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第5章 二話 罠

死は救済……そんな馬鹿げた集団と仲間の弥生が繋がっていた。

ある日、助けてと悲鳴をあげる弥生を探したところ、何か様子が変わっていることに気がつく。



僕は、弥生を取り戻す。

不なる想いの塊……それが彼をおかしくさせているなら、僕はこの力で取り戻す。

 前のように上手くいけばいいんだが。いや、信じてやるしかない。

「アラストリアアアッ」

『弥生を……助けてくれ!!!』


「ウルルルルゥゥゥギャアアアアア゛ア゛!!」

 獣は影をひきずるように弥生へ向かい飛びついていく。黒いものを弥生から引き剥がすように飲み込み、地面へ潜り込んだ。


「……」

 弥生は何も言わず立ちすくんでいる。


「やよっ……ん!!!??」

 急に身体が



「何が……」

 僕が立ち上がろうとしたとき、不意になにかが浮かび上がる。


 ああああああああああああああぁぁぁ!

 お前だけは、家族を奪ったお前だけは……!!!

 ただ、からかっただけだっっっっっっっ

 私は、お前をを……大事にっ、


「……?????」

 脳裏から声がはっきりと聞こえてくる。

 荒げた声が、悲鳴の数々が、僕の身体を押さえつけるように叩きつける。


「……っん!」

 声も出ないとはな。身体がどんどん重くなって自由が効かなくなってくる。脳から蝕まれていくような、気持ち悪い感覚だ。



「おにいさんどうしたの? なんかくるしそうだね!?」

 目の前には弥生がいた。



「――っ!」

 後ろで、あのアラストリアが倒れている。

『アラストリア!! どうしたんだ?』

『……っ』

 僕のように苦しそうにしながら口を開いた。



『こいつが……持っているのは、そこら辺のものをかき集めたものじゃない』

『!?』


「おにいさん。ゆかなんて、なめてもおいしくないよ?」

 弥生の表情、声を聞いて分かる。アラストリアの影響を全く受けていない。


『身内だ。全部。』

『みうち??』


 許さない許さない許さない許さないっ!!

 よくもよくもよくも――

 殺してくれたなあああああああ!!!??



『こいつが殺したやつだろう。我は、あくまで……無造作な不は喰えるがこいつのは限定的すぎる。こいつに向けた想いが消えないどころか我らも敵として認識している。』

『ちょっと待て、殺した? 弥生は小学生だぞ?』


 僕は、震えながら弥生を見た。

「どうしたの?」


 弥生は、僕が話していた間に爪を足に向けていた。

「――っ!?」

「ぼーっとしたらダメだよ。お兄さん?」


 弥生は足首を狙う。

「っっっっっっっっっぁっぁあ!!!」


 右足首を突き刺し、僕は声のでない悲鳴を上げた。


「おにいさんがいたがってる。ってめずらしいよね? もっとあそぼうよ? まだ……はやいし、もっとしてあげるね?」


「っっっっっぎあああ!」

 ……弥生はアキレス腱を抵抗することなく切っていく。

 とっさに魔力を足に流しているが泣くほど痛くてたまらない。



「つぎはこし? おにいさん、たまにいたがってよね?……なおしてあげるよ」

 たまに弥生に湿布を貼ってもらっていたが、それがこんな事になるとは。でも、腰なんてされたら身体が。


 殺してやる、殺してやる…!!


 もぅっうるさいな!!

 どうすんだよ、これっ


「ウルウウウウ…ぎゃあアアアア!!」

『まだいけるか?』

 爪をはじき、アラストリアはボロボロになりながらも牙を向ける。


『あぁ。』

 このままじゃダメだ。僕は手を無理矢理動かしナイフに手を伸ばした。

「あれ、化け物まだいきてるんだ。やっぱりおにいちゃんがいってたのは」


 目を離した瞬間に、僕は頭へとナイフを向ける。

 怖い。でも、やらないと……このまま終わってしまう。



 ――弥生に届かないまま。

『このナイフは……身体を奪おうとする全てのものを引き剥がすっ!!!』


 グギャ!!!!

 鈍い音が耳に強く残った。


「なに……してるの」


 ――ぎゃあアアああ!!

 耳にしつこく、こびりつくものがナイフに引きずられるように離れていく。



 カラッ

「はぁ…、はぁ……ぁ」

 治りかけの足をもう片方の足で庇いながら僕は起き上がった。脳の傷を治そうと必死に魔力が流れていくのを感じる。



「うそ? でしょ……」

「僕のことを知っているならこのくらいは予想つくだろ?」

 前もそうだったが、こいつは想定外のことが起きた場合立ち直るのが遅い。実際、前もそれで勝ったしな。



「で、話しをしようか?」

 弥生を地面に押し付け、手を片手と片足で踏みつけ、逃げ場をなくし拾ったナイフを弥生の目先まで近づけた。



「っくそ!」

「こんなこと僕だってしたくない」

 弥生は泣きそうな顔で、黒く取り巻かれたナイフを見ていた。


 正直、理性が無くなれば今にでも殺してしまいそうなほど僕には勢いがあった。

 おそらく目は昔のように光がなくなっているんだろう。でも、今はどうでもいい。



「これはなんだ? アラストリアは言っていた、これはお前の身内だと、」

「……」


「答えろ」

 僕は、真横にナイフを突き刺して脅す。


「これは、こいつらは」

「……っ? おに」


「お前が殺したのか??」

「っ……。 おにいさんっなんで……」

 その瞬間弥生は泣き出した。僕が抑えた手は冷たく……震えている。



「ごめっ……ごめんなさっ!!!ぅ……あぁぁ、あああああ……あっ……さん、たすけて、」

「――!?」

 もがくように弥生は苦しんでいる。


『よくみろ。こいつの目を』

『何言って……』

 酷く曇った目が元に戻っている。



 抑えつけた手足を離した瞬間、弥生は僕にしがみついた。

「おにいさん、いやっ……もう、したくない」

「弥生なのか」


 血だらけの僕を抱きしめたせいで弥生にも血がついている。そんな事も気にせず、ずっと泣きながらなにかに怯えていた。


「離れろ。血が流れているんだから。」

「…………」



「さっきは悪かった、お前が無事ならそれでいい。もう聞かないから帰ろう。」

「……ん」

 しがみついた弥生を立て直させて、目を合わせた。



「さぁ帰ろ。弥生?」

 急に目線が合わなくなった。弥生は固まったように光を失っていた。揺すっても何も反応がない。



「弥生っ!?」

 僕は知らなかった。


 弥生のこと。その馬鹿げた組織のこと。

 そいつらは簡単に人を切り捨てるということも。狙いは僕。そんな事しか知らなかった。その甘さが全ての始まりを生んでしまった。


『彩夢!!』


 ――ガッ!!

「……っ?????」

 頭に強い衝撃が走る。

(視界が暗んで…力がっ)


 気づけば周りにはいくつもの人影があった。

 僕を押さえつけ、そいつらは無気力な弥生を連れて行く。手を伸ばしても届くはずがない。


(くそっ……)

 なるほど。あいつが僕を殺すことなく、いたぶっていたのはこうなるのを知っていたからか。


 対策させた弥生を使って、アラストリアと僕を限界までおいこみ、最後に弥生を戻しては引き離し、心身に負担をかける。


 弥生は操られるように使われていた。そして、僕も手のひらだった。



『彩夢』

『アラストッ…リ……弥生は』

 黒ずんでいく視界に笑い声。あぁ、僕を捕まえればお前らの利益になるんだな。だが、あがける限りはあがいてやる。僕はそう諦めるやつじゃない。


 ブレスレットに声を入れた。

 あの二人と、クロク……仮に、僕がおかしくなってもなんとかなるだろう。


 ――っちょっt!!!   む!!



 何も言っていないのに、小指には糸が巻かれていた。

 これ以上はっ……もう



「彩夢はもう立てないみたいだね? 気も失ってるしぃ?」

 人影を分けるように一人の少年が僕の前に現れた。


「久しぶり!! これでやっと君が手に入るんだね。彩夢は僕の道具として生きていけばいいんだよ? 貴方を幸せにしてあげる」

 ――…………道具?


 消えていく意識の中で、ただその声だけが僕の内に響いていた。

おにいさんはね、いつも、ぼくをまもってくれるんだ。

どんだけ、きずだらけでも、まりょくがすくなくても、ぜったいにたすけてくれる。


でも、そのせいで……

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