第5章 冥界編 6話 冥界の意地
――冥界
冥界の使い魔が暴走し、狂獣化した獣達による町への進行をとめるべくマリと使い魔が戦っていた。
狙いはマリだと言う事を知った使い魔は、元凶の二人組の元へ向かっていく。
「どちらにしろ……僕達。未来。ない」
「いえっまだ手段がある。あの使い魔さえ倒してコマにすればいいのです」
「あっ確かに」
2人は武器を持ち意気込みながら、再び遠くに目をやったが……既に使い魔の姿は消えていた。
「「なんで」」
――ズザッッ!!
その瞬間、足が抜けるように地面が影になり落ちていった。足元には黒い球体が食らいつきにが逃がそうとしない。
ザッ
「……いたい」
「どこですか、ここ!!」
急に現れた知らない空間に二人は顔を見合わせた。
『なるほど。前の魔力と同じような匂いだと思えば、また……貴方達ですか』
「「――!!!!」」
暗い空間からコツコツ……と音をたてながら使い魔が現れた。目は変わらず蒼く光らせながらため息をつく。
『姫が言っていました。1回目は軽く……2回目は恐怖を分からせ、3回目に殺せと』
使い魔は爪をたてながら、銃を引きづりながら近づいていく。2人は顔を見合わせて口をパクパクさせていた。
「待て。話が。したい!!」
「キシャ?」
『こんな事をして猶予があるとでも?』
「私達はただの依頼を受けてっ」
「シャ…キシャシャ」
『黙れ。実行したのはお前だろう』
使い魔は淡々と言い返し、銃を向けた。
『我が姫を狙った事……我々使い魔を愚弄した事。2回目だろうが手加減する気はない』
「…………チサ。全力。やらないと。死ぬ」
「ですわね」
二人は、後ずさりしながらも踏みとどまった。
(ここで負けたら帰れませんわ)
「魔力の氷花よ咲き誇れ」
「召喚。……水竜。手伝って」
女の持つ弓は凍りついた茨をまとわせ、男は天井から水の塊を生み出し、そこから小さな竜が形を見せた。
『前と同じっ』
「「死の願いを力となれ」」
その瞬間、二人の身体から黒い魔力があふれ魔力の色が変わっていく。
『……?』
(この匂い、死呪霊に似ている。それに、このこびついて聞こえる声、かすれぐあい)
使い魔はじっと耳を澄ませた。
――……親不幸がっっ、俺のなにが悪いっ
――…せっかく産んでやったのに
『よく分かりませんがその魔力らしき物体、貴方達によほどの恨みがあるようですね』
「ふん、ただの汚いゴミですわ!!」
「ゴミ。消えるまで。使う」
力強い声に潰されるように魔力が塗り変わり、二人の姿が変わっていく。
――バリッ ガリッッガッ
鈍い音が使い魔の頭上で鳴り響き、彼らにつきまとっていた黒い物体が無造作に飛び散っていく。
(この空間を破くとは。少々侮っていたかもしれません)
使い魔は、影に溶けるように消え地上に姿を出し林の中に身を潜めた。
『連携。主の力、我が身へ繋ぎ影となりてはじき飛べっ』
ガンッと打ち付け、魔力を込めた一撃の引き金を引いた。
「これ、ピーちゃん??」
一方、マリは狂獣を相手に戦いながら、指に巻きついた糸が赤みを増している事に気づいた。
(ぴーちゃんが私の魔力を使ってる)
「ギシャアシャアアアアアアア!!」
「あーもう!!」
飛んでいった鎌を一回転しながら取り戻し、再度魔力をこめて構えた。
「キリがないわ!! ぴーちゃんにまた、何かあったらどーすんのよっ」
ボンッ
「っ全くです。あの人どうせまた無茶してますよ?」
「ギャアアああっ」
マリが後ろに振り向くと、レフトバが立っていた。
「マリさんお待たせしました。ここからは任せてください!」
「いっつも姫さんにお世話になっているしな」
「任せて!!」
レフトバに続くように、ずらずらとレフトバの背後から武器を掲げた人々が姿をだしていく。
「……っじゃあ任せるわ! 死ぬんじゃないわよ?」
「「おぉ!!」」
その言葉を聞き届けると、狂獣の間をくぐり抜けながら一目散に走っていく。
「ガアアッ!!!」
ボンッ
「グルッっ……!?」
レフトバは小さなペットボトルのようなものに魔力をいれ爆発させる。
「同胞よ。私達が相手です!!」
手を前方に力強く広げる合図と共に複数の魔法が展開され、武器を持った者は走り出した。
『ねぇピーちゃん、返事して!!」
マリは、糸に声をいれても返ってこないのを心配しながら、使い魔を必死に探していた。木の上で登ったりして叫んでも声が返ってこない。
「ねぇちゃ!!」
「……ん? ユキどうしたの?」
「逃がす。したっ?」
「なら……速くこいつを片付けて引っ張り出すまでですわ」
空間が完全に壊れる音と共に、氷と水のオーラを身体にまとわせた二人と使い魔が向かい合っていた。
『ここで死なせるまで』
(このままだと相打ち。あまり血に頼りたくはないないが……姫の制限がある今仕方無い)
使い魔は、銃のレバーを動かし短距離用に切り替える。右手に持たせまま、両手の爪を地面に食い込ませ、うなりを上げた。
「四つん這いとはどうしました?服従します?」
「やけ。なった?」
「キシャアアアッ!!」
2人組は勝利を確信したかの頷いた。
「魔の雨。泳げ。」
「氷華よ咲け」
声と共に雨が降り始め、弓矢をまとう氷は雨を受け大きくなっていく。通った瞬間、雫は氷の刃となり使い魔に向かっていく。
(このままいけばっ)
「――っ!!」
『遅い』
使い魔に見えた影は氷と共に消えていった。二人がその姿を捉えた時には、既に背後から使い魔が手を伸ばしていた。
ガッ……バンッッ!! ザッ!!
女の方には銃を打ち込み、男の腕を爪で切り裂いた。その勢いは強く、二人は衝撃で吹き飛ばされる。
「シャアアア!!」
「……こいつっ!」
「まだやるみたいですわねぇ!!」
「喰らえ!!」
氷から生み出された霧から水竜が不意に現れ、使い魔の首元を噛みつき水をかぶせた。
『……っ』
使い魔は水竜を引っ掻き首元から離すと、水竜は血だらけになりながらも主の元に戻っていく。
『これは』
竜に気を取られていると、いつの間にか薄い視界の中に閉じ込められていた。使い魔が霧の中で視界を戻していると、不意に光が背後から差し込んだ。
パッ
『』
「ふふっ。作戦通りですわね……ネグ」
「うん」
使い魔は声も出ないまま力を失ったように倒れ込んだ。首元には先ほどの三角形になった物体が五本、氷の矢に巻き付くように突き刺さっていた。
「………」
「貴方は良いコマになりそうですから、なにがあっても手に入れますわ」
「一人。なら。負けてた。そのくらい。強さある」
「もう動けないはずっ――」
ボオオオッ
その瞬間、二人の足下から炎が舞い上がる。
「まだっ……倒せてない!?」
「っあつい!!」
使い魔は雑音があふれる脳内に耐えながら目をつぶる。
――数年前
「こんなところでびしょ濡れじゃない。親は?主は?」
雨の中で、マリは笑いながら拾いあげた。
「じゃあ、アタシの家においで」
「ピィ……?」
(姫に頂いたこの命。この恩を果たすまで!!!)
ずぶ濡れになりながら息を吸う。
「グルううっっっ」
使い魔は血と水を被りながらも立ち上がる。目の光りは霧の中を裂けるようにますます蒼く光っていた。
「これで倒れないなんて」
「魔力。弱ってない」
(それどころか殺気をまだ隠していた……?)
『姫に近づくなっ』
「キシャアアアアアアアア!!!!」
「「――!!!」」
使い魔は、口についたマスクに手を伸ばした。
「はい、ストップ!!」
その声とともに一本の鎌が刺さった。
「ピーちゃん! これは命令よっ!!!」
「――っ」
マリの声を聞いた途端、使い魔の眼光は消えた。使い魔はうつむきながら銃を弱々しく抱えながらマリの道を開ける。
「ヒ……ぇ…」
「思った通りあれを使ったのね。命令とか言い出したら大体これだし」
マリは、使い魔に石を投げた。
「速く手伝ってよ」
ガリッ
「……姫。ここは私に」
「いいから」
「…………はい」
使い魔は仕方なさそうに頷きながら微笑んだ。
「やっと、来ましたわねマリ・キャウ・ンットル」
「あぁ名前わざわざ調べたの?暇なのね。まっ、アタシ達は貴方達なんてどうでもいいけど」
二人は眉間をよせた。
「わざわざ。来た。夏の虫」
「はいはい、そんなことより! よーくも、ピーちゃんに手を出したわね??許さないから」
「速くやっちゃいましょ?それでみんな戻るんでしょ」
「はい、姫」
マリは鎌を向ける。
「ピーちゃんは最強、アタシも最強……この二人を、この冥界を相手にして帰れると思わないことね」
「冥界の意地。見せてあげますよ」
「ん…にいちゃの匂いっわかる」
「本当?案内してユキっ!! 」
「うん」
(苦しそうな声……にぃちゃ)
使い魔の武器モチーフは、水平二連を少し変えたものになっています。実物はトリガーが2つ、ついていますが、こちらの武器はレバーをひく事でもう片方の銃を使う事ができます。(軽く調べたものなので、間違いがあったら申し訳ないです)




