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丸太小屋メンバーと、新たな日々(下)


 森を進むと、唐突に開けた場所がある。

 たまにある、開けた空間だ。せせらぎは心地よく、強い夏の日差しも、森の木々にそよ風に、そして小川の涼しさが守ってくれる。


 丸太小屋のクマさんは、ご機嫌だった。


「くま………くま、くまぁ~」


 クマさんのオットルお兄さんが、ナイフのような巨大な爪を器用に動かして、なにかを指し示していた。


 気のいい、お兄さんのようなクマさんだ。

 丸太小屋の中では、今までクマさんが家事を担ってきた。クマの巨体でありながら、小さな魔法の作用によって、ある程度のことが可能だった。


 中身は、丸太小屋メンバーの年長者、オットルお兄さんである。

 新入りさんの執事さんに、やさしく指示を与えていた。


「はい、クマ殿………」


 執事さんが、静かに答えた。


 レーバスと言う執事さんは、クマさんの指示で、働いていた。

 かつての執事さんを知る人物が見れば、涙をこぼすだろうか。ここは森の中の、丸太小屋である。狩人が仮住まいとして作ったのか、別荘であるのか………


 間違えても、執事さんがいる環境ではない。

 いいや、それは言いすぎだ、主が丸太小屋で都会の喧騒けんそうを忘れているなら、お付き合いするのが、執事さんだ。


 クマ殿の指示を受けて働く姿が、珍しいだけだ。

 忠実なる執事さんは、自らを一切出すことなく、静かに家事をこなしていた。


「くま、くまぁ」


 クマさんは、笑顔だった。

 のんびりと、地べたに座っても巨体だ。こだわりか、魔法のローブを肩にかけている、クマさんのお人形であれば、愛嬌あいきょうのある姿だ。


 サーカスが、ほしがりそうだ。


「なるほど、この食器はすぐに使うので、こちらと――」


 執事さんは、クマ様のご指示で、働いていた。


 この丸太小屋では、クマさんのオットルお兄さんが先輩であるのだ。新たに住人が増えたことで多少の混乱はあれど、やりくりをするのはクマさんだ。そして、お世話の補助をする執事さんとしては、一日でも早く仕事を覚え、クマさんの不在にも対応すべきなのだ。


 ツッコミは、不要なのだ。


「くまぁ~、くま、くまぁ~」


 のんびりと座って、クマさんは笑顔だった。


 手をパタパタとさせて、よい笑顔だった。

 いやぁ、たすかるわぁ~――と、誰が見てもわかるしぐさと、笑顔であった。


「いえ、それほどでも………」


 執事さんは、感情を感じさせない、静かなお辞儀をしていた。


 死に神です――

 そのように自己紹介されて納得の執事さんは、どこか気が抜けたというか、抜け殻と言うか、静かな執事さんになっていた。


 その様子を、赤毛のロングヘアーのお姉さんが、ながめていた。

 スタイルはよく、ラフな姿は、若者の注目を集めるに違いない。おい、ちょっと声をかけようか――街中で見かければ、そんな勇者達に、囲まれるかもしれない。


 ミイラ様がそばにいるため、疑問と本能的な恐怖で、立ち去るだろう。


 のんびりと、食後のお茶を楽しんでいた。

 ドラゴン姉さんは、朗らかに笑った。


「いやぁ、すっかりと打ち解けたみたいで、よかった、よかったぁ~」

「ははは、執事服は、伊達だてではなかった――って、ことだなぁ~」


 ミイラ様も、ご機嫌よくお笑いになった。


 祖母とお茶をする、孫娘。

 恐れ知らずななお姉さんと、ミイラ様と言う組み合わせだ。この丸太小屋において、最も恐れられるミイラ様と、ミイラ様でも対応がつきかねる、ドラゴンのお姉さんだ。

 あまりに人の常識を超えているため、一周して、のほほのんとしていた。


「んで、お弟子さん達の残り………町でお昼寝してる子、あれはどうすんの?」

「あぁ、レーゲルの言った通り、なぜかドラゴン様の気配がしてなぁ~、っていうか、ベランナの仕業じゃないって言うなら………あれだなぁ」

「あれかぁ~」


 のんびりと、唯一の心当たりを思い浮かべる。


 赤く輝く、アレである。

 絶賛行方不明で、ドラゴンの興味を引いてしまった事件の、アレである。

 赤毛のベランナお姉さんは、ドラゴンを代表して、すでに伝えてある。ドラゴンの宝石など、勝手に生み出されていく、ドラゴンにとっては、価値を持たない石ころだと。


 人間の側が、宝としているだけだ。

 それはもちろんだ、ドラゴンにとっては欠片に満たない力は、人間にとっては膨大なる魔力を秘めた、宝石なのだから。

 そのドラゴンが、すでにこちらに来ている。

 ならば、ちょっと魔力が強い石ころなど、石ころなのだ。子供が川辺で遊ぶにはちょうどよさそうな、遊び半分なのだ。


 パタパタと、好奇心いっぱいの子犬ちゃんがやってきた。


「お姉ちゃん、あれって、あれって?」


 パタパタと、産毛の生え残ったドラゴンのおしっぽをらして、雛鳥ひなどりドラゴンちゃんがやってきた。


 警戒心は、皆無である。

 よいしょ――と、姉のおひざの上によじ登ってくる。お姉さんはティーカップが揺れないように、妹さんをおひざの上へと、誘導する。


 その姿は、幼い妹と、年の離れた姉の姿である。

 尻尾は隠しているが、赤毛のお姉さんのベランナさんは、雛鳥ひなどりドラゴンちゃんの、実のお姉さんである。


「フレーデル、お行儀が悪いよっ」


 申し訳なさそうに、保護者のレーゲルお姉さんがやってきた。

 これでは、どちらが姉なのか、分からない。数年間、人間の世界で姉代わりであったのはレーゲルお姉さんなのだ。


 面白そうに、ベランダお姉さんが笑った。


「ははは、どっちがお姉さんかわからないや」

「はは、こっちの姉役だったからなぁ」


 楽しそうに、人の枠を超えた二人が笑っていた。




――そのころ、町の魔術師組合では、 おばさまが頭を抱えていた。


 魔術師組合の、組長さんのお部屋と言う、一番偉い人のイスで、壮年の女性が頭を抱えていた。


「がぁあああ………お師匠さま、厄介ごとばっかり持ってきて、あぁ、うれしそうな顔をしておいでになって………」


 走馬灯のように、厄介ごとの日々が脳裏をよぎる。そして、走馬灯になるに違いないと、頭を抱えている。

 ローブを引きずるミイラ様は、御年おんとし200の大台に杖を突いている、大魔法使い様だ。人間としては、すでにお亡くなりになり、ミイラとなっても魔力だけで、この世に存在し続ける、恐るべき大魔女様なのだ。


 亡くなられているのか、生きたままミイラになっているのか、どちらでも同じことだ。すでに、人間の領域を超えておいでなのだ。

 魔法使いの頂点を、とっくに突破した、大妖怪様なのだ。


 ドラゴン様と、日常をともに出来る、怪物なのだ。


「がぁあああ、ドラゴン様が、二匹もこの町の………ドラゴン様の宝石に、本物のドラゴン姉妹?………何か起こる、っていうか、起こらないほうがおかしいっ」


 杖を突いて、夜空から現れた。

 宣言したのは、これからのこと。楽しそうに、それはそれは、楽しそうにしておいでであった。


 のほほんと、赤毛のロングヘアーの小娘もいた。

 瞬間的に解放された魔力を垣間見て、冷や汗でぐっしょりとなったのは、昨晩のことだ。

 とっても楽しそうに、これから何が起こるのだろうと、ワクワクしていた。


 魔術師組合の組長ごとき、ただの小娘に過ぎないのだ。


 起こりうる災いを色々と想像して、もだえていた。 この町、終わった、終わった………と


 丸太小屋で、のんびりと朝のお茶をしているとは、思いもしない。




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