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第三話 海風と風車のある風景

 秋祭りも終わって、兄たち二人は水汲(ポンプ)みを使った農地の開拓を相談していた。

 水汲(ポンプ)みを人力で使うのはとてもじゃないが無理ということで、水車を利用できないかと議論していたが、季節により川の水位が変わるため、水車をどう設置すべきか悩んでいたらしい。


 そこへアズと僕が登場。今日はアズに折り紙を教えて遊んでいたのだが、それから紙飛行機と風車(かざぐるま)に発展して、二人で庭を走り回っていたのだ。


「おーぃ、アズ。それは何だ?」

「アル兄に作って貰ったの。風で回るのっ。」

「ふ〜ん、アルは相変わらず変な物を作るな。」


「この村はさ、いつも風があるから、風を利用してなんかできないかな。」

「アル、紙じゃ何もできないだろ。」

「紙じゃなくて、木で作れば水車みたいになるよ。ねぇ、なんかできない?」


「 · · · · 。」

「できるぞ、バカヤロー。もっと早く教えやがれ。兄貴と悩んでたのが馬鹿みたいだよ、まったく。」

「えっ、ガルバ兄ちゃん。なんで怒ってるの。」


 ということで、風車(ふうしゃ)第一号の建設が始まった。

 水源は井戸でなく川になって、上流で風車(ふうしゃ)で水を汲み上げて、用水路を作って流すのだそうだ。

 水汲(ポンプ)みは井戸のものより、太くでっかいものになった。海風でも山風でもいいように、風車の向きが風上に向かうように工夫された。

 結果、川の上流に3基の巨大風車(ふうしゃ)が建てられた。

 そして、マルス兄は村と農地に用水路を網羅し、下水道も整備し汚水処理の溜池も作るそうだ。


〘 マルス兄上の計画では、領地の田んぼが2倍に、畑が3倍に増やせるそうだ。でも人手が足りなくて休耕地ができちゃうそうだ。〙



 だがそこで話は終わらない。風車ができて、そのお祝いの夕食時に、計画の概要を聞いていた母上が兄達二人に言った。


「あら、畑の空きがあるなら、大豆や小豆の豆類を植えなさいよ。豆類を植えると、土が肥えるわよ。薬草畑で実証済よ。」


「だったら、牛や羊を放し飼いにしてよ。広くない薬草畑でさえ、肥料の糞を運ぶの大変だからさ。

 放牧すれば、運ばないで済むもん。」


「出たな、(出たぜ、)(出たわ、)(アルね、)(アルだわ。)(わっわっわっ。)」


「「「アル得意の、怠け知恵っ。」」」


〘なんだよ、家族揃って唱和かよ。ちなみにアズはわかって言ってないと思う。〙



「おいっ、こりゃ毎年場所を替えれば、小麦や大麦それにライ麦の収穫も上がるぜっ。」

「よしっ、来年から順番を決めてやって見るぞ。」



〘これが『バイリンスダル領』に《三圃式農業(さんぽしきのうぎょう)》が導入された経緯であった。

 《三人揃えば文殊の知恵》。これが辺境に暮らすバイリンガル家の武器である。〙



✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



 バイリンスダル辺境領の東は、海に面していて、砂浜と岩場が半々の大きな入江になっている。

 今日は漁師のモリナ爺さんと孫のロッドさんが、僕達やんちゃ組を釣り船に乗せてくれた。

 やんちゃ組とは、僕とアズの幼なじみの面々で、ジン(男11才)、セシル(女11才)、ラルク(男10才)、

ミル(女6才)、それと俺にアズだ。

 ミルはジンの妹で、アズと大の仲良しだ。


 波も穏やかな初夏の海、入江の出口近くの深場が鯛や鯖の釣り場なんだそうだ。

 僕達6人は、岸側に並んで釣り竿を下げている。

 ミルとアズには、ロッドさんが付きっきりで針に餌を付けてくれていて、餌の海虫が嫌いな二人は『ギャーキャーッ』と騒いでいる。


「おっ、ラルクの竿が引いとるぞ。ラルク、一度強く引いて糸を緩めないで巻くのじゃ。」

 ラルクとミル、アズは今回が釣りの初めて。ラルクは皆の声援を受けながら、なんとか無事に釣り上げた。25cm程の鯖だ、初めての手応えに興奮してるよ。

 続いて僕の竿にも、同時にジンやセシル、アズ達にも当たりが来た。どうやら鯖の群れの回遊に当たったようだ。小一時間、皆夢中で鯖を釣り上げた。20〜30cmの中型だが、皆30匹以上釣った。大漁だっ。鯖は傷みが早いので、モリナ爺さんとロッドさんが生き締めにしてくれたが、一旦岸にもどることにした。


 浜辺では漁師の女衆が貝採りをしていたが、モリナ爺さんの知らせで急遽、干し鯖作りの作業場へと変わった。

 滅多に見られない大漁にモリナ爺さんも女衆も驚いて大騒ぎだ。

 大漁200匹以上の鯖は、一晩干して明日村人達に安く売るのだそうだ。もちろん僕達の分は別だ。

 

 鯖の処理は女衆に任せて、再び釣り場に戻る。今度は中々当たりがないが、なんとアズの竿に当たりが来た。かなり引きが強く、ロッドさんが傍にいないので、僕とジンが駆け寄り手助けをしたが、めちゃくちゃ走り回り、アズは真っ赤な顔をして、それでも自分で釣り上げたいと頑張った。

 それこそ、15分くらい掛かってやっと釣り上げたのは、40cm超の黒鯛だった。この根の主だろうとモリナ爺さんが驚いて言っていた。




 結局その後は誰にも当たりが来ず、少し遅い昼食のお握りを皆で食べていると、突然モリナ爺さんが叫んだ。


「大変じゃ、皆、竿をしまうんじゃ。沖で流されておる者がいる。助けに行くぞっ。」


 船は入江を出て沖へ向かう。入江の外は波が高く船が大きく揺れる。

 ロッドさんの指示でアズ達は船室に入り、僕達は腰に命綱を付けて舳先に並び、遭難者を探す。

 モリナ爺さんの目は驚異的だ。こんな波間に人を見つけれるなんて。


 船は、大揺れに揺れながら全速力で沖へと進む。ロッドさんが叫んだっ。


「見えたあそこだぞっ、流木に人が掴まっている。一人じゃない。子供もいるぞっ。」


 船が近づくと、ロッドさんが命綱を付けて、海へ飛び込む。

 僕達は(ロープ)を延ばして手助けをする。始めに小さな子、女の子だ。

 年はアズと同じくらいだろうか、ぐったりして、気を失っている。その子を抱えて離さなかったのは父親だろうか。意識はあるようだが、流木に掴まりぐったりしている。


 それよりも、僕はもう少し先の波間にもう一人を見つけた。掴まるものもなく、今にも沈みそうだ。


「ジン、僕が行くっ。(ロープ)を頼む。」

 そう言って、命綱を長い綱に結び付けると、海ヘ飛び込んだ。船からそんなに遠くはないと思ったが波間を泳ぐと波の抵抗で中々進めない。

 波がじゃまので、呼吸が続く限り潜って泳いだ。

 いた、仰向けに浮いているから、辛うじて呼吸ができるのだろう。しかしもうただ浮いているだけだ。

 僕は背中から脇の下に腕を回すと、声を限りに、叫んだ。『ジ〜ン、綱を引いて〜。』

 綱が引かれ船に引き寄せられる。なんとか顔だけ上げて息をしていると、間もなく船に辿り着き皆で助け上げた。

 船上で分かったが、子供の母親だったようだ。

 子供と母親の意識はないが、呼吸をしているので大丈夫だと思う。



 三人は無事だった。三日前の嵐の日に乗っていた商船から子供が海に投げ出され、父親が助けに海に飛び込み、そのあとを掴まれる材木を持って母親が飛び込んだそうだ。

 船は次第に遠ざかりやがて見えくなったそうだ。

 遠くに陸地が見えていたので、こちに向かって、三日も泳いでいたとのことだ。


 親子達は領主館で療養させた。母上が治癒魔法で治療するためだ。

 母上に『助けた時は女の人だと分からなかった』というと『馬鹿ね(おっぱい)があるから分かるでしょ。』と言われた。そんなことを言われても、自分も溺れるかも知れないと必死だったんだから。


 ディアナ姉には『アルの力で大人を助けるなんて無茶だわ。アルまで溺れたらどうする気だったの。助けられたから良かったけど。』 


 マルス兄さんには「アルでも、楽をしないことがあるんだな、感心したよ珍しくてなっ。」


 ガルバ兄は「泳ぎながら何考えていたんだ?」と言うから、

「波に浮く輪っかのようなものがあればいいな。」と思ったよと答えた。


「転んでも只では起きぬ、アルの本領発揮だな。

家族が一人減らなくて良かったよ。」と父上。


「まあ、なんてことを言うの。私はアルが死んでも生き返らせてみせますからね。」と母上。


 優しいベニス姉さんは「酷いわ。アルは我が家の英雄よ。領民たちの間では弱のに、弱い者を助ける心意気は、さすがバイリンスダル家の三男だって、言われてるのよ。」

 え〜なんだよそれ、僕が弱っちいてこと?


「アル兄は、英雄(ヒーロー) 英雄(ヒーロー)。」アズだけは、僕の味方だ。



 そんな、僕に対する家族や領民の評価だけど、『バイリンスダル領きっての変わり者』から

『弱っちいのに頑張るチビ勇者』に少し昇格したらしい。

 ただ、『無鉄砲で危なっかしいから、大人達皆で守ってやらにゃあならん。』という声もあるとか。



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