丸太小屋メンバーと、遅れてきた ねずみ(下)
森の木々が、強く緑に輝いている。
夏も本番と思うようになって、何日が経過しただろうか。銀色のツンツンヘアーのお姉さんは、叫んだ。
涼しい森の風を、吹き飛ばす勢いだ。
「ちょっ、ネズリー、もう一回言いなさいっ」
銀色のツンツンヘアーのお姉さんが、あわてていた。目の前には、小さなねずみがいる、とても小さく、どん――と、草原を殴る勢いだけで、ぺしゃんこだ。
幸い、ねずみの反射神経は人間を上回る、そうそう、ぺしゃんこにはならないだろう。しかも、ただのねずみではないのだ。
ため息をついて、指をさした。
「ちゅぅ~、ちゅうう、ちゅう、ちゅうっ」
何を言っているのか、誰にも分からない。
やれやれ――というしぐさが、お姉さんを苛立たせる。それでも、ねずみは一切動じることなく、腕をまっすぐと指し示していた。
空中に、メモ用紙が浮かんでいた。
「だから、それがどういうことなのかって話なのよっ」
だんだんだん――と、草原を殴りつけるお姉さん。普段は冷静なリーダーと言うお姉さんだが、今は、あらぶっていた。
遠慮がちに、しゃがみこんでいたクマさんが鳴いた。
「く、くまぁ~、くま、くまぁ~」
「そうだよ、レーゲル姉、ちゃんと書いてるよ?」
「いや、そういうことじゃないんだワン………大変だワン」
ねずみは、指差していた。
丸太小屋メンバーは、ねずみが指差すメモ用紙を、見つめていた。
――秘密の会合に参加
――ドラゴンが、狙われている
秘密の会合に参加した――という一文は、冗談として受け入れてもいい。しかし、もう一方は、大変だった。
遅れてきたねずみに、遅れてきた理由の説明を、まずは求めた。
元々、時間までは約束していなかった。だが、オヤツ時を過ぎたことで、雛鳥ドラゴンちゃんなどは、本来の姿で、森の木々から、ひょこ――っと、都市伝説を生むようなポーズだったのだ。
すでに、何人かが目撃していてもおかしくない、森のピクニックで、ドラゴンがこちらを見ていたと………
そのドラゴンが、大変らしい。
ねずみは、身振り手振りで、なにかを伝えようとした。
「ちゅ~、ちゅうう、ちゅう、ちゅ~、ちゅううう」
大きく手を開いて、なにかをくぐるしぐさをして、ペたっと地面にへばりついて――
そして、メモ用紙を指差した。
改めて、それが結論だ――と、伝えるかのようだ。
――ドラゴンが、狙われている
「秘密会合はおいて、なんでそんな話になるのっ」
「ちゅぅ~、ちゅうう、ちゅう、ちゅ~」
「ネズリー、ちゅ~ちゅ~鳴いてても、分からないよぉ~」
「くまぁ~、くま、くまくま、くまぁ~」
「とりあえず、紙に書いてほしいワン」
言われたねずみは、さらさらと書き始める。
オットルほどでないが、ペンを浮かばせ、文字を書く細かな魔法操作にも慣れてきたようだ。それでも、書き終えるまでが、とても歯がゆい。
一文字が書き終えるだけでも、その先を読み取ろうと、メモ用紙を睨みつける。そして、ますます意味が分からず、苛立つのであった。
フレーデルちゃんが、かき回した。
「犬さん?この前の山のは、狼さんだよ?」
「くまぁ~、くまくま、くまぁ~」
「あぁ~、あれは確かに、狼だったワン」
「………ヌシ様って呼んであげなさいよ、フレーデルより小柄な狼でも………あれ?」
巨大な狼の姿を、メンバーが思い浮かべる。
ねずみが、風船と共に大空へと旅立った。大変だという駄犬ホーネックの知らせを受けたメンバーが、ドラゴンモードのフレーデルと共に旅立った先で、出会ったのだ。
山のヌシと言う巨大な狼は、親切な人?だった
『ねずみは、帰った――』
行き違いと、判明した。
フレーデルが、本来の姿になったことや、ヌシ様と言う、魔法使いであっても出会わない存在との遭遇など、大きな事件が重なったはずだ。
行き違いと言う結果で、全てがどうでもよくなったのだ。
腹立たしいやら、安心したやら、肩透かしに力が抜けた帰り道であった。
さすがは丸太小屋メンバーである、雛鳥ドラゴンちゃんとの日々のおかげだ。本来は、大変だという色々と遭遇しても、その事件のトップには、常にドラゴンがいるためだ。
仲間が、ドラゴンなのだ。
「犬耳、知らせ――予想?ドラゴンに群がる?」
「ねぇ~、どういうこと~」
「くまくま、くまぁ~、くまぁ~」
「う~ん、まったくわからんワン」
筆談は、謎だけを増やしていくようだ。
――ドラゴンが、狙われている
普通に考えれば、冗談である。
ドラゴンとは、最強の代名詞であり、知性のある自然災害とも表現される。翼の羽ばたきで、ねずみが吹き飛ばされたように、巨体だけでも大変だ。
魔法の力は、災害だ。
故に、古くから信仰の対象として恐れ、あがめられ、適度な距離がとられてきたのだ。
多くは、そうして安定してきた。
多くは――
赤毛のお姉さんが、参加してきた。
「あぁ~、たま~に、いるんだよねぇ~」
ベランナ姉さんが、執事さんを伴って、やってきた。
妹の仲間との会話である。基本的には距離を置いていたのだが、ドラゴンと言う種族の話になったため、参加したのだ。
「ねぇ、たまぁ~に、いるよね?」
「………おっしゃる通りでございます」
死に神です――そんな印象の執事さんだ。
ドラゴン姉さんこと、ベランナさんの専属となっている、丸太小屋の、新たなるメンバー達である。
かつて、ドラゴンにケンカを売ったらしい、遠くを見つめていた。
「おや、お客様が――ねずみさんのお迎えのようですね」
遠くを見たついでに、なにかを見つけたようだ。
ドラゴン姉さんも、気付いたようだ。
「へぇ~、あの子も、慣れてきたかな~?」
赤い輝きが、近づいてきた。
「ぉ~い、やっほぉ~っ」
「………ネズリーの出迎え?」
「くまぁ、くま、くまくま~」
「ネズリー、今日はここまでだワン」
「………ちゅ~………」
まだ夕焼けと言う明りの中、より強い輝きが、草原に降り立った。
「ねずみさん、やっぱりここにいたっ」
オーゼルお嬢様が、輝く宝石のカーペットの上で、腕を組んでいた。丸太小屋メンバーも、すでに理解している、ねずみのお迎えだと。
遊びまわっている弟を迎えに来た、姉の気分かもしれない。
ちょっと、得意げだ。
丸太小屋メンバーとしては、どのように迎えるべきか。
すでに、ワニさんのお見送りで、言葉を交わしている。ねずみの保護者の気分なのだろう、遊んでくれて、ありがとう――と、お行儀の良いお嬢様だった。
本日も、迎えに来たようだ。しっかりとご挨拶をして、ねずみを連れ去っていく後ろ姿は、なんとも頼もしいことか。
立ち去る姿に、また、明日――と言葉をかけたレーゲルお姉さんだったが、この光景は、毎日見るようになる予感があった。
宝石の輝きが遠のく姿を見つつ、つぶやいた。
「魔法少女――か」
懐かしそうに、つぶやいた。
かつて憧れがあったのだろうか、現実の魔法使いの日々は、丸太小屋生活と言う今である。夕日に消えた輝きは、まぶしいようだ。




