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不思議な図書館


 ローブをまとった従業員達は、無駄話をしていた。


「結局、魔法使っても、たいしたことは出来ないんだよな………」

「弓の名手とか、剣の達人とかと一緒だよ。火災現場では、剣術の達人がなんの役に立つのかって、笑い話と同じさ」

「落ちてきた破片から身を守るくらい、出来そうじゃね?」

「だが、必要なところには必要だ。才能って、そういうものだからな」


 ここは魔術師組合の運営する図書館。組合と言う組織であっても、どこか異質な雰囲気なのは、ローブを身にまとった集団が従業員だからだ。

 そして、ちょっとしたことだが、本当に些細なことだが、書類が宙を飛んだり、コインが宙を舞ったり、本が宙を舞ったりするくらいだ。

 手を伸ばせばよいところを、その程度ならと、修行をかねて魔法を使っていた。使い慣れるほどに、浮かす数も、精度も上がるというものだ。


 そんな中、素手で本を整理している少年がいた。


「ホーネック、そのくらいなら、お前の魔力でも浮かせられるだろ」


 聞こえていないという風に、ホーネックは本を本棚に直した。そして、残りの本を、まるで恋人でも抱きしめるように大切に抱きしめて運んでいる。

 本を浮かせていた魔法使いは、思わず本を落としてしまった。魔法とは、精神に左右される。気を抜けばこうなってしまうのだ。


 まぁ、しっかりと手にしていても、あっけにとられて本を落とすこともあるので、大差は無かろう。ホーネックは、本を愛していると、言葉を使うことなく、魔法を使うことなく、伝える才能を持っているようだ。


「ふ、古代の知識が詰まった本は、修行のついでに浮かせてよいものではない。大切に扱うことで、気持ちを返してくれるんだ」


 勝手に思いを寄せないでくれ。


 本に気持ちがあったとすれば、そう答えるだろう。いや、何冊かは魔法の本なのだ、一冊くらい、愛が重いと叫びたいかもしれない。


 ここは、この都市における魔法使いたちの知識の中心地。資料室と、使い慣れた魔法使いは口にする。立ち入りが許されるのは、魔法の知識を学ぶ資格のある者たちだけだ。

 一般には、魔法図書館だの、不思議図書館だの呼ばれていた。入り口を入れば、本が空中を飛び回っているのだから、その命名も、当然だ。


 最も、所蔵されている書籍のほとんどは魔法関連と言うこともあり、一般でご縁があるのは、考古学者や、政治学者くらいなものだ。古いものは数千年も昔に記されたものがあるため、古代の歴史を学ぶには、最高なのだ。本は古くなればカビが生え、チリと化すのだから。この図書館自体が、何らかの不思議に守られている証であろう。

 そのため、本好きにとっては、ここは天国だと言われる。


 この少年にとっては、正にその通りだろう。


「愛さえあれば、どのような隔たりがあっても乗り越えられる。お前たちは仲良くしているんだよ」


 誰に向かって語ったのか、もちろん、本に向かってである。歴史大全の、赤色の表紙と、黒色の表紙の二冊である。

 同じ事件であっても、勢力が異なれば、さらに敵対していれば、描かれている出来事に大きな違いがあるものだ。赤色の表紙の本と、黒色の表紙の本は、そうした歴史の一端なのだろう。争いの火種になりえる二冊である。


 しかし、本と言う種族であれば、そのような些細なことは関係ないというのが、少年の持論である。このセリフからも、このホーネックと言う少年の愛の深さは、誰もが認めているのだと、分かってしまう。

 懐が深すぎて、深遠すぎて、誰もその心をのぞきたいとは思わない。それが、ホーネックと言う魔法使いだ。


「次は、眠ったままのドラゴンのお話………児童文学かな?」


 絵本が混じっていると、小首をかしげる。よくあることではあるが、違和感から手が止まる。


「………古いですね、魔法の本と言うことでも、ないみたいですが………」


 古くとも、児童文学は、児童文学である。中身を確認すると、ドラゴンの物語だった。

 一国の歴史より長く生きる種族であり、その暮らしを記した伝記は、必然的に、複数の国の栄枯盛衰が関わる。ドラゴンの物語を記していれば、それは歴史書と分類されても不思議はない。

 さらに、崇拝の対象でもあるのだ。ドラゴンと付き合うために神殿を設け、魔法の力に秀でた人物を送る国も、少なくない。

 この物語本は、ドラゴンと関わった人物が記したもののようだ。


「人の暮らしにあこがれて、人になる術を試みたまま、眠ってしまったドラゴン。今のネズリーみたいですね。ドラゴンと同じに見ることは出来ませんが………」


 興味を引かれたため、物思いにふけりながら、物語の世界へと向かうホーネック。世間の喧騒けんそうなど意にかいすことなく、愛する本たちに囲まれて、幸せそうだった。




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