第5章 冥界編 5話 相手
争いが始まった天空の……少し前
冥界では、街の侵入を防ぐためマリと使い魔が戦っていた。冥界の使い魔が暴走し、狂獣化した複数の相手との戦いが始まった。
―――今襲われている。もし、俺に何かあったら……マリ、そのときは頼む。
「ちょっと!!! なにいっているのよ!!!」
マリは、彩夢の声が聞こえるレンズを震えた手で握っていた。
「ねぇ!! っ彩夢!!」
「ウシャアアアアア!!!」
「――姫っ」
グシャ!!!
マリに迫る攻撃を銃を盾に庇い、使い魔は木々に投げ飛ばされた。
「……っ――ピーちゃん!!!」
バンッ
すぐに使い魔は体制を立て直すと、マリの背後にいる狂獣の眉間を打ち抜いた。
「はぁ、気になさらず」
息を荒らげながら、小指についた紐を引っ張った。
『先ほどの声……私にも聞こえました。恐らく、あちら側も大変な事になっているようですね』
『えぇ、助けにいきたいけどこのままじゃ埒がっ!!』
足をコンコンとたたき、影に髪の毛を差し込んだ。
「アニマ、アニムス!!」
右の鎌には炎が舞い上がり、左手を胸にあて、黒い光をまとわせながら鎌を握ると黒い炎が鎌に移る。
「……失せなさい!!!」
狂獣達の中に入り込み鎌を振り回しながらなぎ払う。
「――連携」
(彩夢に力を)
マリはそう願いながら、指を噛むと血は紐のようになっていく。紐はどこかに繋がっているように、フラフラとたゆたった。
『ここまでしても、まだ一匹も倒せていないようですね。流石に、援護がくるまで耐えるのは不可能かと。姫……あれを使います。許可を。』
「嫌よっ」
「……弱力」
ガンッガっガッ
マリの攻撃を見計らい、先に敵に向かって打ち込んだ。一瞬弱まった敵に鎌は深く刺さり燃え上がる。
「クシャアアアアア!!!!!!」
『やはり効いていないようですね。姫、あれを使って…会話をします』
『…………もう、分かった!! でも、一段階までだから』
「はい。ダグルト……ガラッチェル」
マリと同じように髪の毛を差し込むと、爪が伸び口を黒いマスクが彼を覆う。髪は舞い上がり目は瞳孔が大きく見開いていった。
「ピーちゃん……っ」
「シャァッ」
一瞬の隙に、マリの前を使い魔が通り三匹の狂獣を一斉に遠くの地面に叩きつけた。
「グリュアアアアア!!」
「ダアアアアア!!!」
「カアアアああ!!」
『周りをお願いします』
「分かってるわよ」
マリは使い魔の跡に立ち鎌を構え、炎を巻き上げた。
『答えてください。何故、あなたたちはここを狙う』
『ツカイマ……お前ハ……アノ』
『ドウホウよ……タスケロ……』
使い魔は、3匹を崖の壁にめり込まし黒く丸いものを身体に飛ばすと、押し込むように影へと引きずっていく。
『カラダが動カヌ』
『早く答えてください。貴方達を助けるためにも、まずは狙いを聞かなければいけないんです』
『あのオンナを……コロサヌ限り我々ニ未来はナイ』
『アタマが……コロセとウルサイ、ノダ』
『……我々に敵意はナイ』
狂獣は影に抗うように体制を立て直し、使い魔に牙を向ける。
「オンナ?」
『ワカルダロ……お前ガ激愛シテイル』
「あぁ、なるほど」
影から抜けた狂獣の攻撃をヒラッと交わし、銃を頭上から叩き落とした。
『……らしいですよ姫』
紐に魔力を込めながら、片腕で銃を押し込んでいく。
「主ありての我が力。影と化して、悔いちぎれ」
地面が少しづつ影となり、巨体をも影へと容赦なく引きづりこんでいく。獣は溺れるように手をばたつかせるが、なにも変わりはしなかった。
「ガアアッ!!」
『静かに埋まっててください』
「さて……」
使い魔は影に埋まったのを見送るとマリの声に耳を傾けた。
『またかぁ〜、って今すぐ助けて!! 1人でこんなに無理よ!!』
『毎回毎回姫を狙いますね。仕方ないですが、、すぐに向かいます』
―――使い魔がマリの方へ振り向いたその時
パシっ
「っ……!!」
鋭い音が聞こえると共に痛みが走る。首元を見ると、三角形の物体から液体が流れ込んでいた。
「これは」
コロセコロセ、あのオンナをコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ…………
「―――!」
(これがさっき彼らが言っていたやつですか)
頭に声が響きわたり、全身に痺れるような感覚に使い魔は危機感を覚えながらも口元を緩ませた。
「はははっ確かに。他の使い魔なら簡単に従う威力がありますね。これ」
首から引き抜いた物体を踏みつけながら、マリにまた声を流していく。
「もう!!!」
マリは抵抗しきれず燃え上がりながらも攻撃をし続ける狂獣に競り負けていた。
『姫、命令を』
『何を急に!! 助けてって言ってるでっ……いった!? 私の鎌がああああ』
「……はい、命令通りに」
使い魔の目は蒼く光り、遠くの彼方に睨みをきかせた。
――コロセッ………ブツッ…ガッ
「姫に牙を向けるなら覚悟しろ。人間。」
「なんなの……まるで手繰りよせるかのように、魔力を辿っているなんて」
「あの。使い魔。元から。変…だった。」
「それに、あの目……ずっとこちらを見てるような……」
使い魔の気配に、2人は怯えながら小さくなっていた。
「あいつ。データ。ない。」
「困りましたね。あの子の依頼ですが……また手を出す事になるとは」
「絶対。殺される。……はぁ」
2人はため息をつきながら、牛乳とアンパンを無理矢理飲み込んだ。




