森の小屋と、翌日のお茶会 2
森の中に、草原が現れた。
丸太小屋の前に広がる草原は、人々を驚かせるには十分な、いきなり現れる広々とした空間である。
草原と言うには少し大げさだが、広さは邸宅があっても不思議ではない。丸太小屋も、10人ほどが余裕で過ごせる広さがあった。
部屋の中も、当然広い。作ったクマさんが、余裕で給仕が出来るほどの広さで、ちゃぽちゃぽと音を立て、紅茶を注いでいた。
まるで、執事のようだ。
「くまぁ~、くまくま、くまぁ~」
巨大なナイフのような爪で、見事に紅茶を注いでいた。
木の実や薬草や、草原の花びらも混じっているらしい。森の恵みを魔法で加工した、不思議な味わいの紅茶の香りが、丸太小屋を包んでいく。夏も暑い季節ながら、不思議と小屋は涼しく、温かな紅茶はむしろ、ありがたいのだ。
湯気を立てる紅茶を前に、おっさんがうろたえていた。
「く、くくくく、クマが、しゃべったぁあああ」
言われるままに席についていたおっさんは、おびえていた。
なお、クマさんはしゃべってはいない。おっさんの耳には、クマの鳴き声だけで、人間の言葉に聞こえるようだ。
そろそろ、精神が危険らしい。
「落ち着いてくれ、師匠………クマは、しゃべらない」
「いや、未来の旦那様、お茶を注ぐことも出来ないッスよ?」
「………そっか、ここはもう、人間の世界じゃないんだ………」
マントの二人組みはツッコミを入れていたが、一方、大きなリボンのお嬢様は嬉しそうだ。
「ふふ、絵本のお茶会みたいですわね」
「にゃ~ごぉ~」
おそろいのリボンの白い毛玉を抱きしめて、目を輝かせていた。
ドラゴンと、お友達になりたい――
そんな夢をかなえるために訪れた街で、恋人?と再会した嬉しさと、そして、本日はホンモノのドラゴンと出会うことができたのだ。
しかも、お茶会に参加したのだ。
絵本のように、森の丸太小屋ではクマさんがお茶会の準備をして、待ち構えていた。絵本の中に入ったかのような時間に、満足そうだ。
とっても上機嫌に、お坊ちゃまの隣で微笑んでいた。
慣れているお子様達は、優雅にお茶をすすった。
「ありがとう、クマさん」
「クマさんのお茶、不思議な香りね………」
「ふふふ、お茶会のお誘い、ありがとうね、クマさん」
好奇心が旺盛な子犬のようなポニーテールちゃんに、優雅なご令嬢を気取るツインテールちゃんに、そして、宝石をはべらせるオーゼルお嬢様はそれぞれに、クマさんにお礼を言った。
主人は、クマさんになっていた。
お子様達の目においては、家を取り仕切る人物が主と言う認識なのだろう。それは、執事さんの言動も、理由である。
死に神です――
そのように自己紹介をされても納得の執事さんが、クマさんの隣に立っていた。
「では、クマ殿、私はここで――」
「くまぁ、くまぁ~」
恭しく、執事さんが挨拶をし、クマさんは、手をパタパタとして、照れくさそうにしている。執事さんは、赤毛の姉妹の元に下がっていた。
赤毛のロングヘアーの姉妹は、大きな丸太のソファーの上でのんびりとしている。どこから持ってきたのだろう。カーネナイのお屋敷でホコリをかぶっていた布地や色々で加工をしたクッションの上で、くつろいでおいでだ。
リボンのお嬢様は、不思議そうに見つめていた。
「お姉さんのほうも、ドラゴンさんなの? 執事さんも?」
「にゃぁ~、ごぉおお~」
「いや、魔法の気配がわからない………不思議だ」
「しししし………死に神だぁ~、ドラゴン様が死に神を執事にして………あぁ、夢なんか見るんじゃなかったぁ~――」
大きなリボンのお嬢様と、恋人?のお坊ちゃまとお師匠様は、ひどい温度差だ。
呼んだ本人である駄犬は、のんきに床に伏せていた。
「ちゅうっ、ちゅうう、ちゅううう?」
ねずみは、鳴いた。
駄犬を見上げて、問いかけていた。
おい、そろそろ呼んだ理由を話せよ――とでも、問い詰めているようだ。腰に手を当てて、仲間内であるための気安さだった。
クマさんは給仕に忙しく、駄犬はこの有様だ。雛鳥ドラゴンちゃんなど、当てにするほうが間違いだ。ドラゴンモードから、5歳ほどのお子様モードに変身してくれて、被害の可能性がなくなったことは、むしろありがたい。
丸太小屋の初期メンバーの、残る一人が現れた。
「こら、そんなところでいると、踏んじゃうでしょ――」
あきれたような、お姉さんが現れた。仲間内のリーダーである、銀色のツンツンヘアーの、レーゲルお姉さんの登場だ。
お茶菓子を持って、そして、隣にはメイドさんがいた。
「さてさて、みんな、すこしは落ち着いたかな~………ドラゴンちゃんがご挨拶で、ビックリしたと思うけど――」
ロングヘアーのメイドさんだ。
ちらりとドラゴン姉妹を見つめたが、問いかけるのは間違いだと、よくご存知だ。産毛の生え残っているおしっぽが、子犬のようにパタパタと忙しそうだ。
あやしている赤毛のお姉さんは、メイドさんの視線に気付いた。
ドラゴン姉妹が、人間モードでくつろいでいるのだ。その恐怖を理解しているメイドさんは、ふざけながらも、とっても気遣いで大変だ。
改めて、ご挨拶だ。
「ドラゴンさんから、改めてのごあいさつでぇ~す………で、いいんですよね、お嬢様」
メイドさんが、ふざけた気分を出しながら、振り向いた。
専属の執事さんを背後に、最強の地位の人物であると、座る位置からも示していた。そして、言葉通りに、最強の種族のお姉さんである。
「ん~、お師匠様も、スキにしていいって話しだし………メイドさん、進めちゃって?」
手をひらひらと、紅茶を片手にのんきなお姉さんだ。
スタイルがとてもよく、そして、赤毛のロングヘアーから、フレーデルが成長すれば同じ姿になるだろう、そっくりだ。
見て分かるため、震える声が、1つ――
「あ、あぁぁあ、ドラゴンが………まさか、ドラゴンが2体も………」
中堅魔法使いのおっさんは、おびえていた。
木の実と薬草と花びらの紅茶の香りが、にこやかな空間に広がっていた。




