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第一話 辺境騎士爵家の三男坊 アザセル

 オートラスト王国の辺境『バイリンスダル』には武勲で騎士爵となったアレス·バイリンスダルと妻のユノと3男3女の家族が暮らしている。


 長男のマルスは21才で、朗らかな性格で武勇にも優れ、父上を補佐して領主代行をしている。

 次男のバルカは19才で思慮深く、物作りの才能があり、鍛冶師として独り立ちしたばかりだ。

 長女のディアナ17才は、幼い頃からお転婆で弓の腕は兄達に勝る女騎士だ。

 次女のベニスは14才。母親似のおとなしく優しい性格で、領民達から美姫と敬愛されている。

 三女のアリーズ6才は、魔法の才能があり好奇心旺盛な小さな魔女である。


 アリーズだけ年が離れているのは、5人も子供ができて子作りを止めたはずが、父上の浮気疑惑事件大騒動があり、嫌疑が晴れて母上と仲直りした結果なのだとか。よくわからんっ。


 そして僕、三男アザゼル12才。ごく普通の平凡な子供を自認しているのだが、なぜか、悪がきどもに人気がある風変りな少年に見られている。心外だ。



「奥方さまぁー、怪我人でごぜぃやす。お頼み申しやぁす。」


 村の警備をしているジルバが、慌てて駆け込んで来て叫んでいる。

 ここバイリンスダル村は、150世帯余で村民500人程である。

 村外れの北側には大森林に続く入口があり、時々魔獣が出て来る。そのため村の周囲は、高さ3mの丸木塀で囲んでいる。


「まぁジルバ。怪我人はどこ、具合はどうなの。」


「へぇ奥方様。一番酷い怪我は、ロッテル爺さんで腹を魔犬に噛まれやした。他にも6人深手じゃないですが皆、北門の衛舎におりやす。」


「わかったすぐ行くわ。傷口を布で押え止血して、お湯を沸かしておいて頂戴。」


 母上はそう言うと屋敷に戻った。薬や治療道具を取りに行ったのだろう。

 この村で治療魔法が使えるのは母上とモネ婆さんの二人だけ。あとは薬師が二人いる。

 だから、ほとんどの大怪我は母上が対応なんだ。




 4時間後、母上と一緒に父上も帰宅した。


「心配掛けたな。昼前に森の近くでロッテル爺さんと孫のエリスが野草を採取していたところに魔犬の群れが森から出てきた。20頭程の群れだ。

 大声を上げて逃げながら、爺さんは追いつかれるとエリスに覆い被さり身を呈して守った。その際に魔犬どもにやられた。

 爺さんの声を聞きつけた者の知らせで、警備兵が掛けつけたが、30分近く掛かってしまった。」


「ロッテルお爺さんの命に別状はないわ。

エリスちゃんも無事よ、ショックが大きいけどね。

 他の人達も軽症よ。心配ないわ。」



 夕食の時、バルカ兄さんに聞いて見た。


「ねぇ、大きな音や色がある煙をすぐ出せるものを作れないかなぁ。」


「ん、今日のことか。なんか考えてみるよ。

アルはそんなことを考えるなんて偉いなっ。」


「アルお兄ちゃん。もし、アズが魔犬に襲われたら守ってくれる?」


「そりゃあ、、、守る、、に決まってるさっ。」


「どうやって、守ってくれるの?」


「 · · · 、バルカ兄さんと作った武器で守るよ。」


「おいおい、俺に何を作らせるつもりだ? 

まったく、うちのちび共は人使いが粗いぜ。」


「あら、バルカばっかり頼られて羨ましいわ。森の近くに行く時は、お姉ちゃんがついて行ってあげるわよ。」


「いくらディアナでも、20頭もの群れは無理だ。

警備兵で魔犬狩をするまでは、森には近づくな。

 皆いいか。」


 「「「はい、父上。」」」



✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



 翌日、アズと朝の散歩をしていると、村で唯一のパン屋の隣で大型犬が通行人に吠えかかっていた。

 毎度毎度、迷惑な犬だ。年寄りや子供が怖がって安心して通れない。

 パン屋の店先では、アズと同い年のボータンが、泣いている妹を介抱していた。


「どうしたんだ、ボータン?」


「うん、アル兄ちゃんか。妹のリミが僕の小遣いで買ってやった菓子パンを、あの犬が飛び掛かって取ったんだよ。いつもより、繋いである紐が長くなっていたんだ。」


「なんだって、飼主の虎蔵に文句は言ったのか。」


「うん。でも済まんかったな、紐は直しとくって、それだけっ。」


「なんて奴だっ。許せんっ。」


「うん、いいんだ。リミには新しいパンを買って、やるから。」


  

✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



「よしっ、思いついたぞ。アズ手伝ってくれるか。兄ちゃんがアズも使える武器を作るぞっ。」


「えっ、アズも使えるの? 手伝う、手伝うよっ。」


「じゃあ、アズは母上の薬草畑から鷹の爪を10本取って来てくれ。それと台所から麦を茶碗10杯な。」


「わかった わかった、行って来るっ。」


 僕は、石臼、ざる、マスク、竹、粘土、端切れの布を用意して、竹を1節分に切り節目をくり抜いて細竹に粘土を端切れ布で包みピストンを作る。

竹筒水鉄砲の完成だ。


 アズに手伝って貰い、鷹の爪を細切りにし石臼で挽く。麦も挽いてできた粉を細目のざるで振るってさらに細かく挽く。

 そうして、出来上がった鷹の爪と麦の粉を、混ぜ合わせ竹筒の水鉄砲に詰める。詰めた口には少量の粘土で蓋をしておく。


「ジャーン、出来たぞっ、魔犬撃退秘密兵器っ。

よーし、アズ、実験だぁ。」


「お兄ちゃん、アズがやりたい やりたいっ。」


「わかったアズ。今日の実験は日頃の敵討ちだっ。

 行くぞっ、出陣っ。」


「わぁーぃ、アズ出陣っ。」


 

 やって来たのは、虎蔵の家の犬小屋だ。この犬はいつも子供や年寄りに、めちゃくちゃ吠え掛かって怖がらせている。アズ達幼子の天敵だ。

 アズに秘密兵器を持たせ、犬小屋の前に行く。

 案の定、僕達を目にすると唸り声を出して、吠え掛かって来た。


「アズ、今だっ。撃てっ。」


 アズが、天敵犬に向かって秘密兵器発射っ。

 風も微風、それに思ったより広範囲に噴出され、粉霧が掛かると天敵犬は悲鳴を上げて撃退された。

 鼻から鷹の(とうがらし)の粉をしこたま吸込み苦しがってのたうち回っている。


 僕達は意気揚々と、勝利の凱旋を遂げた。

のだが次の日、虎蔵が館にねじ込んで来た。



『この悪がきが何をしやがるんだ。』と言うから、


『いつもいつも、道を通るだけで吠えかかって来やがって、いい加減黙らせないと毛皮にするぞっ。』と、子供とは思えぬ言葉で応えた。

 

 父上が虎蔵に話してるうちに用意した秘密兵器をお見舞いしてやった。

 虎蔵は涙目で咳込み逃げるように帰って行った。 

 その光景に唖然としていた父上も、虎蔵に言ってくれてたんだ。


『虎蔵、お前の犬の躾けが悪いから、被害を受けた息子が仕返しをされただけだ。

 皆、怖がっとる。今度、誰かに吠えかかったら、儂があの犬を始末するからな。

 それが嫌なら、お前が連れて村の外で飼え。』


 これが僕のスキル発現前の小さな事件だったが、あとから考えると、こんな怒りが僕にスキルを発現させたのかも知れない。


 あとから父上が調べて分かったことだが、パン屋の主人が店の売上げを増やすために、虎蔵に犬の紐を長くさせていたらしい。

 怒った父上は、パン屋の一家を村から追放した。代わりに、資金を出して、村の孤児院にパン工房を作らせた。パンの値段が半額になったよ。



 僕とアズの作った秘密兵器は父上やマルス兄達に実戦検証され、ガルバ兄さんが太い竹筒で改良して何倍もの威力を持つ護身兵器となった。

 また、ガルバ兄さんは赤い煙の爆竹発煙筒を作り狩猟採取をする皆の携行品となった。


 ただ、僕とアズの二人は母上から長々とお説教を食らってしまった。母上の薬草畑から鷹の爪を失敬したからだ。

 

『鷹の爪だから今回は問題なかったけど、怪我や病気に必要な薬草が足りなくなったら、どうするの』とお叱りを頂戴したのだ。

 罰として、薬草畑の草むしりをずっとすることになったのだが、母上がなんかほくそ笑んでいたな。

 もしかして、母上が一番得したんじゃないか。



【 補足 】

  僕 》アザゼル 〘愛称〙 アル

  妹 》アリーズ 〘愛称〙 アズ

 

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