森の小屋と、翌日のお茶会 1
木陰とは、真夏の時期には楽園である。
それが、見渡す限りの木々であれば、頬をなでる風も心地よく、とても過ごしやすい別荘地と言ってもよい。
丸太小屋を目ざして、ねずみは鳴いた。
「ちゅぅ~、ちゅうう、ちゅ~、ちゅ~」
お嬢様方、こちらでございます――
どこかのクマさんを真似たような、執事を装った鳴き声であった。軽くお辞儀をしながら、片手を胸の前に、片手で目的地を指し示していた。
空中で、指し示していた。
「ね、ねねね、ねずみ殿のご案内とは、はっははは、なんと不思議な」
「師匠、すこし落ち着きましょう。せっかくの申し出ではありませんか………ですよね、お嬢さんたち」
「ん~………たぶん」
「そうだと思いますわ。ねぇ」
「うん、宝石さんたちも言ってるし………ほら」
ピカピカと、輝いていた。
森の中でも、とっても明るい。ねずみの背後にいる宝石だけではない、オーゼルお嬢様の周囲では、100を超える宝石の皆様が、とってもにぎやかだった。
丸太小屋への訪問は、すでに日常という今日この頃だ。
ねずみがお世話になっているお屋敷のお嬢様、オーゼルお嬢様などは、魔法のカーペットで空を飛ぶのだ。
宝石の群れに連れられ、移動をする魔法少女なのだ。
その影響か、ねずみやティーカップのような軽いものなら、浮かび上がらせる程度の力を手にしている。
自らを浮かび上がらせているツインテールちゃんにいたっては、宝石の影響を受けたとしては強すぎ、元々の力なのだろう。
公園での遭遇から、翌日のお昼を前に、ねずみはお嬢様たちを丸太小屋へと案内していた。
駄犬ホーネックからの、伝言のためだ。今回の出来事に関わった皆様を、丸太小屋へと案内するように――と
宝石もセットで、そして、ドラゴンの噂に引き寄せられた皆様も、セットだった。
「ここに、ドラゴンが………ね、リリーちゃん」
「にゃ~ご、にゃ~ごぉ~」
白い毛玉のバカ猫様――リリーちゃんは、暴れていた。
12歳の女の子では、バランスが崩れる巨体であるが、空中ではなすがままである。恋人?のお坊ちゃまの仕業ではない。
ねずみは、ちらりとその騒ぎを見ていた。
「ほらほら、猫ちゃん、じっとして~」
「フレデリカさん………楽しい?」
「あらあら、迷子になったら大変ですし――」
お子様達が、ほほえましい。
自らを浮かび上がらせ、その上に白い毛玉と言うリリーちゃんまで、浮かべる魔法の才能は、まさに嫉妬を覚えてもいい。オレンジのツインテールを揺らして、フレデリカちゃんがお姉さんぶっていた。
マントの2人組は、ヒソヒソと語り合っていた。
「(ヒソヒソ――)なぁ、ここから先は、失礼のないようにな」
「(ヒソヒソ――)お、おれ………自信ないよ、帰っていい?」
不安そうだった。
ねずみは、鳴き声で、しぐさで示しただけだ。
丸太小屋が、呼んでいる――と、オーゼルお嬢様に伝えただけだ。
なぜか、ねずみの言葉は通じるらしい。しぐさで、鳴き声で、なんとなくだが、分かるらしい。
正解であれば、嬉しそうにねずみが鳴くのだ。
丸太小屋へは、何度も足を運び、お茶をしているお嬢様である。絵日記に、クマさんや犬さんやドラゴンちゃんや、色々な不思議とお茶会をしている風景を描いたオーゼルお嬢様である。
絵日記を開いて、指を示せばよいのだ。
そして、駄犬ホーネックの手柄もある。話を仲介してくれたヘイデリッヒちゃんが、ヒソヒソと確認を取った。
「(ヒソヒソ――)本当に、猫さんのお友達みんなも、呼んでよかったのよね、犬さん」
「(ヒソヒソ――)………わん、そう言われたワン」
この場に連れてきた時点で、色々手遅れと思う。駄犬ホーネックは、とりあえず犬として過ごしていた。
犬は、しゃべらない。
実は、魔法を知るほどに、当然の常識となっている。公園において、中堅魔法使いのおっさんが驚き、叫んだ理由であった。
絵本では当然のように描かれている色々な魔法は、実際には実現不可能という、寂しさである。
その常識を打ち破った駄犬ホーネックは、騒ぎを恐れて、犬のふりを続けているわけだ。そうすれば、うやむやになる確信があるのだ。ねずみが、人間のようなしぐさをするだけで大騒ぎで、女の子が空中に浮かべば、嫉妬をする魔法使いなのだ。
大騒ぎが、待っていた。
「どどどどっ、ドラゴンだぁあああああ」
おっさんは、叫んだ。
ねずみが指を指し示した方角から、ぬぅ~――っと、子犬のようなお顔をしたドラゴンちゃんが、顔を出したのだ。
子犬は例えだが、姿はドラゴンでありながら、全体的に丸みを帯びた子犬の印象のドラゴンちゃんである。人間モードでは尻尾が残り、そして、産毛が生え残っている、雛鳥ドラゴンちゃんなのだ。
尻尾を振れば災害だが、すでに大騒ぎだった。
「フレーデルちゃんだ、やっほぉ~」
「………大きいですわね、雛鳥ちゃんなのに」
「………なにやってるワン」
「あらあら、子供ね?」
「ちゅ~………」
いつものメンバーは、いまさら、ドラゴンちゃんが顔を出した程度では、驚かない。木々の隙間から、ぬぅ~――と顔を出すほどの巨体でも、中身は子犬も同然の、雛鳥ドラゴンちゃんと知っているためだ。
立ち上がれば、木々より巨大な姿でも、雛鳥ちゃんなのだ。
初対面の面々が、大騒ぎだった。
「ぼぼぼ、お坊ちゃま、大変です、ど、ドラゴンがぁああああ」
「おちつけ、師匠………この街でドラゴンが出るという噂があったではありませんか」
「うわぁ~、ドラゴンです、ねぇ、ねぇ、見ました、見ました?」
「にゃ~ご、にゃ~ごぉ~」
温度差は、当然だった。
魔法の常識を教える側のおっさん魔法使いは、とっても取り乱しておいでだ。そんな師匠を醒めた目で見るのは、反面教師と言うお手本と言う意味だろうか。
そして、大きなリボンのお嬢様は、大喜びだ。
ドラゴンと、お友達になりたい――
そんな、絵本の物語を現実にしようと、この町まで手下を引き連れたお嬢様である。ねずみがお世話になっているオーゼルお嬢様たちより、すこしばかり年上の12歳の女の子は、恋に魔法に、ドラゴンにと、大変に忙しい。
お友達のお猫さまは、終始騒いでいる。
「にゃ~ご、にゃぁあああごおぉおお」
ドラゴンという、最強の種族を前に、おびえているのか。単純に、下ろせ、下ろせと騒いでいるようにも見える。
ねずみは、吹き飛ばされないように、高度を足元にまで下げた。羽ばたき1つで竜巻を起こすという伝説は、真実なのだから。
7メートルを超える巨体を浮かべる翼は、魔法の作用を抜きにしても、災害なのだ。ねずみ程度、遠くへと旅立ってしまうのだ。
子供達が巻き込まれれば、大変だ。
「ちゅぅ~、ちゅううう、ちゅぅううううぅ~」
おぉ~い、ツバサは、うごかすなよぉ~――
大声で、鳴いた。
色々と隠さねばならないこともあるが、もはや混沌で、とにかくは安全を優先したいのだ。
ねずみの身も、お嬢様立ち飲みも、守りたいのだ。
おっさんはどうでもよいが――
「ここここ、ここは、魔境なのか、まさか、伝説の古代の――」
本当に、どうでもよかった。
なぜ、連れてくるように命じられたのか、ねずみは犯人に登場願いたく、その前に、目的地に到着したかった。
案内人たちが、現れた。
「ようこそ、お待ちしておりました」
「やぁ、みんなそろってるねぇ~、お嬢様たちも、昨日ぶり?」
執事さんとメイドさんが、現れた。
もちろん――
「くまぁ~、くまくま、くまぁ~、くまぁ~」
クマさんも現れた。
蝶ネクタイに、うやうやしい仕草にと、執事さんのようなクマさんだった。




