタズラな子猫が、目の前にトカゲが現れて、今にも襲いかかろうとしている様子である。


「ん~………そろそろいいかな?」


 巨大な尻尾を出現させていたお姉さんは、少し様子を見つめてから、許可をした。

 本人も尻尾が出ている、遊びたい気持ちは妹さんに負けていないベランナお姉さんというドラゴン様だが、妹さんに譲るつもりらしい。


 ”わぁ~いっ”


 フレーデルちゃんは、輝きだした。

 ぴょ~ん――と、クマさんの背中からジャンプをして、草原の中央へ降り立つ。

 周囲に、魔法の輝きが満ちる。赤い炎が全てを焼き尽くす錯覚は、魔力の圧力を受けた錯覚だ。


 目を開けると、子犬がいた。


「………ははは、いってらっしゃいませ」

「………ははは、遊んでおいで~」


 ドラゴンが、現れた。

 フレーデルちゃんの、本来の姿である。

 頭から尻尾までは7メートルほどと、そして、全体的に丸っこい印象を受ける。巨大なキバも角も丸っぽく、しぐさから、子犬のようなドラゴンちゃんである。

 尻尾を、元気にふっていた。


“あそぶぅ~っ”


 元気いっぱいに、駆け出した。

 産毛が生え残っている尻尾を、まるで子犬のようにパタパタとさせて、そのサイズは7メートルである、突撃を食らえば、大変だ。


 草原は、大混乱だ。





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