表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/205

お猫さまと、ねずみと、恋人達


 公園は、湖と木陰と、涼しい風に覆われた空間だ。

 炎天下であっても、木陰が、吹きぬける涼しい風が、人々を守ってくれる。そのために、ちょっと一休み、あるいはデートスポットとして、にぎわっている。


 そんな木陰の下で、ねずみは上を見つめていた。


「にゃ~ご………にゃぁ~ご………」


 お猫さまが、騒いでいた。


「にゃ~ごぉ~、にゃぁ~ごぉ~………」


 助けろ――と、えらそうに鳴いていた。

 ねずみは、お猫さまの言葉が伝わるようだ。えらそうな態度と思ったのは、高い場所から見下ろしているからだろうか、白いふわふわな毛並みのお猫様が、木の上から、ねずみを見ていた。大きなリボンは、お嬢様とおそろいだった。


 ねずみは、見上げていた。


「ちゅぅ~、ちゅううう、ちゅう?」


 両手をだらりと前にたらし、のんきに鳴いていた。

 人間らしいしぐさをすることもあるが、ねずみが、さっと立ち上がった姿勢である。自然体と言うべきか、バカにするでもなく、おびえるわけでもない。まともに取り合うのがバカらしく感じたための、静かなる心のようだ。


 おっさん魔法使いも、見上げていた。


「あぁ~、ねずみにまでバカにされて………おかわいそうに」


 お坊ちゃまの師匠は、お猫さまにも腰が低いようだ。それにしても、助けないのはどうしたことだろう。ねずみは、ただ、見上げていた。


 そこへ、マントの二人組みが、駆けつけた。


「あぁ~、バカ猫様が、また木に登ってるよ」

「しっ、お嬢様のご友人だ。言葉を慎め………」


 兄弟分らしい、本音が駄々洩れだった。ねずみが新たな見世物を見つめていると、兄貴分はゆっくりと笑顔を作った。

 ひたすらにゴマをする、まさに下っ端と言う笑みで、お坊ちゃまを見つめた。


「さぁ~、お坊ちゃま、出番でございます。いい所を見せてあげてくださいな」

「いつものように、おねがいしやす」


 弟分も笑みを浮かべる、マントの二人組みが、にこやかだ。

 まるで、お決まりのセリフのように、出番です――と、イスにくくりつけられたお坊ちゃまへと向けて、微笑んでいた。


「あぁ~、リリーったら、またぁ~」

「リリーちゃん、またですか――」


 お嬢様は、のんきに驚いている。どうやら、バカ猫様といわれるほどに、いつものことらしい。

 一人、お坊ちゃまは立ち上がった。

 ロープでくくりつけられていたが、さすがは魔法使いである。まだ少年という年齢であっても、逃げ出す程度の実力はあるようだ。

 強引に逃げ出すと、お嬢様の怒りを買うため、つかまっていただけだ。


「リリーちゃん、暴れないで下さいね………」


 よく、わきまえたお坊ちゃまだ。

 出会いは、堂々としたものだった。魔法使いのローブをはためかせて、『ヤビッシュ家の三男坊』と名乗ったお坊ちゃまは、今や忠実なる奴隷であった。

 その名を、恋人と言う。選択肢は、どうやらお坊ちゃまには存在していないようだ。


 ねずみは、そっと顔を覆った。


「ちゅぅ、ちゅううううう~………」


 悲しそうに、顔を伏せていた。

 裕福な身なりに嫉妬した。そして、生意気に恋人?もセットと言うことでも嫉妬した。しかし、その実は、見たとおりの奴隷であると知ったのだ。

 哀れみに、涙がこぼれていた。


 頭上では、お猫さまが騒ぎ始めた。


「にゃぁご、にゃぁああ~ごぉ~」


 ふわりと、バカ猫さまが浮かび上がった。ふわふわな白い毛並みが揺らめいて、お嬢様と同じ大きなリボンが踊っている。

 バカ猫さまの鳴き声で、とっさに上を見たねずみだが、何でもないと、静かな微笑みに戻った。


「ちゅぅ~、ちゅちゅう、ちゅ~」

「あぁ、見たとおり、魔法の才能は、しっかりとあるお方なのだ………」


 おっさん魔法使いは、誇らしげだ。

 お坊ちゃまは、それなりに魔法を扱えるようである。バカ猫さまは、空中であがいているが、浮かび上がっていては何もできない。

 木の上から、池に落とされたような気分なのだろうか、あがいていた。


 すぐに、無駄だと分からないのは、猫なので仕方ない。飼い主に抱かれてさえ、暴れることもあるのだ、信頼関係と、個性の問題だ。

 飼い主様が、両手を広げていた。


「さぁ~、おいで、リリー~」


 大きなリボンのお嬢様は、大人ぶる12歳であり、まだまだお子様である。仲良しのお友達が戻ってくるのを、無邪気に待ち構えていた。

 エサをくれる人だと認識しているのか、リリーちゃんも落ち着いたようだ。これで、暴れ続ければ、飼い主であるお嬢様が、すこしかわいそうである。


 静かに、白い毛玉がお嬢様を覆いつくした。

 それなりの巨大さだったようだ、クッションに顔をうずめたお子様状態になっている。ヘアスタイルは、大丈夫だろうか。

 毛むくじゃらの隙間から、お嬢様は顔を出した。


「ありがとう、さすがウルナス様ですわ」


 嬉しそうに、バカ猫さまを抱きしめていた。


「いやぁ~、何度でも………ははははは」


 お坊ちゃまは、笑っておいでだ。

 ロープから解放されても、お嬢様の微笑からは、解放されないようだ。これで、ますます二人の絆は強くなったに違いない。


 ねずみは、やさしく笑みを浮かべていた。


「ちゅちゅ~、ちゅうう、ちゅうう」


 後ろでは、宝石もピカピカと、若い恋人たちを応援していた。

 ヤビッシュ家の三男坊と名乗ったウルナスお坊ちゃまは、すでに、将来が確定しているようだ。逃げ出そうとしても、不可能に違いない。


 お嬢様は、獲物を捕らえた子猫のように無邪気だった。リリーちゃんと言うお友達と、ウルナスお坊ちゃまの両方を抱きしめて、ご満悦だった。


 マントの二人組みも、嬉しそうだ。


「よかったですね~、バカ猫さま」

「さすがはお坊ちゃま。これで、俺らもお嬢様から解放される日も近い」


 本音が、かなり駄々漏れの手下達である。しかし、ワガママなお嬢様に振り回される日々に、バカ猫さまもセットなのだ。

 おっさん魔法使いも、嬉しそうだ。


「ははは、さすがはお坊ちゃま。私の将来も安泰ですぞ」


 本当に、嬉しそうだ。

 ねずみは、温かい瞳で見つめていた。魔法の力はそこそこで、そして、生きた年月を修行に費やしていれば、そこそこと言うお師匠様になれるのだろう。


 一般的な、中堅魔法使いといったおっさんだった。


 そして、ねずみの本来の姿である、修行中の少年の、未来の姿であろう。あるいは、魔力が不足しているため、追いつけない高みかもしれない。生まれ持った魔力は、努力で埋められない寂しさがあるのだ。

 そのため、魔法の薬や魔法の道具があり、魔法の宝石の代表であるドラゴンの宝石は、喉から手が出るほどほしいのだ。


 おっさんは、ねずみを見ていた。


「これで、ドラゴンの宝石さえ手に入れば………」


 ねずみは、一歩下がった。

 宝石は、ねずみの背中に隠れた。


 その上に、陰が覆いかぶさった。


「………なにしてるんだワン?」


 駄犬ホーネックが、現れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ