ねずみと、お嬢様と、騒がしい教室
夏の太陽は、イジワルだ。
輝きが、ギラギラと石畳を蒸し焼きにする。夜と言う、涼しい時間帯の余韻を消し去ろうと、意地になっているようだ。
オーゼルちゃんは、熱気に包まれてうんざりしていた。
「………あつい――」
学校の教室は、すでに熱気に包まれていた。
見ましたわ、見ましたわ――と、ポニーテールちゃんが飛び跳ねていた。
「見ましたわ、見ましたわっ」
ぴょこぴょこと飛び跳ねて、落ち着きのない子犬のようだ。10歳のお子様であるため、子犬のように落ち着きのないものだ。
明るい灰色のポニーテールの女の子が、興奮に、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
きいて、きいて――と
ワクワクとした、ツインテールちゃんも現れた。
「すごいね、空飛んでたっ!やっぱりオーゼルって、魔法少女だったんだっ!」
元気いっぱいの子犬ちゃんのように、オーゼルお嬢様の手を握って、ぴょんぴょんと、せわしない。
セリフを奪われたポニーテールちゃんは、ご機嫌斜めだ。
ここは、学校の教室である。退屈と戦うお嬢様だったが、魔法少女デビューをしたと暴露され、話題の中心になっていた。
オーゼルちゃんが光るカーペットに乗って、空を飛んでいた。その姿を目撃したという証言で、あふれていたのだ。
すごい、すごい――と、ツインテールちゃんが大興奮だ。
一方の、すっかりと、第一報をもたらしたヘイデリッヒちゃんの存在は、忘れ去られていた。夜空を飛ぶのを見たのだと、以前に騒いでおいでだった。
本日もだ。
いや、ツインテールちゃんは、忘れていなかったようだ。ヘイデリッヒちゃんを見ると、興奮したまま、詰め寄った。
「ヘイデリッヒが前に言っていたのって、やっぱりオーゼルだったの?」
ポニーテールが、大きく揺さぶられる。しかし、驚きはしばらくして、喜びへと変わった。
ほら、私のいったとおりでしょ――と、胸を張って、ご機嫌だ。
ヘイデリッヒと言うポニーテールちゃんは、勢いを取り戻した。
「そうですわ、見ましたもの、私、この前も見ましたものっ」
「ねぇ、ねぇ、やっぱり魔法少女だったんだ、ねぇ、ねぇ~」
子犬のようなツインテールちゃんも、負けてはいない。退屈と戦うオーゼルお嬢様は、勢いに負けて、思わずのけぞってしまう。
ヘイデリッヒと言うポニーテールちゃんが大げさに騒ぐなど、いつものことだ。ついでにツインテールちゃんがかき回すのも、いつものことだ。
だが、今回は押されっぱなしだ。
「あの、えっと――」
はっきりと物事をいう、孤高のオーゼルお嬢様には珍しく、勢いに押されっぱなしだった。
目撃者は、一人や二人ではなかった。
偶然、と言う空を見上げたクラスメイトはどれほどいるだろうか。しかし、まだ太陽のある時間帯、空を何者かが移動していれば、自然と目が追いかけるものだ。
小鳥が飛び去った、その後ろをカラスや、さらに大きな鳥が追いかけている。そういった日常に目にする羽ばたきも、ついつい、目が追いかけてしまうものだ。
光るカーペットに乗ったお子様がいれば、驚きに見てしまうものだ。
「ねぇ、ねぇ、オーゼル、やっぱり魔法少女なの?」
「すごい、すごい」
「ねぇ、とんでみせて、みせて」
「「「「「みぃ~、せぇ~、てぇ~っ」」」」」
クラスメイト達は、魔法を見せろと、大合唱だ。
魔法使いに夢見るお年頃ゆえ、誰もが扱える力でない故に、好奇心が、爆発していた。
オーゼルちゃんは、どうしようと、困っていた。
天井裏でも、困っていた。
「ちゅぅ~………」
ねずみは、頭を抱えていた。
昨日の今日である、どのような噂になっているのか。そして、その中心人物であるお嬢様が気になって、天井裏から様子を伺っていたのだ。
予感は、的中した。
後ろでは、宝石もピカピカと光り、不安そうだ。
「ちゅぅ~、ちゅうううぅ~………」
お屋敷では、問題なかった。
まだ、太陽の輝きのある時間帯のご帰還は、ドキドキだった。光るカーペットに乗って、宝石の大群に乗っての、ご帰宅だったのだ。
完全にバレた。魔法を使う姿が見つかったと思っていたが………
騎士様のご家族とは、いつもの日々だった。
空を飛んだことを問い詰められるのか、それとも、どこへ行ったのかと問い詰められるのか、ハラハラしたものだ。
お嬢様も、イタズラが見つからないか、そんな気分でハラハラして、楽しそうであったのだが………
それはもう、ねずみが腕を組んで、不思議に思ったほどだ。
騒いでいるのは、お子様達だ。
「オーゼルちゃんって、魔法少女だったの?」
「やっぱり、魔法少女だったんですのねっ」
元気な子犬のようなツインテールちゃんと、噂話が大好きなポニーテールちゃんの触れでリッヒちゃんに迫られて、お嬢様はたじたじだ。
いや、迷っているだけだ。
ねずみは、祈った。
「ちゅぅ~、ちゅうぅ~」
天井で、土下座をしていた。
宝石も付き合ってくれている、天井に顔をこすり付けていた。
おかげで、見つかってしまった。
「なんか光ってる」
「あれ、なんだろ」
「なんだろうね~」
お子様達は、気になっただけだ。興味がコロコロ変わるのは珍しくない、面白いことが優先である。
おかげで、危ないことにも意識が向かなくなる。立ち入り禁止と言う立て札は、面白いことが隠されているのだ。そう思い込んで、突撃する冒険者もいるほどだ。
大人は、大変だ。
一人、違う反応のお子様がいた。
「………ねずみさん?」
オーゼルお嬢様は、ぽつりとつぶやいた。




