森の小屋と、翌日のお茶会 3
真夏も、まだまだ始まったばかりと言う今日この頃、森の丸太小屋では、にぎやかなお茶会が開催されていた。
メイドさんが、司会を勤めていた。
「………とりあえず、ゲストの2組の皆さんから、改めてお話を聞いておこうかな?」
おさらいが、始まった。
175センチと、平均男性と変わらないロングヘアーのメイドさんは、ゲストであるヤビッシュ家の三男坊と言うウルナスお坊ちゃまと、大きなリボンのお嬢様を見つめていた。
すぐに、マントの2人組に標的が移った。
「下水をうろついていたって話、いつもの噂だと気付かないからね~………ヘイデリッヒちゃんは、ホントにすごいと思うよ」
メイドさんの声に、ヘイデリッヒちゃんは自慢げに胸を張った。明るい灰色のポニーテールが、犬の尻尾のようで可愛らしい。
関係なさそうだと、ねずみはカリカリカリ――と、仲間の作った森の木の実クッキーをかじっていた。
お嬢様たちと同じく、そろってリスのようである。
手をつけていない人物は、震えていた。
怪しいメンバーの一人として呼ばれたのだ、これが最後のお茶会ではないかという恐怖で、おっさんは震えていた。
カップに目線を落として、ガタガタと、震えていた。
「お、おおおお、落ち着きましょう、ぼっちゃま、ここは冷静に、冷静に――」
「落ち着いてくれ、師匠」
「あのおじさん、言ってましたの。だからお使いに行ってもらってましたの」
「にゃ~ごぉ~」
「へへ、旦那様から、お嬢様の願いに答えるようにと………へい」
「遅くに生まれたからって、甘いんだよな~………」
騒ぎの温度差はそれぞれに、誰もが、犯罪という役割とは縁遠く感じる。ねずみは、そんな姿を見かねて、浮かび上がった。
「ちゅ~、ちゅうう、ちゅうううう、ちゅうう?」
両手を前に出して、まぁ、まぁ、落ち着けよ――と、なだめているように見える。
ヘイデリッヒちゃんが集めた噂の原因たちが、この部屋に集まっていた。空を飛ぶ女の子に、下水を移動する謎の人々も、多くがこの場のメンバーだ。
下水を、怪しい連中がうろつく――
そんな噂はいつものことであり、誰も気にしていなかった。下水の幽霊もその1つであり、赤い輝きに反応するのは、わずかだった。
大騒ぎの魔法関係でさえ、遠くに忘れ去られている。ドラゴンが夕焼け空を飛んでいたという噂を前に、全ては些細なことなのだ。
気付いたヘイデリッヒちゃんは、すばらしい分析力の持ち主なのだ。
メイドさんは、改めて問いかけた。
「旅行代理店だっけ………ね、2組のみなさん?」
お嬢様を主とするマントの二人組みと、宝石を求めて訪れた師弟コンビは、偶然に出会ったという。
では、その情報はどこで手に入れたのか。
「へい、情報屋さん………っていうか、旅行代理店のヤツがいましてね?」
「師匠も、旅行代理店からプランをもらったと――」
旅行代理店が、答えのようだ。
ねずみは、鳴いた。
「ちゅぅ、ちゅうう、ちゅうう~………」
ふっ、どうやら、出番ですね………――
空中に浮かび上がって、あごをさすっていた。
2組を呼び寄せたのは、そのきっかけは間違いなく、旅行代理店と言う人々だろう。確かな出所の情報は、表の顔があるほど信頼が増す。旅行プランに宿泊先やその紹介料などが込みこみで、商売になるのだ。
ドラゴンが出たという、その噂だけで、確かめるために足を運びたい人々は、目の前の皆様だけではないはずだ。
本当に、それだけだろうか――
ねずみは、あごをさすっていた。
「ちゅう~、ちゅうううう~、ちゅうう、ちゅう~」
私が思いますに~、この事件には裏があるようですな――
そんな名探偵を気取っていた。
しかし、ねずみには覚えがある。あえて犯行現場を見せ付けて、目立たせる。そして、注目を集めている間に、本当の犯行が行われるという事件の解決に、関わったのだ。
銀行強盗と言う、思い出だ。
「ちゅう~、ちゅうう、ちゅううう」
得意げに、胸を張っていた。
仮面の銀行強盗の事件を、思い出していたのだ。表で騒ぎを起こして、ウラでこっそりとお金を運んでいたのだ。
結果は、ご苦労さんという、皆さん仲良く捕まったわけだが、有効な手口であったのだ。ねずみがいなければ、解決していなかっただろう。
そう、ねずみが活躍した、最初の事件だ。
「ねずみさん、どうしたの?」
「浮かびたいの、私だって浮かぶよ?」
「ちょっ、おとなしくしてなさい………ねぇ、犬さん?」
「………わん」
誰にも、伝わっていなかった。
それでも、伝えたい結果は、1つしかない。そこだけは、確かに伝わったメイドさんがいた。
「そうそう、ここに関係者がそろっているからね、旅行代理店の人を捕まえて、ウラがないかって、あまり騒がないでねってお話もしないと………ね?」
ねずみを見つめて、微笑んでいた。
ねずみも、見上げていた。
「ちゅ~、ちゅううう、ちゅ~」
この私に、お任せあれ――
紳士を気取って、お辞儀をしていた。




