黒幕が、いるようだが・・・
「ちゅぅ~………ちゅううう」
ねずみは、勘違いを自覚した。
先日の、下水の調査のことだ。
好奇心を抑えられないツインテールちゃんが現れて、即座に中断となったが、運が悪いのか、マントの二人組みと遭遇してしまった。
気配がすると、二人組みがいると、ツインテールちゃんが口にしていた。そんな昨日の二人組みとの遭遇は、今の話だった。
《《二人組み》》とは、一組とは限らなかったようだ。
「改めて………はじめまして、私こそはヤビッシュ家に生まれ――」
ばさっ――と、マントを翻して、なにかが現れたのだ。
ヤビッシュ家の三男坊という、15歳ほどの、夢見る少年の名乗りは、どこかの誰かを思い出させて、ねずみはうなだれた。
「ちゅうう、ちゅううううぅ~………」
まるで、誰かのようだ――と、ねずみは思った。
17歳のネズリー少年と言う、ねずみの、本来の姿である。調子に乗って魔法の実験をして、失敗したのだ。
ねずみ生活の、はじまりだった。
ツインテールちゃんが、はねていた。
「ねぇ、ねぇ、なにかのショー?」
「知ってますわ、目を合わせちゃいけない――って人なんですわ」
「わわわ、わん、わわんわん」
「それ、目の前で言っちゃ、ダメな気がする………」
ヘイデリッヒちゃんの正論に、駄犬ホーネックはあわてた。人間の言葉を、いまさら隠してもしかたがないと思う。代わりに答えたのは、オーゼルお嬢様だった
お子様達は、辛らつだった。
保護者のおっさんは、拍手をしていた。
「いやぁ~、さすがお坊ちゃま、見事な名乗りでございます」
にこやかに、ゴマをすっていた。
主従関係にも様々あるが、師弟関係にも、色々とあるらしい。
ボロボロのローブは魔法使いとしては、おかしくない。ただ、身なりは落ち着いている。金の出所が目の前の少年だと、ねずみは察した。
正しくは、その保護者であるヤビッシュ家なのだ。どこかの大商人か、貴族様かもしれないが、貧乏学生と言う見習いがほとんどの中、とても恵まれているようだ。
ねずみは、嫉妬に鳴いた。
「ちゅっ、ちゅう~、ちゅううう」
「わん、わわわん、わんっ」
駄犬ホーネックもまた、ねずみと等しい気持ちらしい。互いに、なにを言っているのか通じていない様子だが、面白くなさそうだ。
「ちゅぅ~………ちゅう?」
ねずみは、オレンジのツインテールちゃんを見上げた。
あいつらか――と
ツインテールちゃんと言う、フレデリカちゃんは、微笑んだ。
「うん、昨日の向こう川で、なにかしてたの。えっと、ふわふわ?」
無邪気な笑みで、お子様用語を持ち出した。
おそらく、本人以外には通用することは無いだろう、自分の感じ取った物事を、自分の感じたままにお答えになった。
ただの世間話であれば、そうなの、よかったわね――で済ませてよいのだが、ねずみ達としては、ムリである。
「ほら、私が昨日、気付いたの………ね、ねっ」
ぴょんぴょんと、跳ねていた。
好奇心が抑えられない子犬のようなお嬢様だ。ねずみは、その元気一杯がほほえましく、今は頭痛の種だった。
飛び跳ねるお子様は、まだいた。
ポニーテールが、忙しく跳ねていた。
「ほら、言ったとおりでしょ?色々と新しい噂が混じってるって………怪しいのが、たくさん混じってるって」
ヘイデリッヒちゃんは、自慢げに胸を張った。
ポニーテールがゆらゆらと、そわそわしたお犬様の尻尾のようで、ほめて、ほめて――と、そわそわしていた。
そばに控える駄犬ホーネックが、さすがだワン――と、ほめていた。人前で言葉を使ってしまったが、いまさらなのだ。
ねずみ達を見て、魔法使い師弟は、喜んでいた。
「あの輝き、間違いありません。ドラゴンの宝石でございます」
「あの幼さで浮遊しているのは、そのためだと?」
「おそらくは………あれを、お坊ちゃまがお持ちになれば………ふふふふふ」
「うん、《《例の者》》の言ったとおりか」
《《例の者》》とは、なに者だろうか。ねずみは、少し興味を引かれたが、欲望にまみれた人間が、どこにいてもおかしくない。
ドラゴンの宝石を頭上に輝かせて、人の欲深さを、改めて見せ付けられた。
目の前で、見せ付けられた。
「坊ちゃまが出世をすれば、政治的にも、魔法使い的にも上のほうへとのし上がれるのです。ならば、師匠として、この私も………ふふふふふ――」
師匠の人は、欲望が丸出しだった。
「この町では、ドラゴンのが、夜な夜な、町をさまよっているという………なら、一つくらいは手にしても――」
情報が、錯綜しているようだ。
間違っていない情報が、都合よく解釈されている。宝石の皆様は、現在、ねずみがお世話になっている騎士様のお屋敷の屋根にいる………はずだった
お嬢様が、大声をあげた。
「あぁ~っ、見つけましたわぁ~っ」
腕を伸ばして、ぴしっ――と、指刺していた。
大きなリボンのお嬢様が、まっすぐと、お坊ちゃまをさしていた。最初にねずみたちの前に現れた、マントの二人組が、お嬢様と呼ぶ、お嬢様だ。
ほほが赤らんで見えるのは、興奮からか、それとも――
マントの二人組は、こそこそしていた。
「あぁ~、お嬢様の猫を助けた」
「バカ猫さまか。降りられないのに、木に登って――」
出会いは、分かった。
ワクワクとして、そして、それだけではない。ぞぞぞぞぞ――という、ねずみの仲間のうち、唯一恋人を持つ姉気分の顔が、思い出される。
お坊ちゃまは、あとずさる。
「き、きみは――」
「あわわわわ、大変ですぞ、あのお嬢様は――」
魔法使い師弟は、今まで、気付かなかったようだ。
子供達の集団がいる、遠目からでは、それ以外に見えない、お嬢様たちは10歳で、乱入のお嬢様は少しだけお姉さんの、お子様なのだ。
「運命の人、今度は逃がしませんわっ!」
大きなリボンのお嬢様は、宣言した。
宣言されたお坊ちゃまは、あとずらし始めた。ドラゴンの宝石よりも、お嬢様からの逃走のほうが、優先のようだ。
そんな中、オーゼルお嬢様は、退屈そうに声を上げた。
「ねぇ~、帰っていい~?」
ねずみは、鳴いた。
「ちゅぅ~」
もちろんです――と




