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丸太小屋メンバーと、運の無い執事さん


 森の奥に、突然、開けた草原が広がっている。

 ちょっとした公園の広さだ。丸太小屋もあり、目の前には小川のせせらぎが、暑い季節にはありがたい。


 お子様が、水浴びでもしていた。


「ほらほら、レーゲル姉、冷たくて気持ちいいよ?」


 赤いロングヘアーが、太陽に照らされて、燃えるように輝く。ドラゴンの尻尾も、同じく赤く輝いて、元気に水しぶきを上げている。

 そのお尻尾には、産毛が残っている雛鳥ひなどりドラゴンちゃんが、ご機嫌だった。


 見た目は十二歳の子供で、精神はさらに無邪気な幼子である。フレーデルちゃんは、共に水場にいるレーゲルお姉さんを誘った。


 銀色のツンツンヘアーのお姉さんは、そっけなく答える。


「ほらほら、尻尾をふらないのっ」


 お姉さんと言うか、お母さんの気分の今日この頃、お洗濯が終わったレーゲルお姉さんは、今度は妹分のお世話と、忙しい。

 シャツを水浸しにしつつ、暴れるお子様を押さえつけた。子供と言っても、お肌の手入れは大切である。


 タワシを、手にしていた。


「どうせ、すぐに草まみれになるんだろうけど………」

「だって、自分じゃ届かないもん」


 乙女の柔肌に、必需品のタワシである。

 人間の肌の部分ではなく、産毛が生え残っているドラゴンのお尻尾の手入れのためだ。

 背中でも洗いにくいというのに、尻尾など、どうすればいいのか。野性のドラゴンは気にしないかもしれないが、レーゲル姉さんは、お姉さんとして、お肌のお手入れに余念がない。

 そこへ、新たな悩みの種が、現れた。


 危ない目の執事さんが、現れた。


「………喜劇を楽しんでからでも、悪くない――それが、油断だった。ドラゴンの宝石が持ち込まれた。その時点で、逃げるべきだったのだ」


 ゆらり、ゆらりと、静かに森から現れる執事さん。

 死に神です――と名乗っても、誰もが納得の雰囲気を待っているが、本日は悲壮感が漂っていた。

 わざわざ姿を現したのは、ヤケになっていたためだ。


 ドラゴンと言う存在に、とっても神経質になった執事さんだ。目の前に雛鳥ドラゴンちゃんが現れた。それだけでも、十分に覚悟を決める出来事だった。


 待ち伏せをしていたのでも、追いかけたのでもないのだが、レーバスさんには同じであった。ドラゴンめ………と。


 雛鳥ひなどりドラゴンちゃんにとっては、不思議でしかなかった。


「………な~に、あのおじさん」

「おじさんって、あんた――」


 ぶつぶつと、怪しい執事さんが現れた。

 不気味に思うレーゲルお姉さんだが、おじさんと言うほど、おじさんと言う年齢ではないと思ったのだ。

 少なくとも、30歳に届いていない印象だ。


 もっとも、お子様にとっては20歳を超えるだけで、大人であり、おじさんだ。

 フレーデルは小柄な14歳と言うより、12歳の姿のまま、止まっているように見える。

 それは正しいらしい、女の子の姿に変身したまま、姿が変わっていないようだ。

 精神は、もっと幼いかもしれないフレーデルちゃんは、素直だった。


 仲間たちも、現れた。


「くまぁ~?」

「なんだワン?」


 丸太小屋から、洗濯物を干し終えたクマさんと、読書に忙しかった駄犬ホーネックが現れた。

 見知らぬ声があり、気になったのだ。


「く、くまぁ?」

「し、執事さん………だワン」


 クマさんは、何と言ったのだろう、ただ驚いたことは、伝わる。

 ここは、森の中なのだ。街中であれば、主人の使いとして、執事さんがどこへ現れても不思議は無いが、森の中なのだ。


 なぜ、執事さんがいるのか。


「えっと………おじさん、だれ?」

「あのぉ~、道に迷ったんですか………?」


 きょとんとした雛鳥ひなどりドラゴンちゃんは、警戒していない。レーゲルお姉さんも、タワシを手にしたまま、たたずんでいた。


 執事さんがドラゴンめ、ドラゴンめ――と、ぶつぶつと口ずさみ、不気味だった。

 先に動いたのは、執事さんだった。


 空中に、飛び上がった。


「ははははは………待ち伏せか?丸太小屋など建ておって………ならば、望みどおりに遊んでやろうっ――」


 水しぶきが、盛大に上がった。

 先ほどまで、レーゲルお姉さんと、フレーデルちゃんがたたずんでいた水場である。


 レーバスさんは、冷静さを失っておいでだった。

 そして、言いがかりである。

 レーバスさんを待ち構えるために、丸太小屋を建てたわけではない。仲間とともに、森に住まうしか選択肢が無かっただけだ。


 しかしながら、お疲れのレーバスさんの心には、どのような言葉も届きはしない。被害妄想だといったとしても、理解できないのだ。


「ちょ、なに、なに?」

「え、ぇええ?」


 女子二人は、空中に飛び上がっていた。

 さすがは、魔法使いの見習いである。のんびりとしていても、とっさに飛び上がったのだ。

 空を飛べないレーゲルお姉さんでも、危険な場所から逃げるくらいはできるのだ。この基礎能力の差は、とても大きい。魔法の力を持つ者と、もたない者との大きな差である。


 執事さんは、ドラゴンちゃんに向かい合っていた。


「ドラゴンめ………逃げても、逃げても、逃げても、逃げても………はははは、呪いか、これが呪いなのか………」


 本当に、追い詰められているようだ。

 執事さんは、水辺でゆらりと振り向くと、次はどのように攻撃をしようかと、深くかがんだ。


 一方のフレーデルちゃんは、のんびりと炎をまとって、ふわふわと空中に浮かんでいた。

 たしかに驚いているものの、危機感は抱いていない。

 自覚は薄いが、最強の種族である、ドラゴンなのだ。産毛が残っている雛鳥ひなどりドラゴンちゃんであっても、人間程度が相手になるわけもない。


 人間を超えた執事さんであっても、魔法の力があっても、同じことだ。


 今は、困惑しているだけだ。

 むしろ、イタズラがばれそうになり、困っているお顔だ。


「えっと~………わたし、なんかしたっけ………」


 ぽりぽりと頬をかいて、心当たりを探るいたずらっ子。

 本人に悪気は無いものの、もてあます力と、好奇心が旺盛おうせいな子犬ちゃんと言う性格であるために、色々としでかしてしまうフレーデルちゃんである。


 一応の反省はするものの、新たな失敗に事欠かない。

 そのため、心当たりがなくとも、なにかをしたのかと、ちょっと考えてしまうわけだ。


「フレーデル………あんた、どっかのお屋敷にご迷惑でも――あっ」


 言いかけて、レーゲルお姉さんは思い出した。

 さすがの雛鳥ひなどりドラゴンちゃんでも、人様のお屋敷に突撃をかまして、なにかをしでかすほどではない。魔法実験や、急いでお出かけの空のお散歩などで、人々を驚かせる程度だ。


 炎がまぶしくとも、まぶしいだけである、火傷の心配の無い魔法の炎なのだ。

 ワニさんが、お怒りになるだけだ。


 昨夜の大騒ぎが、まぶたに浮かぶ。


「ねぇ、その執事さんって、昨日の夜の………」

「く、くまぁ、くまぁ~」

「そうだワン、ジャンピング・キックの執事さんだワン」


 レーゲル姉さんのそばに到着したクマさんのオットルお兄さんと、駄犬ホーネックも思い出した。

 つい、先日のことなのだ。

 ワニさんに追いかけられた挙句、無人の野外劇場で大乱闘をしでかしたアニマル軍団である。

 その他にも、手漕ぎボートの四人組に、観客席のミイラ様にと、色々とにぎやかな夜であった。


 その中で、ワニさんにとび蹴りをしていた執事さんだと、思い出したのだ。


 あれ、マズイよね――と、レーバスお姉さんが不安になる。

 野外劇場の大騒ぎの終幕は、下水と言う迷宮への逆戻りで終わった。棲み処へとワニさんを戻すことが、思いつく最善だったのだ。


 その戦いに巻き込まれた執事さんは、とても運が悪かったのだ。


 そう、その場でも、炎をまとって突撃をかましたフレーデルちゃんに向かって、覚悟を完了していた執事さんである。

 あの場では、四人でなだめたものだ。


 またも、なだめていた。


「ちょ、この子はドラゴンだけど、別に何も――」


 昨夜の大騒ぎと言う心当たりがあるために、レーゲルお姉さんの言葉はしぼむ。

 ワニさんを怒らせて、廃墟と思われる野外劇場へご招待した。そのように言えなくもないのだ。

 廃棄されただろう、野外劇場での惨状を思うと、とってもヤバイ気分だった。


「くま、くまぁ、くまぁ~」

「そうだワン、落ち着くワン」


 クマさんのオットルお兄さんは後ろ足で立ち、腰を低くして、両手を前に出していた。

 まぁ、まぁ、落ち着きましょう――と言う仕草だ。

 言葉が分からなくとも、分かるのだ。両手で、まぁ、まぁ~と、にこやかな笑みを浮かべていた。


 駄犬ホーネックも、後ろ足でたちあがり、はっ、はっ、はっ――と、舌を出して愛嬌を振りまいている。


 街中でこの光景を見かけたなら、サーカスの見世物だと思うはずだ。例え森の中で出会っても、旅のサーカス団であると思うはずだ。


 そう思わない執事さんは、ドラゴンちゃんと向かい合っていた。

 むしろ、空中に浮かぶフレーデルしか、目に入っていなかった。


「ははは、あのワニは、お前にとって、ちょうどいい遊び相手だろうな。そうさ、俺たちもバカだった、力を試そうと、ドラゴンに勝負を挑むなど………はははは、そうさ、最強の種族に勝利した。俺たちの力を見せてやると………あぁ、バカさ、俺たちは、ははははは」


 何かを思い出したらしく、笑っていた。


 思い出し笑いにしては、すっごく不気味だ。ゆらゆらと揺らめいて、そのまま倒れそうであるのに、一切油断できないお姿だ。


 昨日、ワニさんにとび蹴りを食らわせていた執事さんである。

 なぜ敵対されているのか、思い当たる出来事があるようで、とりあえず、炎をまとわせたまま浮かぶドラゴンちゃんには、小首を傾げて、困ったお顔だ。


 そこへ、カツン、カツン――と、空中に杖の音が響いた。


 このような不気味な音を響かせるミイラ様に、心当たりは一つしかない。アニマル軍団は、いっせいに固まって、空中を見上げた。


 ミイラ様がやってきた。


「ほぉ~、まぁ~た騒ぎをやらかしたかぁ~」


 シワシワの顔が、現れた。

 長いローブを引きずって、シワシワの顔と、杖をつくれ枝のような手を覗かせる姿は、正にバケモノだ。

 シワシワの顔を、シワシワとさせて、楽しそうだ。


 ワシも、混ぜろ――と



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