ねずみと、駄犬と、お子様探偵団 2
カーネナイは、かつて名家と呼ばれていた。
落ちぶれたと言っても、そのために屋敷の広さは広大で、庭の広さなどは、公園に匹敵する。人手がなければ、自然のままに廃たれていき、不気味になっていく。まるで、お化け屋敷なのだ。
多少、人の手が入った程度では、まだまだ不足なのだ。
ねずみは、悲鳴を上げた。
「ちゅっ、ちゅぅぅううううっ」
でっ、でたぁああああ――
背中の宝石も、ビカビカと輝いて、おびえていた。巨大な影に見下ろされて、抱き合って震えていた。
巨漢のメイドさんが、現れた。
「あらん、お客様?」
突然だった。
呼び鈴を鳴らそうというタイミングで、ぬぅ~――と、マッチョが現れたのだ。
カーネナイのお屋敷が、お化け屋敷と言う目的地であった。
ねずみは、アーレックと共に訪れ、協力関係となっている。遊び場でないと分かっているが、少し休ませてもらおうと思ったのだ。
顔を覚えていなくとも、背中に宝石が輝くねずみなのだ。カーネナイの関係者なら、分かってくれると思ったのだ。
赤毛をカールしたメイドさんは、首をかしげた。
「――その輝き………あぁ、ねずみさんね?」
巨漢に合わせて、自作したのだろう。変装のバルダッサと言う名前だと、ねずみは記憶から手繰り寄せる。
アーレックと共にいれば、巨大な影に隠れることも出来る。今は、ねずみが対処しなければならない、驚愕であった。
巨漢のメイドさんが、しゃがんだ。
「どうしたの?かわいいお友達も、いっぱい連れて――」
住人を含めて、お化け屋敷と呼ばれても、当然だと思う。素直な子供達の目には、特に不気味であったろう。つる草がレンガの壁を覆い尽くして、人の住まいでありながら、人間の領域ではないと、主張している。
ツインテールちゃんが、つぶやいた。
「………人?」
「………お化け屋敷?」
「ちょっ、ふたりともっ――」
禁句だった。
オーゼルお嬢様が続いて本心を口にして、そんな中、ヘイデリッヒちゃんは、あわてて二人を止めようとした。
調査を仕切るお嬢様は、マナーを心得ているようだ。
だてに、探偵団を名乗ってはいない。しかしながら、残るメンバーには、少々手遅れの発言だった。
お化けが出たと叫んでも、ねずみは責める言葉を持たない。
必死に、弁明した。
「ちゅちゅ~、ちゅ~、ちゅちゅううう、ちゅ~っ」
伝わるかは、不明である。
背後の宝石が、ねずみの背中に隠れていることで、驚きと恐怖を表している。ドラゴンの宝石のはずだが、怖いものは、怖いらしい。
駄犬は、あわあわ――と、言葉を口にしようか、迷っていた。初対面であるために、しゃべる犬という正体を現すか、迷ったのだろう。
下手な言葉も、危険である。
愛嬌のある笑みで、マッチョは笑った。
「ふふふ、元気なお嬢様たちね――お化け屋敷って、ここのことよね?」
幸いだった、巨漢のメイド様は、カーネナイがお化け屋敷として有名だと、ご存知だったらしい。両手を広げて、おどかす演技をした。
「ばぁ~………オバケなのよぉ~………早く逃げないと、食べられちゃうのよぉ~」
おそらく、好奇心が旺盛なお子様とは、すでに遭遇していたのだろう。あしらい方も、愛嬌のあるおば様という印象だ。
好奇心が一杯のツインテールちゃんは、飛び跳ねた。
マッチョなメイドさんを前に、飛び跳ねていた。
「じゃぁ~、お化け、お化け?」
なんとも、勇ましいことだ。本気で、お化けとは思っていないだろうが、物怖じをしない性格のようだ。
頼もしいようで、危なっかしいようで、保護者気分のねずみは、ドキドキだ。
マッチョなメイドさんが、微笑んでいた。
「あらあら、元気なお嬢さんだこと………ねずみさんのお友達?」
化粧は控えめに、ご近所のおば様と言う印象のマッチョだった。
ねずみは、おびえながら、鳴いた。
「ちゅちゅ~、ちゅぅ~、ちゅぅ~」
片手を挙げて、軽く手を振っていた。
久しぶりと挨拶をしたのか、入れてくれと願っているのか、バルダッサと言うマッチョイナメイドさんには、どのように伝わったのだろうか。
炎天下と言う時間帯が、判断を助けてくれた。
「まぁ、ねずみさんは知り合いだし――あら、メイド長」
ロングヘアーのメイドさんも、現れた。
「ボクは、キミたちのメイド長じゃないって何回――おや、ねずみ君に………オーゼルお嬢様も、お久しぶりかな?」
ねずみには、知った顔である。
丸太小屋で、領主様のお屋敷で、そして、ネズリー少年の部屋でと、いろんな場所で顔を見るメイドさんである。
オーゼルお嬢様には、丸太小屋関係での、顔見知りであった。
「メイドさん、こんにちは」
お子様らしく、動きが少しちぐはぐだが、ちゃんと礼儀は心得ている。さすがは、オーゼルお嬢様だ。
ねずみは、なぜか誇らしく胸を張って、ほほえんだ。
残りのお嬢様たちも、ならって挨拶をした。
「メイドさん、こんにちは」
「えっと………いきなりで、すみません………」
ツインテールちゃんは、手をぶんぶんと降って、元気にご挨拶をしていた。
ポニーテールちゃんも、やや置いてけぼりでありながら、挨拶をした。きちんとしていて、えらいと言うべきだろう。
メイドさんは、しゃがんだ。
「はい、こんにちは――まぁ、入りなよ」
メイド長ではない。
そう言いながらも、メイドさんは、客人を入れる許可を出した。知り合いであっても、子供であっても、軽々しく入れていい場所ではない。
ここは、カーネナイのお屋敷だ。
表向きは、恩赦によって自由を得たカーネナイが、改めて住み着いたというお屋敷である。
裏側としては、領主様が表に出来ない色々のための、裏口である。
招き入れたのは、ねずみ達を見たためだろう。ねずみと駄犬と、そして、宝石に乗って空を飛ぶお嬢様を知っているためだ。
ねずみは、挨拶をした。
「ちゅ~、ちゅうううう」
気まずそうに、片手で首筋に触れている。しぐさとは、便利である、言葉は分からなくとも、すまなそうな気配は伝わるのだ。
駄犬は、口にした。
「久しぶりだワン………お世話になるワン」
スレンダーメイドさんとは、丸太小屋の関係で知り合いだ。そのために、観念して口を開いたのだ。
門をくぐったところだった。周囲に人影がなかったが、念のためだろう、そして、敷地に入ったため、感謝を口にしたのだ。
ポニーテールちゃんが、反応した。
「メイドさんとも、お知り合いだったの?」
驚きに、駄犬の肩をつかんだ。
浮気が発覚したようなしぐさであり、駄犬も、びくり――と立ち止まる。もちろん、そのような関係ではないのだが、力関係として、成立していた。
ただ、ヘイデリッヒちゃんは、大人なようだ。
「………あとで、ちゃ~んと、お話しましょう?」
「………くぅ~ん、だワン」
ちょっと悔しそうであったが、お邪魔する側として、駄犬を問い詰める言葉は、穏やかだった。
思ったより、秘密を知っている人物は多いのではないか。お化け屋敷だと思っていた場所から現れたメイドさんは、不思議なメイドさんだった。
そんな驚きのほうが、大きいかもしれない。
スレンダーメイドさんは、子供達の前にしゃがんだ。
「そうそう、ここのことは、ナイショ――ね?」
都市伝説は、あくまで噂話である。
不思議を見たという噂が、そのまま一人歩きをしているものだ。しかし、噂が始まる場所は、どこだろう。
見聞きしたという人物は、いったい、何を見たのだろう。
今の、この瞬間だと、子供達は感じていた。
「うん、魔法少女と同じ、秘密だもんね」
「ちょっと、ちゃんと秘密にしないとダメですのよ?」
「ヘイデリッヒさん、あなたもね?」
お子様達は、お嬢様ぶりながらも、お子様だった。
大人としては、ほほえましく見守ってもいいだろう。では、保護者達は、どのような対応を受けるのだろうか。
お嬢様たちに、そうそう――と、メイドさんは語りかけた。
「ちょっと、お友達を借りるね?」
メイドさんは、微笑んでいた。
ねずみと駄犬は、見詰め合っていた。




