雛鳥ドラゴンちゃん、縮む
死に神です―—
そんな自己紹介をしても違和感のない執事さんは、やはり、執事さんだった。レーバスさんという執事さんは、丸太小屋にて、お茶をお出ししていた。
まずは、ご年配の方からだ。
「大奥様、お茶でございます」
「おぉ、すまんな………」
さすがのミイラ様も、大奥様との呼ばれ方には、なれていないようだ。
まさか、照れくさいなどと、あるはずもあるまい。御年が二百と言う、人類の到達点を越えた大妖怪様なのだ。今更、奥様呼ばわりに戸惑うほど、可愛らしい性格のわけがないのだ。
丸太小屋メンバーも、意義を挟む余裕がない。
そう、執事様の件は、ついでに過ぎない。本来は丸太小屋メンバーの総ツッコミを受ける状況が、完全に流されているのだ。
赤毛のロングヘアーのお姉さんが、楽しそうに笑っていた。
「いやぁ~、人間の世界は、やっぱり退屈しないねぇ~、うちの子も捕まえられたし………この姿は、ちょっと窮屈だけど………」
にこやかな笑みだった。
突然登場し、雛鳥ドラゴンちゃんを捕らえた騒ぎなど、小さなことだ。
不幸な執事さんが、ここにいるだけだ。
不幸というか、不運と言うか………ドラゴン様にケンカを売って、返り討ちにあったという。そんな、とっても簡単な説明がなされて、終わった。
今は、忠実なる執事さんだ。
雛鳥ドラゴンちゃんは小さくなって、捕らえられていた。
比ゆ表現ではなく、本当に小さくなっていた。小柄な十四歳というか、十二歳の女の子の姿だった暴走娘が、縮んでいた。
見た目は、幼女だ。
丸太小屋メンバーは、どうしろというのか、互いに肩を寄せ合ってヒソヒソ話だ。
その間にも、執事さんはお茶を配っていく。会話の邪魔をしないように気配りをしていて、さすがはプロの執事さんである。
「(――ヒソヒソ)ねぇ、フレーデル、縮んじゃったね………」
「(――ヒソヒソ)く、くまぁ~、くまぁ、くまぁぁあ?」
「(――ヒソヒソ)ワ、ワワン………ワン………」
………会話になっていない。
特に、駄犬ホーネックはツボらしい、笑いをこらえて、ワンワンと楽しそうだ。いつもなら突っかかってくる暴走娘フレーデルちゃんが、五歳当たりの幼児の姿に変わっていたのだ。
魔法とは不思議だ。
フレーデルちゃんを幼児化させたお姉さんは、大きく伸びをした。
「う~ん………………たまになら、人間になるのも悪くないかな~………」
気持ちよさそうだ。
先ほどは、ドラゴンの翼と尻尾を太陽の下にさらしていたが、今は、どこにでもいるお姉さんだ。
おひざの上に、五~六歳の小さな女の子を座らせている姿も、どこにでもいるお姉さんの姿である。
母娘と言うには、お姉さんは若すぎる。むしろ、年の離れた姉妹と表現したほうが良い。お姉さんそっくりの、赤毛の小さな女の子だ。
ドラゴンの尻尾が、あるだけだ。
お姉さんは、ポン――と、幼子の頭の上に、手を置いた。
「ねぇ~、フレーデルちゃ~ん?」
雛鳥ドラゴンちゃんは、小さな子供のように、コクリ――と、うなずいた。
逆らえない、逆らえないという、緊張が伝わってくるようだ。
銀色のツンツンヘアーのお姉さんが、遠慮がちに口を開く。
「フレーデル………さんの、お姉様………なんですよね?」
いつもは、フレーデルと呼び捨てにしているが、ご家族の手前であれば、気を使うのがお姉さんなのだ。
それが、ドラゴン様が相手であれば、距離感は大混乱である。
普段は悪ガキが大きくなったような修行仲間のリーダーをしているレーゲルお姉さんである。だが、こんな経験はあるわけがない。ちょっと緊張して、言葉は遠慮がちであった。
男どもも、同じようだ。
「くまぁ、くまぁあ」
「わ……ワワン、ワン――」
駄犬は、何とか笑いをこらえて、失敗している。
レーゲルたちは、どのように返事をしようかと、互いに顔を見合わせた。
そろって、愛想笑いを決め込んだ。
フレーデルちゃんは、実年齢にふさわしい姿に変身したわけではない。お姉さんが登場、突然フレーデルが逃げ出し………即座につかまった。
その結果なのだ。
普段の言動にふさわしい幼いフレーデルちゃんが、おとなしかった。
丸太小屋メンバーもおとなしく、執事さんは執事さんである。会話がなかなか進まない中、年の功すぎるミイラ様が、カップを置いた。
「ところで………ドラゴン様は、何しに来なさった?まさか、妹様を捕らえに来たわけじゃぁ、なさそうだが………」
恐る恐ると言うよりは、ご近所づきあいと言う口ぶりのミイラ様は、さすがはドラゴンの神殿に仕えるバケモノさまだ。
顔見知りなのか、あるいはドラゴンとはそういう付き合いでいいのか、フレーデルの頭をなでながら、お姉さんは微笑んだ。
幼女モードのフレーデルちゃんがビクリ――と身構えたのは、幼子の宿命だろう。
これから、なにが話し合われるのか。
お姉さんは、楽しそうに微笑みながら、口を開く。楽しいことが待っていると、期待している笑みであった。
丸太小屋メンバーは、そろって出されたお茶を、一口すすった。 リラックスできる、最後のチャンスは、逃したくなかったのだ。




