出た、マントの2人組
ねずみは、驚きに声を上げた。
「ちゅっ、ちゅぅうううううっ?」
カーネナイのお屋敷からの、帰り道のことだった。
今度こそ、ツインテールちゃんの追跡を振り切ろう。そして、本格的な調査を始めようと、小さく計画を立てていた。
ツインテールちゃんを、守るためである。怪しいマントの二人組みと再会することを、避けるためであった。
怪しいマントの二人組みが、目の前だった。
「おぉ~………昨日ぶりでございます、ドラゴンのお使い様。そして偉大なるねずみ様と、しゃべる犬さま」
「すげぇ~、偶然って、あるんだな~」
マント姿の二人組みが、土下座していた。
ツインテールちゃんと、駄犬とねずみのセットであったのが、運命を決めた。昨日の今日というタイミングであれば、即座に見分けられるのだろう。
道で見かければ、追いかけてくる組み合わせだったのだ。
あなたは、昨日の――ということで、土下座されていた。
お待ちください――と言う声に振り向いたのが、今の状況である。
ツインテールちゃんは、きょとんとしていた。
「だれだっけ?」
無邪気なお子様である。
そして、やむをえないことである。ねずみが、二人からツインテールちゃんを隠すために、魔法の輝きで守っていたのだ。
ツインテールちゃんの角度からは、マントの二人組みの顔は見えなかったらしい。まぁ、一度見た程度で人の顔を覚えるなど、難しいかもしれない。
代わりに、ポニーテールちゃんが反応した。
「ねぇ、この二人、昨日出会ったって話の?」
「マントの二人組みですし………」
オーゼルお嬢様も、それしかないと首をかしげていた。
お姉さんと、そっくりなしぐさである。内に秘めた凶暴さもまた、姉とそっくりなアックス使いである。
今は、魔法少女である。魔法の力で暴れないように、ねずみは本気で願っていた。お願い、暴れないで下さい、おとなしくしていて下さい――と、しばし見つめて………
お嬢様たちは、ツインテールちゃんを見つめていた。
「ふふふ、抜け駆けするからですわよ」
「ちょ、オーゼルさん、それ、私のセリフっ」
「えぇ~?」
「わ、あわわわわ、ワン」
「………ちゅぅ、ちゅううぅ~」
下水へと抜け駆けをした。
そのことに、多少なりとも先を越された、ズルイというお怒りを抱いていたお嬢様たちは、ツインテールちゃんを囲むように、見つめていた。
ねずみは困惑し、駄犬ホーネックはおろおろとしていた。
幸い、人通りが少ない、屋敷が並ぶ町並みである。今はお子様探偵団と、謎のマントの2人組だけであった。
しかし、人口密度の低い場所でもあるなら、偶然出会ったのは、なぜだろう。
困惑の空気を打ち破ったのは、新たなる少女だった。
「ちょっと、いきなり走って――あら、その子たちは?」
大きなリボンが可愛らしい、元気一杯のお嬢様が、現れた。
走ってきたのに、疲れた様子は見せない。おそらく、普段からよく走っているのだろう、活発な印象を受ける。オーゼルお嬢様たちより、少しお姉さんの12~13歳ほどの女の子の、登場だ。
そして、怪しいマントの二人組みの、仲間のようだ。
マントの二人組みは、振り向いた。
「あぁ、お嬢様。申し訳ありません――」
「すいやせん」
いや、主と言うべきだ、マントの二人組みは、腰を低くした。
いつも腰を低くして、ぎっくり腰にならないか、ねずみは心配になった。そして、コソコソと、言い合っていた。
「(コソコソ――)おまえは、待ってろって言っただろっ」
「(コソコソ――)いや、いきなり走り出すからよぉ~」
「(コソコソ――)バカヤロ、お嬢様になにかあったらどうすんだよ、鬼執事が――」
「(コソコソ――)だってよぉ~………」
ナイショ話だった。
ねずみ達にも、しっかりと聞こえる、ナイショ話だった。
もちろん、新たなるお嬢様にも聞こえている。イライラとしていても、すこし待ってあげるあたり、部下思い?のお嬢様なのだ。
短い時間であるのは、仕方ないのだ。
「いいから、ちゃんと私を紹介しなさいっ!」
両手をぶんぶんと回して、お怒りだった。
ねずみたちを置いて、なにやらもめ始めた。
このまま、逃げ出してもよいのではないかと、ねずみは思った。しかし、すでに顔をあわせている、ねずみは、鳴き声で逃げ出そうと声をかけようか迷っていたが………
少し、遅かったようだ。
「あなたたちが、ドラゴンの使い?」
迷う余裕は、すぐに消えた。
ずかずかと、大きなリボンがやってきた。
遠慮をしないのは、こちらが子供ばかりと言うことか、年頃が近いため、お姉さんぶっている気配もある。
保護者があの2人だ、ワガママお嬢様を止めるものは、だれもいまい。
大きなリボンのお嬢様は、探るように、ねずみ達を見た。
「ねずみさんの魔法使いに、しゃべる犬さんに………ドラゴンの使いの女の子はツインテールって言ってたけど――」
ねずみは、ドキドキだ。
平穏な日々が、音をたてて崩れる錯覚を覚える、ねずみ生活のピンチである。
好奇心の塊は、お子様探偵団だけではなかったのだ。活発な印象の、新たなる少女が、こちらを見ていた。
仁王立ちで、腰に手を当てていた。
「………なんだ、子供じゃない。だったら、私がドラゴンさんとお友達になっても問題ないわねっ」
リボンちゃんは、ワガママなお嬢様のようだ。
気の強そうな笑みで、わたしもやる――宣言していた。全て、自分の思うがままになると言う、自信に満ちた笑みが、可愛らしい。
ねずみには覚えのある、とってもいやな予感の笑みである。
「ちゅぅ~、ちゅうう、ちゅう~」
「わわん、わん、………だ、ワン」
駄犬ホーネックは、未練がましく犬の鳴きまねである。
しかし、二匹の思い描く女の子は、決まって赤毛のロングヘアーのフレーデルちゃんである。
にっこり笑顔で、やらかすのだ。
暴走娘は、どこにでもいるらしい。お子様探偵団の暴走娘さんが、いまは注目のツインテールちゃんである。
ツインテールちゃんが、キョロキョロとしていた。
「ねぇ、昨日の2人、近くにいるよ?」
何のことだと、ねずみ達はツインテールちゃんを見る。
マントの2人組も、互いを指差して、そして、お嬢様を加えて3人で、首をかしげる。昨日の2人とは、自分達のはずだと思っているのだ。
なぜ、今さら気にするのだろう。
その疑問が、答えてくれた。
「さすが、ドラゴン様に選ばれるだけはある………はじめまして、私こそは――」
ばさっ――と、マントを翻して、なにかが現れた。
15歳当たりの、少年だった。
ねずみのかつての姿、ネズリー少年と、ちょっと重なった。われこそが、偉大なる魔法使いだと言う幻想が、真実と思っているのだ。
自分にとっては――
いや、2人組みなのだ。
「いやいや、さすがです、お坊ちゃま――」
腰の低いマントも、新たに現れた。
ねずみ達に覚えのある、魔法使いのローブである。
ねずみは、鳴いた。
「ちゅぅうううううっ」
両手を空に掲げて、いい加減にしやがれ――と言う、怒りの鳴き声であった。




