表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/205

領主様のパーティーと、夜空の会話



 銀色の毛並みが、夜空にえる。

 ただし、耳と尻尾だけである。犯人は覆面をあきらめて、素顔を現していた。ここまで追い詰めた強敵に対する、礼儀かもしれない。


 ようやく、口を開いていた。


傭兵ようへいの里の生き残りか………我をここまで追い詰めるとは――さすが、ドラゴン様にケンカを売っただけはある」


 少年のような声であった。

 夜空にたたずんで、銀色のヘアカラーは、たくましい尻尾もあいまって、かっこいい狼のようにも見える。

 黄金の瞳が、印象的だ。


 大きな屋根の上で、メイドさんは優雅に微笑んでいた。


「ははは~――ボクは参加してないよぉ~………まぁ、えって言うか、若いドラゴンたちが急襲してきてね………あそぼぉ~――ってさ?」


 お疲れなのか、言葉はどんどんと、力をなくしていく。すらりとしたロングヘアーも次第にうなだれていく。


 ねずみは、おいてけぼりだ。


「ちゅう?」


 『傭兵の里』――とは、なんだろう。メイドさんのお疲れ具合から、過去に何かがあったようだが………

 話から、関わっては大変という話題の予感だ。この際、言葉が通じないねずみであることが、幸いだ。つい、なにかあったんですか――と、口にしてしまっては大変な予感で一杯だ。


 大変な事態が、すでに起こっている。領主様のお屋敷での騒ぎである。なぜ、目の前の獣人が現れたのか、なぜ、騒ぎになったのか。


 それだけで、十分に大変なのだから。


 銀色の犬の人は、警戒をしつつ、話しかけてきた。


「ドラゴンの輝き………ヌシ様が言っていたのは、そのねずみか………」


 ねずみは、ドキリとした。

 いきなり、ねずみが話題の中心になったのだ。背中の宝石も、ドキリ――と、光った。とっても目立ったに違いない、獣の耳が警戒に忙しそうだ。

 犬の尻尾も、ゆらゆらと、警戒している。


 ねずみの尻尾は、ビクビクと震えている。『ヌシ様』――とは、心当たりがねずみの尻尾を振るわせた。

 カラス軍団との戦いの後の、出会いだった。宝石も思い出したように、ぴかぁ~――と、明るく光った。


 空中にたたずむ、巨大な狼との時間を思い出していた。


「ちゅちゅちゅうう、ちゅううう?」


 ふわふわと、浮かび上がった。


 ただのねずみではない。それは、犬耳の侵入者にも、気付かれたはずだ。不思議な輝きに意識を奪われ、そのためにメイドさんに背後を許してしまったのだ。


 そして、ここにいる。


 ねずみは、嫌な予感が止まらない。

 まさかと思うが、最初からねずみを探すために、ドラゴンの宝石という手がかりを探すために、ここに来たのではないか。


 この事態は、自分が引き起こしたのではないかと、不安なのだ。


「ヌシ様が我らの里に現れるのは珍しい、風船にくくりつけられた手紙を渡すためだったという………長老会は、とりあえず手紙のヌシを探すことにした」


 ねずみがきっかけというのは、正解だったようだ。


 ドラゴンの使いか――


 巨大な狼というヌシ様の問いかけに、ねずみはおびえるだけだった。しかし、風船のお手紙を届ける使命があったのだ。


 あれは、雲ひとつない、怖いくらいの青空の日であった。

 子供達の学校行事として、大空へと、お手紙を解き放ったのだ。

 風の向かう先は、なかなか足を伸ばすことの出来ない、獣人の国である。山脈のおかげで、すぐ近くにあるようで、とても遠い場所なのだ。


 空を飛ばない限り、とても遠いのだ。


 届けてやろう――


 巨大な狼様は、そう言うとねずみを背に乗せて、山脈を越えて、犬の耳の皆様の国へと降り立った。

 現実感がなかったものだ、ねずみはのんびりと足に絡まったロープを外して、そして、お手紙を差し出したのだ。


 ねずみが思い出に浸っていると、犬耳さんが、こちらを見ていた。


 指差していた。


「ねずみのマークが、目印だった」


 犬の耳の人は、ねずみを、指差していた。

 空中に浮かぶねずみと宝石は、共に抱き合う。あぁ、自分たちのせいらしいと、なんてことだと、おびえていた。


 メイドさんは、気を取り直していた。


「えっと~………ねずみくんに会いに来たのかな?」

「領主は、オレが来ることに気付いていたはずだ、そうでなければ、あのような罠など準備するはずが――」


 探るように、犬耳の侵入者は語りだす。

 なぜ、領主様のパーティーに現れたのか。話し振りから、領主様に誘い込まれたようでもある。

 そういえば、魔術師組合のオバン様という組長さんまで、出席していた。街のお偉いさんと言えば、お偉いさんであるが………


 何か、上のほうの意図でもあったようだ。


「犬耳が来るかも――程度だったと思うよ?なかなか引っかからなかったから、パーティーで呼び寄せたのかな?」

「数人、人の国に入っただけでか?――魔法は、あなどれんな」

「――っていうか、素直に魔術師組合なり、直接屋敷に訪れるなりしたらよかったんじゃないの?」

「………調査は、極秘なのだ」

「極秘………ねぇ」


 ねずみの頭上で、スレンダーメイドさんと、犬耳少年?の会話が続いている。しかし、これが手紙をきっかけにしたとなると、ねずみはドキドキだ。


 ヌシ様を動かしたことか、あるいは手紙の内容か………


 バトルしようぜ?――


 そんな内容でないことを、祈りたい。しかし、オーゼルお嬢様のことだ。仲良く遊ぶつもりのメッセージが、独創性に富んでいてもおかしくない。

 仲良く追いかけっこをする、鬼ごっこをする、そのようなつもりでお手紙を出した可能性がある。とっても挑発的な内容の可能性も、捨てきれない。

 誤解を招いた可能性が、否定できない


 ねずみはふらふらと、屋根の上へと墜落した。

 そして、土下座をした。


「ちゅぅ~、ちゅううう、ちゅうううう~」


 すみません、なんか、すみません――


 この態度が、どのような印象を与えるのだろうか。犬耳の人も、あっけに取られていた。

 メイドさんは、笑っていた。


「とりあえず、裏口があるから………ねずみくん、カーネナイのお屋敷って分かるよね?」


 ねずみは、うなずいた。

 ねずみが人間に大きく関わろうと思った、ニセガネの銀貨の鋳造ちゅうぞう、および拡散と、関連する事件の中心だ。

 ねずみが名探偵と呼ばれる、そのきっかけの事件である、忘れるわけがない。幽霊屋敷と思える、一部人間が入る気配は、犯罪の気配だった。


 今は、どうなっているのだろうか………


 そう思いながら、ねずみたちは夜空を進んだ。


 カーネナイの皆様は、領主様による恩赦おんしゃで、お屋敷の管理をしているはずだ。

 こういった事態のためなのだ。


 ただ――


「いらっしゃいませぇ~」

「いらっしゃい」


 カーネナイのお屋敷に降り立ったねずみたちを、メイドさんたちが出迎えていた。それはいい、見た目は確かに、 メイドさんだった。


 2メートルを超える巨漢のメイドさんが、にっこりと微笑んでいた。隣にいる、うずくまったような声の人は、ややぶかぶかなメイド服だ。


 本職のメイドさんは、しばし固まった。隣の犬耳さんは、平静を装って、お尻尾は正直だ。

 ぶわわわわ――と、警戒をあらわにしていた。


「………主は、いる?」


 さすがは、メイドさんだ。すぐに気を取り戻して、案内を始める。ここにねずみがいる意味があるのか、それは不明だ。


「あらん、お客さま?」

「一名様、ごあんない………」


 ここに、ねずみがいる意味はあったのだろうか、深く考えてはいけない。魔法の力で、あっという間の道であった。


「んじゃ、あとはよろしく」

「ちゅぅ~」


 パーティーのその後が気がかりだ、ねずみとメイドさんは、再び夜空へと消えていった。


 犬耳さんは、こうして置き去りにされたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ