表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/205

ダンジョンメンバー、集結?


 臭気漂うせせらぎが、ちょっとまぶしい。下水のせせらぎに、夏の太陽の光がたっぷりと届いて、ねずみは、思わず目を細めた。


「ちゅぅうぅ~………」


 いよいよか――


 出口が近いと、教えている。

 新鮮な空気が、下水の移動で麻痺した鼻を、優しくなでる。ねずみは、照れくさそうにそっとなでて、改めて、駆け出す。


 風に乗って、懐かしい話し声が聞こえてきた。


「――ねぇ~、ワニさん、まだぁ~」

「――ワニさんじゃないでしょ、フレーデル。ねずみとの待ち合わせよ」

「――違うワン、レーゲル、ネズリーとの待ち合わせだワン」

「――くま、くまぁ~」


 相変わらずの仲間たちの声に、笑みがこぼれる。

 久しぶりと言う時間を感じさせない、いつも――という時間を思い出させてくれる。例え姿が変わっても、時間がたっていたとしても、仲間なのだ。


 ねずみは立ち止まると、後ろを振り向く。


「ちゅぅ~、ちゅう………」


 もうすぐ、なのか――


 巨大なる地下迷宮というレンガのアーチが、どこまでも続いている。ねずみがいつも戻るのは、騎士様のお屋敷である。


 戻れば、ねずみ生活と言う、いつもの日々が待っている。

 そして進めば、ネズリーという、魔法使いの見習いの日々が待っている。


 迫り来る再会を前に、ねずみは未練がましく、迷っていた。


 仲間たちと再会することは、すでに決定している。そして今後を話し合い、宝石たちの今後を、自分達の今後が決定されるのだ。


「ちゅぅ~――」


 まぶしいな――


 ねずみは、思わず目を手のひらで覆ってしまう。

 人間らしいしぐさだと、目の前にいれば気付くだろう。遠くからであっても、はっきりと出口の明りが届く距離である。


 森へ続く草原が、広がっていた。


「ちゅぅううう、ちゅううっ?」


 悪い、遅れたか?――


 迷いを振り切るように、大きな声を上げた。


 いつもの待ち合わせ、いつのも日々の気分で、大きな声を上げた。


 懐かしい、アニマル軍団がそろっていた。

 強い夏の日差しのため、逆光が厳しい。

 駄犬に、クマに、尻尾を生やした女の子と、そして、銀色のツンツンヘアーのお姉さんの4人組だ。

 尻尾が謎だったが、その謎も、間もなく分かることだろう。ねずみは今更の疑問に、しばし意識を奪われ―――


 ねずみは、首をかしげた。


「ちゅちゅうぅ~………ちゅう?」


 フレーデル………だよな?――


 ドラゴンの尻尾を生やした女の子など、何人もいるはずがない。しかし、ねずみの知る姿とは、ちょっとばかり違っていたのだ。

 いくらなんでも、違っていたのだ。


「ちゅぅうぅ~………」


 ちぢんだなぁ~――


 フレーデルは、小柄な14歳といった女の子だ。メンバーで最年少という地位は、みんなの妹分として、かわいがられた。

 主に、レーゲルお姉さんがお世話をしていた。12歳といわれても納得というお子様だったが、目の前のフレーデルは、縮んでいた。


 5歳児ほどに、縮んでいた。


「あっ、ねずみさんだぁ~」


 こちらを見つけて、手を振っていた。


 元気な尻尾もパタパタと、落ち着きのない子犬のようだ。そして、しぐさと口ぶりで、やはりフレーデルであると、ねずみは確信した。

 ドラゴンの尻尾が生えていた時点で驚いたものだが、あちらにも、色々あったらしい。


 執事さんに、メイドさんもいた。


「ちゅぅうう?」


 メイドさん?――


 メイドさんには覚えがある、ねずみが仲間たちへメッセージを記した。その内容に不備があると、仲間にしか分からない場所を指定すべきだと、指摘してくれたメイドさんだ。

 いつの間にか、合流していたようだ。


「あぁ~、やっぱりあのときのねずみ君だぁ~………はははは、ボクだよぉ~、メイドさんだよぉ~」

「はははは、まさか、あの輝きはあの夜の………はははっ」


 どちらも、お疲れのようだ。


「………ちゅう、ちゅぅうう」


 ………まぁ、いいか――


 少し不思議だったが、仲間たちとの再会は、目の前だ。まだ少し距離がある、鉄格子で隔てられた草原にむけ、さらに進んだ。


 仲間たちも、近づいてきた。


 フレーデルは、クマさんにまたがったお子様だ。むしろ、子供向けの絵本に登場する、冒険の仲間達といった姿だ。

 何の冗談か、クマさんは魔法のローブを肩にかけ、首には蝶ネクタイまでしている。どこかの執事さんを真似したのか、サーカスで人気が出そうなのが、ちょっと悔しい。


 鉄格子を挟んで、手を伸ばせば触れ合える距離になった。


「ね、ネズリー………よね。ねずみ生活始めました――って、メッセージあったし」

「こんにちは、ねずみさんっ」

「くまぁ、くま、くまぁ~」

「なんというか、久しぶりだ――ワン」


 懐かしむ瞳だった。

 まだ信じられないと言った雰囲気のレーゲル姉さんは、常識的だ。無邪気なフレーデルちゃんは、考えないことにしたい。

 ねずみが懐かしく感じたのは、男たちの瞳だ。クマさんや駄犬になっていても、男同士の同情の瞳は、変わらない。


 ねずみは、浮かび上がることで返事をした。


「ちゅぅううううっ、ちゅううううっ」


 ひさしいな、わが仲間たちよっ―――


 何かを、気取っていた。


 再会によって、感情が高ぶりすぎたようだ。

 ねずみを見下ろしていたアニマル軍団は、ねずみと向かい合う姿勢になっていた。ねずみが、人間の目線ほどに、浮かび上がったためである。


 このような芸当が出来るねずみが、他にいるものか。

 明らかに、魔法の力を扱っていると、仲間達に知らせるためである。調子に乗って、俳優を気取ったのは事故である。


 頭上の宝石は、気取ったまま、神々しく輝いていた。


「その輝き、本当にドラゴンの宝石と一緒にいたんだ」

「ねぇ、前はいっぱいいたよね、まだいるの?」

「く、くまぁ、くまぁ~」

「フレーデル、暴れちゃ危ないワン」


 4足歩行モードのクマさんの背中の上で、お子様がはしゃいでいた。さすがに危ないと、クマさんは肩越しに注意をして、駄犬もついでに注意をしていた。


 そのやり取りが懐かしく、やはり、来てよかったと思った。


 ねずみ生活、はじめました――


 かつて、ねずみはこの一文だけを伝えた。

 仲間たちに届いたのかは不明だったが、再会してみると、このメンバーでもう一度やり直すのも悪くないと思えてきた。

 久々の全員集合に、仲間たちは目を見開いて――


「………ちゅうう?」


 どうした?――


 ねずみは、おかしいと感じた。


 仲間たちが、驚いた顔をしていた。ねずみが浮かび上がった、それは予想外で驚くだろうが、タイミングがおかしい。

 ねずみの後ろに、なにかが迫っているようではないか。


 フレーデルちゃんは、うれしそうに手を降っていた。


「やっほぉ~、ワ~ニさんっ」


 ねずみの背後へ向けて、元気一杯に、手を振っていた。


 ねずみは、振り向くことが出来なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ