第4章 21話 別れと再会
自分と向き合う。その感覚は間違っている。
「……」
先生が消えてからも、頭がずっとその言葉が回っていた。
自分なんて分からない。僕は、ただ生きることしか考えられなかった。毎日必死だった。全てが上手くいかない世界で、自分をコントロールするのが精一杯で。
押し殺さないと、好き勝手に生きればいつか本当に
(「救急車に運ばれたって! 坂から落ちて……」)
奪うことさえいとわないだろう。あまり自分に詮索をかけたくなかったが、考えてみるべきだろうか。
「おーい、彩夢?」
「ん……クロク!?」
ふと顔をあげると、なぜか僕の目の前にクロクがいた。彼は金髪の髪をなびかせながら笑っている。
「やぁ、久しぶり! なんか、女の子っぽくなってるけど元気そうだね」
そう言うと、クロクは学校の教室が見えるところまで歩いていく。
「ここが学校か。僕が知っているものよりゆったりしてるね」
「周りから見たらそうかもな」
実際、外から良いように見えても、僕に取ってはカゴみたいなものだ。居心地悪いし。ゆったりなんてない。
「君の事は色々あって見ていたよ。思ったけど今の人間って結構物騒だよね?無意味な争いばかりしているし」
「まあ、平和が気に食わないとか、つまらないとか、そんな思考を持ったやつはいるだろうな。」
「そうだね。積み重ねた平和さえ、人間の欲で消えていく。人間は更地をみた後、後悔した……って詩もあるし。」
クロクは聞いたこともない詩を言葉にしていた。
「で、どうしたんだ? わざわざこんな所に来て」
「あぁそうだ。それ言わないと駄目だよね。」
クロクはしまったという顔をした後、すぐに口を開く。
「えーと、君と一緒にいた子、助けた子いるよね?その子に用があるんだ」
「何する気だ?」
クロクが良い人なのは分かっているが、その分不安もあるのも本音だ。戦う時の容赦ない表情を見る限り、目をつけられたら不味い気がする。
「いや、物騒なことはしないよ。僕はね、その子に合わせたい人がいるんだ。」
「なるほど」
「だから、今日の帰りにでもここに連れてきてほしい。君にとっても大事な話だよ」
――数分後
「はい、ということで今日も頑張りましょう」
先生は、さっきの事を全く思わせない雰囲気だった。流石だな。
「大丈夫? 零ちゃん、先生に何か」
「おい、大丈夫かよ?」
そして、休み時間になると、佳奈と打破が心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫。先生と話し合っただけだよ」
「なにを?」
「僕と学校についてこれからどうするかについて。先生も改善考えてくれているし、これからはなんとかなると思う。」
「本当?」
「あの先生、あんまり信用出来ないんだけどなー」
まあ、確かに何かあった時にどう動くかは分からないな。人はそう簡単に変わらないし行動もできない。
「信用して損はないと思う。あの表情だったし」
そういうと、二人も僕が言うならと承諾した。
「あと、聞いたんだけどお前転校するの?」
打破は囁きながら聞いてきた。
「うん。皆には言わないでね。出て行ったら安心しきって、また事が起こるかもしれないから。曖昧にする予定。」
しばらくは先生にも曖昧にするように頼んでいる。まあ、こんなクラスだし曖昧でも何も言われないだろう。
あとは、記憶を消して何故いじめをやめたか?とか、誰にやられたか?を分からなくする。そう記憶を消してしまえば、佳奈にも刃は向かないし、考えるのを辞めて自然に消えるだろう。
高校生だし何かをすれば必ず痛い目を合う。それだけを覚えさせればいい。
「そうか寂しくなるな。……本当にありがとうな零。」
「うん。これからは皆で頑張ってね。応援してるから」
「あぁ!」
打破は力強く頷いた。
雑音が完全には無くなってはいないが、前よりは静かに授業をこなした。怯える生徒、馬鹿らしいとシラをきる生徒。高校生まで育ってしまえば、具体的な損害が来ない限り改心する奴は少なく、時間はあっという間に過ぎていく。
「最後なのに変なこと言って悪かったな」
「いえ……自分を見つめ直す良い機会になりました。では、また」
僕は、先生に挨拶を済ませると打破を見送りに行った。そういえば、先生達が話し合った結果、僕が言った提案に近い罰が下されるらしい。これで抑止にはなるだろう。
「俺、パソコンとか出来るから……! なんか力になれることがあったら行ってくれよ。 とりあえず、なんか力になりたい」
「わかったよ。 じゃあ、また頼みに返ってくるかも。」
「もちろんだ、じゃあな! バイバイ!」
「元気でね、バイバイ」
僕は笑顔で去る彼を見送った。これで大体は終わったはずだ。
「佳奈、少し屋上にきてほしい。」
「――っ! うん……」
彼女は顔を赤くしながら頷いた。屋上……なるほど。
「合わせたい人がいるんだ」
「……あ、あ、あ! そ、そっか」
佳奈は恥ずかしさのあまりさらに顔が赤くなって顔を仰いでいた。
「で、どこにいるの?」
「いやその」
屋上についたが誰もいない。とりあえず呼んでみるか。
「おーい、クロクー」
「くろく?なに言ってるの?」
――そのときだった
「本当にありがとうございました」
急にしらない人が屋上の奥に急に現れ頭を下げた。
「え?」
この人を見た瞬間違和感を抱いた。生気を感じないというか、なんというか。
「――!!!!」
そんな僕とは違い佳奈は前のめりになって声を失っていた。
「お……かあさん……?」