表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/205

魔法の、ティータイム


 ねずみはクッキーを手に、昨日のことを思い出していた。


「ちゅぅ~………」


 下水で出会ったのは、マントの二人組みだった。

 怪しげだと、その姿で、態度で分かる二人組みだった。

 ドラゴンを崇拝する言葉を口にしていたが、それにしては、正式な手続きを考えていない様子だった。少しでも常識があれば、ドラゴンと触れ合うことなど、不可能であると知っている。

 自分達は、例外と言う以前に、ドラゴンの気まぐれに巻き込まれたという、丸太小屋メンバーなのだ。今頃は、リーダーのレーゲルお姉さんが、お世話にいそしんでいるに違いない。


 ねずみは、クッキーをかじった。


 サクサクサクサクサク――


 全てが、どうでもよくなった。

 今は、サクサクとした歯ごたえに、酔いしれたい。ほのかな甘みと、サクサクとした歯ごたえは、ねずみの好みだ。


 目の前で、クッキーたちがふわふわと浮かんでいるが、もはや、誰の仕業かわからない。


 ポニーテールちゃんが、叫んでいた。


「ちょっと、オーゼルさん。前に魔法少女じゃないって言ってましたわよね?」


 ちょっと、涙目だ。

 3人組の中で、魔法を使えないのが、自分だけとなってしまった。仲間はずれで、悔しいのだろうか、驚かされて、悔しいのか。ねずみには、分からない。

 悔しいという、意地っ張りの女の子の心は、知らないほうが幸せなのだ。


 駄犬が、鳴いていた。


「お嬢様、落ち着くんだワン、オーゼルお嬢様が空を飛んだ話は、前からだワン」


 ヘイデリッヒちゃんを慰めるように、前足でワタワタとしていた。


 そう、宝石の皆様と共に、空を飛ぶ魔法少女なのだ。クッキーを浮かべるなど、今皿である。

 オーゼルお嬢様が、そんな不思議に巻き込まれたのは、ずいぶんと昔に感じる。最近などは、丸太小屋へと足を運ぶようになっていた。ねずみを迎えるため、宝石の皆様と共に、現れるのだ。

 お茶をするまでになったのは、最近だが………


 ねずみは、ふわふわと浮かぶクッキーを見つめて、鳴いた。


「ちゅぅちゅうう、ちゅ~………」


 魔法少女、かぁ~――


 宝石の影響を受けているのは、ねずみだけではなかったようだ。

 ねずみも魔法の力を有しているが、自らを浮かべるほどではない。宝石の力のおかげで、魔法らしい力を扱えるのだ。


 お嬢様も、魔法を使えるようになっただけだ。


 他にも、たくさんティーセットが並んでいる。

 塩気のあるビスケットは、オリーブと言う油っぽい触感の果肉と、チーズのまったりとした塩辛さとあわされば、立派な食事となる。

 小さなサンドイッチも、忘れてはならない、豪華な軽食の皆様が、テーブルに並んでいた。


 ねずみは、考えることをあきらめた。


「ちゅぅ~」


 サクサクサクサク――と、リスのように、とまらない。

 本日は、あやしいマントの二人組みの報告のために、カーネナイのお屋敷を訪れたのだ。真の主?の、ロングヘアーのメイド様には、筆談で報告をした。

 なら、役目は終わったのだ。ツインテールちゃんの暴走にさえ、注意すればいい。謎の二人組みには、もう会わせないように注意すればいいのだ。


 ねずみは、魔法の空間を見つめた。


 クッキーが、目の前を浮かんでは、立ち去っていく。出番が待ちきれないように、色々たくさん、空中で踊っていた。


「ねずみさん、フレデリカさん、イタズラしてはいけませんよ?」

「それ、オーゼルじゃないの?」

「ちゅぅ~、ちゅうう、ちゅう、ちゅ~」


 いたずらっ子のオーゼルお嬢様は、目の前でクッキーを整列させて、微笑んでいた。思い通りに魔法を操れて、面白いのだろう。


「うぅ~………私だけ使えないの?」

「お嬢様、ちょっと落ち着くワン」

「ちゅぅ~、ちゅう、ちゅ~ちゅぅ~、ちゅうう」

「あぁ~、それ、わたしのぉ~」

「ちゅぅぅうう?」


 クッキーにビスケットにチーズの切れ端に、ナプキンに、もちろんクマさんのぬいぐるみも、空中で踊っている。


 捕まえてご覧なさい――とでも、言っているのだろうか、それとも、一緒に遊ぼうよ――と、誘っているのだろうか。

 クッキーをビスケットが追いかけ、その後ろをチーズの切れ端が追いかけ、ジャムを載せたスプーンが、さらに追いかけて………


 絵本に登場してもおかしくない、魔法のお茶会であった。


 赤いチョッキのフレッド様は、つぶやいた。


「オレの屋敷が、お化け屋敷が――」

「フレッド様、落ち着いてください。お化け屋敷ではございません」

「いや~、最近の子供はすごいんだなぁ~、俺たちなんか、必死で壁を這い回ってるのにさぁ~」

「兄貴ぃ~、みてみて、クマのぬいぐるみさんが、コンニチワって――」

「いいわねぇ~、魔法少女………あこがれたものよ」

「………便利そう?」

「同属だと思ったのに、そっか、魔法を使えるのかぁ~………」


 カーネナイのお屋敷は、魔法の空間になっていた。


 お屋敷の主であるフレッド様は驚き、執事様は落ち着き、かつては盗賊だった四人組みの皆様は、無邪気に見つめていた。

 犬耳さんなど、本当にうらやましそうに見つめていた。


 スレンダーメイドさんは、ティーカップを手に取った。


「ボクにもお代わり、もらえる?」


 いつのまにか、空になっていたようだ。

 自分で注いでもよいと思うが、ティーポットはただいま、空中のお遊戯に忙しく、手元から浮かび上がっていたのだ。


 ねずみが、返事をした。


「ちゅぅ~、ちゅうう~」


 ティーポットが、浮かんできた。

 ねずみも、浮かんできた。


「ちゅぅ~、ちゅうぅ、ちゅ~」


 丁寧にお辞儀をして、まるで紳士だ。

 言葉は分からなくとも、そのしぐさで、執事を真似ていると分かる。そして、お辞儀をしたティーポットから、じょぼじょぼと、お茶が注がれ始めた。やや高い位置からのため、少々しぶきが飛び散るが、許容範囲だ。


 ねずみなのだから


「………うん、ありがとう?」


 メイドさんは、あっけに取られていた。魔法を使うと知っているだろうが、ねずみがお茶を入れるなど、想像できなかったようだ。

 ティーカップに、お茶が7割ほどに満たされた。

 こぼれることなく、見事なものだ。ティーポットのふたが、ぱこん――と、口を開けて挨拶をした。

 紳士が帽子を取って、ご挨拶をするしぐさのようだ。


 ねずみも、お辞儀をした。


「ちゅぅ~、ちゅうう」


 執事さんが、それでは、失礼します――と、お辞儀をしているようだ。メイドさんは、その様子をただ、見つめていた。

 太陽の輝きは、夏の緑を色濃く目に焼き付ける。水面も輝き、ティーカップに注がれた紅茶も、まぶしく輝きを反射する。


「………夏だ、夏のせいなんだ………きっとそうなんだ」


 そして、紅茶をすすった。

 少し、お疲れらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ