表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/205

ねずみと、駄犬と、都市伝説


 裏路地。

 あまり人の通らない、それでも、柄が悪いというほどではない、生活空間の一部である。家々が密集している隙間をうように、迷路のような空間に、子供達はいた。


 あと、駄犬も


「と、ところで、お嬢様は今日は都市伝説を調査するって言ってたワン。暑くなる前に、お出かけしたほうがいいワン」


 話題を、そらした。

 目も、そらしていた。


 ポニーテールちゃんは、詰め寄っていた。


「オーゼルさんとは、どこでお会いになったのか、教えてほしいだけですわよ?」

「………そ、そそれは、偶然なんだワン………と、とにかく、お出かけするなら、早いほうがいいんだワン」


 これは、ねずみがちょくちょく見る、アーレックと同じ姿である。なんとかご機嫌を取ろうとして、そして、お怒りの矛先をそらそうとして、必死な瞳である。


 恋人でもあるまいに、必死だった。


「………ちゅぅ~」


 ねずみは、哀れみに涙を流していた。

 いいや、鏡を見れば、ねずみもオーゼルお嬢様と会話をするときに、同じ顔をしているのかもしれない。

 笑うように、宝石がピカピカしていた。


 ねずみを抱きしめていたツインテールちゃんは、ぴょんぴょんと、楽しそうだ。


「すごいね、すごいね。しゃべる犬さんや、不思議な宝石さんも、みんなオーゼルちゃんだもんね?」


 何がすごいのか、とにかく、興奮にぴょんぴょんしていた

 そしてオーゼルお嬢様を、尊敬の瞳で見つめていた。――いや、楽しい事の始まりの予感に、ワクワクした瞳で見つめていた。

 次は、どのような不思議があるのか、好奇心が押さえきれない瞳である。


 オーゼルお嬢様は、心当たりを指折り数える。


「森の小屋は、お茶会に誘ってもらったし………しゃべる犬さんは、ここにいるでしょ。そして、下水の幽霊は――ねずみさん?」


 目線は、ツインテールちゃんに抱きしめられた、ねずみに向けられた。

 宝石が、ねずみの目の前をふわふわ浮いている。下水を移動手段に使うねずみであれば、下水の幽霊の正体だ。


 お子様達の瞳が集まり、ねずみは鳴いた。


「ちゅぅ~」


 正解だ――と、ねずみが答えたとしか思えない。

 もちろん、ねずみはそのつもりで鳴いたのだ。気付けば都市伝説の仲間入りをしていたのは、全て身内だった。


 オーゼルお嬢様は、続けて数える。


「夜空をお散歩するおばあちゃんも――丸太小屋にいたもんね?」


 今度は、駄犬とねずみの、両方に向けた質問だった。

 駄犬とねずみは、同時に答えた。


「………ワン」

「………ちゅ~」


 どちらも、遠い場所を見つめる瞳であった。お師匠様と言う、恐怖のミイラ様も、有名になっていたようだ。

 夜な夜な、組合長を脅かすために、夜空のお散歩を楽しんでおいでなのだ。生きた年月は200年とも言われる、人間の限界を超えたミイラ様だ。


 すでに、ご本人は亡くなられて、ミイラになってもこの世にいずり回っているのではないか。そんな冗談が、冗談ではない可能性が、魔法である。

 人間と言う枠組みから、ずれているに違いない。枯れ枝のような細腕は、鋼鉄よりも頑丈である。


 死に神です――


 そう名乗っても納得の執事さんとの出会いは、拳での語らいだったという。そして、ミイラ様が優勢だったと。

 逃げてもいい――というお言葉をかけて、執事さんは即座に従ったのだ。


 運悪く、ドラゴンのベランナ姉さんに出会ったのは、運がなかったのだ。

 覚悟を決めて勝負を挑んで、ベランナお姉さんの専属の執事さんになったと言うのが、今までの経緯だった。


「下水のワニさんも………今は、里帰りだっけ?」


 オーゼルお嬢様の問いかけに、ねずみと駄犬は、やはり同時に鳴いた。


 ワン――と

 ちゅ~――と


 こうして数えると、都市伝説が生まれる陰に、自分達魔法使いがいるような気がしてならない。下水の幽霊としゃべる犬に、森の中の不思議な丸太小屋など、自分達が生み出したものがほとんどだ。


 ポニーテールちゃんが、まざってきた。


「空飛ぶ女の子も忘れてますわよ、魔法少女のオーゼルさんっ」


 腰に手を当てて、びしっ――と、学友を指差した。

 ヘイデリッヒちゃんは、ライバルとして認識しているようだ。一方のオーゼルお嬢様は、迷惑そうなお顔である。


 つっかかってくる、迷惑な同級生。


 それが、ポニーテールちゃんに抱く感想のようだ。それでも、夏休みの自由研究?に付き合うあたりは、仲が良いのだろうか。

 ねずみは、子供の世界は複雑だと思いながら、自分達のケンカ仲間と言う丸太小屋メンバーを思い出す。


「ドラゴンの噂も有名ですわね。私はまだ見てませんけど………」


 ヘイデリッヒちゃんの問いかけに、子犬のようなツインテールちゃんが、飛び跳ねた。

 はい、はい――と、ねずみを抱きしめたまま、飛び跳ねていた。


「知ってる、知ってる――夕焼け空をおさんぽしてたとか、森に住んでるとか――?」


 視線が、ねずみと駄犬の、交互を見る。

 オーゼルお嬢様は、すでに見ている、魔法の宝石と言う、光るカーペットで行き来をしているのだ。ドラゴンモードのフレーデルの姿も、当然、見ている。


 秘密と言うには大きすぎる上、魔術師組合には、すでに報告済みである。何かあっても、お任せだ。


 では、最新の話題は?


「それじゃぁ、改めて下水の幽霊から調査ですわ――ねずみさん、あなたの仲間は何匹いますの?」


 ヘイデリッヒちゃんからの、驚きの質問だった。


 下水の幽霊の噂話。

 その正体だと思っていたねずみは、驚きだった。もしかすると、話が合わさって、混ざって、真実が見えにくくなっていたのではないか。

 探究心が、くすぐられた。


「ねぇ、それって………ねずみさんじゃないの。他にも、誰かいるの?」

「なになに、幽霊、本当はねずみさんじゃないの?」

「ふふふ………そうですわ、じょ~ほ~がまざって、見えにくくなるって言ってましたの。紐解ひもといていくと、予想していなかった真実が見えてくるって………」


 オーゼルお嬢様とツインテールちゃんは、今や、ヘイデリッヒちゃんの言葉に夢中である。

 調査をしなければ、収まりそうにない雰囲気だ。



 ねずみは、駄犬にむけて、つぶやいた。


「ちゅちゅ~、ちゅうう、ちゅう?」

「………何を言ってるか、わからんワン。とにかく、危なくないように、見守るんだワン」

「ちゅ~、ちゅうう、ちゅ~」


 意思疎通に不安があるが、駄犬ホーネックの言葉は、ねずみの意図から、大きく外れていないらしい、うなずいていた。


 名探偵の、出番のようだ――と



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ