表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/205

ねずみと、風船と、森のお散歩


 夏の日差しは、とてもまぶしい。

 だからこそ、夏の外出には、木漏れ日を自然と追いかけてしまうのかもしれない。森に別荘を構えるのも、悪くない。


 ねずみは、鳴いた。


「ちゅうう、ちゅううう………」


 木漏れ日が、まぶしいぜ――

 大木の一つに身を寄せて、上空をにらんでいた。後ろでは、宝石がニコニコと笑うように輝いていた。

 リラックスタイムにふさわしい、ぼんやりと、あくびをするような輝きだ。


 ねずみは、うっすらと目を細めた。


 カァアアア、カァアアア、カァアアア

 カッ、カァ、カァ、カァアア

 カアア、カァ、カァ、カアアアア


 黒い雲が、旋回せんかいしていた。


「ちゅううう、ちゅううう~」


 ヤツラ、まだいやがる――


 頭を、抱えた。


 カラス軍団との戦いは、ねずみの敗北に終わった。

 ねずみは、魔法を使える。しかしながら、数が多すぎる上に、派手な魔法は自らの首を絞めるため、使えないのだ。

 命綱いのちづなである、文字通りに命は真上の風船とつながっている。風船が割れても終わりであり、ひもが切れてしまっても、終わりである。


 防戦一方であり、そして――


「ちゅううう、ちゅううううう」


 生き残れば、勝ちなのさ――


 手を腰に当てて、ポーズを取っていた。

 片足は、風船のひもにからまったままだ。人間で例えれば、熱気球のロープが足に絡まって、上空へ旅立ったようなものだ。

 ねずみは、熱気球――ではない、風船を見上げた。


「ちゅうう、ちゅうううぅ~」


 ところで、やせたなぁ~――


 丸々としていた風船は、情けなくやせ細っていた。

 オーゼルお嬢様によって描かれたねずみさんの似顔絵も、やせ細っていた。情けなく、お疲れに、疲れておいでだ。

 あと少しで、地上へ落下してしまう。ねずみの魔法がなければ、すでに落下していたかもしれない。


 しかし………


「ちゅううう、ちゅうう、ちゅうっ!」


 がんばってくれ、あと一息だっ!――


 疲れた仲間を、元気付けるようなセリフだ。ねずみは、役割を背負った冒険者の気分であった。

 足に絡まったロープの先が、背負った役割だ。


 お手紙が、くくりつけられている。


 子供のつたない文字であるが、仲良くしましょうと言う、学園行事にお約束の言葉が記されている。

 隣国の、獣人の国へと向けた手紙である。他の領地からも、おそらくは似たような行事が行われているだろう。季節が変われば、お返事の風船が飛んでくるのだ。

 だれへと向けたお手紙か、だれへ向けたお返事なのか。


 それは、風船のイラストが答えとなる。必ずとどく保証はない、だれの風船が届くのかと言う、運試しなのか、お楽しみなのか………


 しかし、ねずみは思った。


「ちゅううう、ちゅううう、ちゅう」


 お嬢様、必ずや、この私めが――


 胸に手を置いて、にっこりとお人形さんを抱くお嬢様の顔を思い浮かべた。ご機嫌がよろしいときの、お顔である。

 ご機嫌を損ねれば、胸に抱くアイテムが、変わるのだ。

 お人形さんから、おのへと変わるのだ。


 ねずみは、背中の相棒を見つめた。


「ちゅちゅ、ちゅううちゅう、ちゅう」


 それじゃぁ、力を貸してくれ

 ほのかな明りが、すこし、強く感じた。夏も本番が近づいている、しかし、森の木陰は寒いくらいだ。

 魔力の高まりが、体を温めてくれた。


「ちゅうう、ちゅううううっ」


 よし、出発だ――


 やせ細っていた風船は、すこし肉付きが戻ってきた。あまりふっくらしては浮かび上がって、再びカラス軍団の餌食である。

 ねずみは、そっと、そっと魔力を高め、風船を膨らませる。


 ゆらゆらと、森の中を浮遊する。


 誰かが見ていれば、森をさまよう人魂に見えるかもしれない。下水の幽霊の次に、新たな都市伝説が生まれるかもしれない。


 少し考えたねずみだが、国境ともなっている山脈を挟んだ、ここは深い森の奥である。めったに人が訪れることがないため、問題はないだろう。


 カラスたちに見つからないように、木々の陰に隠れるように、流れる川を目印に進む。


 上空から、見えていた。あの山々へ続いていく。風に乗って、山を越えるよりは、かなり遅い歩みである。

 しかし、人間が森をさまようよりは、上空を浮遊するねずみは早く動ける。


 赤い輝きの、オマケつきだ。

 それでも、上空から目にできないため、問題ないと思っていたのだが………


 影が、上空にあった。


「………ちゅう?」


 ねずみは、立ち止まる。

 宝石は、ドキッと、大きく輝く。

 ねずみの陰が、足元の小川にくっきりと移るほど、強く輝いた。間違いなく、上空にも、とどいただろう。

 カラスなどではない、巨大な影であった。


 ねずみは、恐る恐ると見上げると、悲鳴を上げた。


「ちゅ、ちゅうううううううっ」


 も、モンスターだ――


 宝石も、ビカビカと光っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ