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緊迫の、銀行支店


 多少ひび割れながらも、石畳は明るい灰色の輝きを放っている。

 町の基本五色の、一色である。

 残る四色はレンガや屋根瓦のオレンジと、木材の茶色、そして公園や街路樹などの緑と、噴水や水路などの水色である。


 灰色、オレンジ、木材、緑に、水。


 それらに今は、初夏の日差しが鮮やかな色合いを与えている、更に暑くなれば、用水路や噴水などに飛び込みたくなるだろう。そんな町並みの一角、小さな銀行の支店には、特別な色が塗布されていた。

 

 火薬の、黒であった。

 

 お掃除が大変そうだが、人質となった従業員の方々は、いつかお掃除が出来る幸せをかみしめめたいと願っているはずだ。

 とにかく、水でぬらしたいと。


「みんな、俺たちのショーをじっくり味わってくれ。めったに味わえないんだからな」


 赤い仮面のリーダーは、革靴の底でじゃり、じゃり――と、わざと音をさせながら、室内をゆっくりと歩いていた。


 演劇の衣装だと言われれば、納得できた。スカーフで口元を被い、目元は仮面で隠す銀行強盗の皆様。その数は三人だったか、五人だったか、落ち込んで黒い粉を見詰めている人質の人たちには、もはやどうでもいいことだ。


「そろそろかな~………っていうか、昼メシ前か」

篭城ろうじょう犯らしく、メシの差し入れでも、たのむか?」

「待て待て、計画に従え。計画にな………」


 仮面の犯人達は、会話を弾ませていた。


 どこか、初めての大役に興奮している新人の舞台俳優のようにも見える。しかし、決してこちらが欲しい情報を与えてくれない。互いの名前を呼び合うこともなく、何を企んでいるのかも、不明だ。銀行強盗と言いながらも、火薬を床にまいて、人質をとって立てこもっているだけなのだ。


 柱時計だけが、ゆ~ら、ゆ~らと、のんきに振り子をふって、時を刻んでいた。


 人質達は、ただただ、助けが来るのを待つばかり。

 何より、助けがバカでないことを祈るのみだ。人質たちは肩を寄せ合い、小声で話しながら、入り口を見つめていた。


 銀行の入り口は、一対の丸太が目印の、木製の二枚扉である。

 三人が横に並んで進めるほどに幅広い、その扉はしっかりと開け放たれていた。おかげで、人質の皆様からは、外の様子がよく見えた。


よろいのあいつら、まさか突入する気か?」

「爆発するぞって、伝わってないのか?」

「いやいや、あれは野次馬対策だろう」

「あとは、威嚇いかくかな?」


 心配そうに、開け放たれた扉からみえる、鎧を着込んだ兵士達を見つめている。完全武装の警備兵の皆様が、往来の最前列に、並んでいた。

 間隔をあけて並ぶ、その後ろには野次馬の方々が集まっている。心配そうな顔をしている者、様子を見にきただけの者、どうしようか、ただ集まっただけの方々がいた。


 その中に、ただ、騒ぎを見に来た。それだけにしては真剣な瞳の皆様が、混じっていた。


 武装を外した、突入に選ばれた精鋭である。

 油断なく、銀行支店の入口を見つめて、ひそひそと言葉を交わしていた。


「あいつら、こっちが突入できないと思って、のんきにこっちを見物してやがる」

「ふざけやがって、あの仮面、絶対剥ぎ取ってやる」

「落ち着け、下手すりゃ、俺たちまとめて端微塵ぱみじんだ。爆弾さえなけりゃ………」


 血気盛んな警備兵達は、こぶしで説得する準備が万全であった。

 剣を持つ相手に無謀であるなどとは、微塵みじんも考えてはいない。すでに、暑さで頭がやられているに違いない。腕に自信があるのかもしれないが………


「なぁ、魔術師組合に助っ人を頼めないか。火薬なんて、水でぬらせば済むだろう」


「だな、こっちがバケツ持って近づけばヤバイけど、水を使う魔法なら………」


「お前ら、魔法に夢を見すぎだ。都合よく水の使い手がいるとは限らん。それに、火薬が湿気ったって感づいた時点で何をするか………」


「そうだった、あいつらは武装してるんだったな。相手の動きを同時に止める。そんな凄腕じゃない限りは、結局人質が危ないってわけか」


「そんな凄腕、神殿に送られるに決まってるだろうが。っていうか、そんな使い手がいたら、とっくに頼んでるさ。一瞬で事件は解決だ」


「魔法みたいな話だな」


「あぁ………夢みたいな話だ」


 この国の人々が、誰もが知る常識である。魔法は、夢物語のように、何でも出来るわけではない。そのため、出来ることと、出来ないことの線引きには厳しい。

 そのため、便利な魔法使いの登場する夢物語は、しっかりと物語として地位を占めている。


 お昼もそろそろと言うこの時間帯、胃袋を刺激する匂いは漂ってこない。誰もが、ただただ、事件の解決を待つばかりであった。




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