第5章 3話
急に変わりきった弥生との戦いが終わり、やっと帰れるかと思った矢先……僕らは罠にかかっていた。
「っ…………」
目を開けると真っ黒だった。
「…」
ガッ、、ガシャッ
両手が動かない。冷たくて重いものに手を取られている。恐らく足もだろう。
完全に捕まってるし、今の僕には逃げようがない。
『アラストリア返事をしろ』
……いない。まぁいいか。
もし俺が知っている展開なら、この重りは魔力対策されているし抵抗はできないだろう。
それにアラストリアから借りた魔力はもう底を尽いている。自然回復を待つしか今の僕には選択肢がない。
僕は僅かな魔力を流しブレスレットに声を入れた。
「……クロクか?」
『大変そうだね。実は最初から見てたんだけど』
「なら、最初に助けてくれ」
ナイフを刺した跡がまだズキズキと痛む。頭は痺れるし、足は変に震えて力が入らない。
『それがあんまり下の世界に姿を見せたくないんだ。文句言われるし。僕みたいな存在は姿を見せない方が勝手に神格化してだね……』
「大体分かった。」
現実ではがっつり見せていたが、なんか線引きがあるんだろう。今は時間もないし速く進めるか。
「1つ頼みがある。弥生を頼みたい。クロクなら僕より詳しいし強いから何とか出来ると思う」
『それはそうだけど。今は君の身が危ないよ?』
「いい。頼む」
『……分かった。でも無茶はしないで。』
クロクの呆れたような返事を聞き届けた後、何かの足音が聞こえてくる。
「あれ、もう起きたんだね?彩夢」
「……」
僕の檻の前に少年が立っていた。白い髪をなびかせ、紅い目を見開くように僕を見ると中に入ってくる。
「彩夢くんが僕を見るのは初めてだね!僕はヒロルだよ」
「ずっと貴方が欲しかったんだ。天空に現れたあの日からね」
「…………」
適当に聞き流し沈黙の中、口を開く。
「で、弥生はどうなっている」
「僕よりあいつ?」
「なにか?」
「ま、いいや。彩夢くんにとっては大事もの「だった」もんね? ??」
「……だった?」
僕は彼の言葉から全てを察した。
「もういないよ。 使えない道具なんて捨てるしかないでしょ」
「本気で言っているのか?」
「うん。あいつは僕を覚えてなかった。だから、思い出させてあげたのに帰って来なかったもん」
ヒロルは僕の前まで来てしゃがみ、イルカのぬいぐるみを僕に見せた。
「それ」
「あの中に忍び込ませたんだ! アイツが好きそうでしょ??」
あの時の感じた違和感はコレだったのか。ぬいぐるみに毒を入れたようなものだ。
……それにしてもコイツ。見た目が僕くらいに対して無邪気すぎないか?ただの頭のおかしいサイコパスか?
「ま、ただ姿を創っているだけなんだけどね!」
イルカは一瞬で姿を変えていった。
「………っ!!」
紫色や黒の液体が混ざらないまま、バラバラに手から落ちていく。なんだこれ。
「さっき創りなおしたんだ。これはね! 死んだ人の想い……うーん、簡単に言うと僕のペット達の餌かな。」
負の感情から出来たのが死呪霊。で、餌か。やっぱりこいつ死呪霊に関係があるのか。
「ペットは僕が作ったんだ! 凄いでしょ?弥生も抗えないし可哀想だったなあ」
(こいつが人工的に……?)
「お前と弥生の関係はなんだ?」
「友達だよ。弥生は僕と約束してくれたから力をあげたんだ。」
『腐った世界を1から創り直すためにペットと人間の友達が欲しいんだ。』
――
「さて……ここかな」
クロクは監視を引きずりながら弥生を探していた。
「誰だおま……っ!!」
「よっと。監視って弱いんだね。彩夢の方が強かったよ?」
ナイフ片手にバタバタとなぎ倒し広い部屋に出ていく。
(多分、ここかな……獣臭いし。魔素が変に乱れてる)
「グルッ!!」
「あー邪魔」
中に入ると、人や獣が倒れ地面の足場が無くなる中で、ひとつの影がうずくまっている事にクロクは気づいた。
「っ……ぅ…………ごほっ……」
「君大丈夫かい?」
(あぁ、この子が彩夢の言ってた子か)
「彩夢に頼まれたんだ。ここは危ないから逃げようよ?」
「……にぃ……さん」
弥生は下をうつむき続け、胸を抑えながら苦しそうに涙を流した。
「できない」
「どうしっ……」
クロクは、弥生の身体を見て反射的に退いた。
「ありえない。人間ごときがこんな事。アイツ、どこまで世界を歪ます気だ」
弥生は、苦しみながら彼に向かって歩みよった。
「……が…い。……さんを……た、けて。ぼくは……いい」
下半身はもう人間のようには見えなかった。あざは鱗のように浮き出ていく。
「なんで戻らない」
クロクは手をかざしながら呟いた。
「………人間の狂獣化なんて」
――
「ふざけるな!! 死呪霊を心臓に取り付けた!?」
ガシャ!
……くそっ
「以外とさ皆、自分の想いを叶えるためなら心臓くらい安いらしいよ?」
「そんな訳ないだろ!!」
心臓に死呪霊は張り付けた、力が負ければ乗っ取られる、もう弥生は喰われてる。
そんな事を聞かされた。……だが、しくみは知れたんだ。これなら弥生を助けれるかもしれない。まだくたばる訳がない。ここから出ればまだ。
「あっはは! じゃあ後で醜い弥生くんを連れてきてあげる! 最高だよ!?」
「だまれっ!!!」
―――彩夢!! 聞いて!弥生くんがっ
「……」
………………え
あぁ。速くコイツだけは倒さないと。殺さないと。
居場所が……居場所が。僕の、ば、
「ねぇ彩夢! 楽しい世界に僕と一緒に来てよ! 僕はね、この創造の力を授かった時決めたんだ。……世界を変えるって。」
「僕の創造と、君の中身を変える力……2つあれば何もいらない。弥生も他も!! 全部いらないんだよ!? 君だけいれば!!」
「……」
「いや? ……じゃあ、君を道具にしようか!? 僕だけの道具になる?」
その時、世界は酷く歪みを見せた。何かが胸の内から手を伸ばしている。
「――っ」
自分を拒絶するように息が苦しくなっていく。もう倒れているはずなのに身体が動かない。
助けないと、速く困難を抜けて弥生と帰るんだ。ちゃんとコイツは話し合って和解して、いつも通り毎日を……
(「弥生が行きたい所に行こう」)
(「ほんと!?」)
約束を守らないと。まだ終われない。
僕達の天空を…………偽の笑顔でやっと作った居場所か。
速く帰らないと……今からアイツらガキ共を殺すんだろ?
「入ってくるな。そんな事望んでいない。皆を殺すなんて」
平和に分かりあえる方法が……報復をして復讐だな。
皆と一緒に…全てを憎んで牙を向けようじゃないか。
人間は信じるものじゃない。喜ぶ顔?人間は敵だ。苦しむ顔ほど傷を癒す薬はないだろう? 血で血を塗りたくれ、思いしらせろ。
自分の脳に異物があるように、考えが塗りかわっていく。
「さっきからなんなんだ! ダメにきまっ……!!」
『お前に俺は救えない。抵抗も出来ない。所詮お前は俺の代わりでしかない』
「……っ」
不意に、アラストリアのような声が聞こえてくる。
その声は何故か懐かしく、記憶に深く残っていたように身体が受け入れていた。
「待って」
その声を思い出した時、僕は狭い世界に閉じ込められた。自分が誰だか分からなくなっていく。
『もう用済みだ、眠ってろ』
「まってくれ!? まだっ…………」
「あのね。アラストリア……おねがいがあるんだ!」




