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地平線の仲介者 〜死んだはずの僕が現実で転生を止める役目を受けました〜  作者: 大井 芽茜
現実世界でまた

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第4章 17話 打破する切り札

  生徒指導室の奥から扉の開く音が聞こえ、女の先生が出てきた。黄色のカーディガンを羽織っていて見た目は40くらい、第一印象はおっとりとしているように見えるな。


「この件は申し訳無かったね〜。でも、流石に退学させろっていうのはやり過ぎだと思うの。高校って人生に大きく影響するし。すぐに判断は出来ないから、証拠を確認してから他の先生と検討させてほしいな」

 教頭の際に、問題点は出しきった。次は、学校の状況を見て何故対策をしないのか?を読みとる。そして、教育の見直しを促さなければいけない。


 校長は、僕らが使ったボイスレコーダーなどの証拠を箱に入れろと指示をした。すぐに都合のいい箱が出てくるのは用意がいいというか何というか。


 これまでもしてきたかのような手つきだな。


「わかりました。しかし、クラスの未来に関わる問題です。退学がキツイというなら対象の生徒に対してある程度、1ヶ月ほどの活動停止を妥協案として提示します。」

「は!?」

「おい、何をっ」


 何故、こいつらが勉強もしないのに学校にいるのか? それは部活動があるから。


 彼らは勉強しなくてもスポーツで大学の推薦を取れる。その未来があるから周りの足を引っ張る余裕もある訳だ。



「彼らが勉強しないのに、部活までの時間つぶしのために居座り他人の邪魔をする。だから、それに制限をかける事で推薦が危うくなり勉強の面も必要になる。これで解決すると思いませんか?」

「それは、また考えますので……」


「またっていつですか?しっかりと経過と結果を教えてくれるんですか?」

「それは」

 校長は目をそらした。このままだと、うやむやにされるかもしれない。子どもだからと忘れる事を想定している可能性もある。



「それでは納得できません。毎日、話し合いを行い、経過を渡して頂けるなら満足しますが、それをしないと言うならしっかりと処罰して頂けるか怪しい。校長として、この事実を認め、対処を行うと宣言してください。しかるべき手を打って頂けなければこちらとしてもやることがあります」

「……」

 僕の言葉に反応したかのように、校長の雰囲気がピリッと変わるのを感じた。



「貴方には関係ない話ですよね?……なんで、生徒達の未来をそこまで潰したいのか疑問だわ。可愛い生徒達が勉強が出来なくても人間関係が上手くいかなくても、部活を頑張って結果を出すならそれでいいじゃないですか。」

 なるほど。そういう系統か。



「そういう問題じゃないんです。学びたい子が邪魔され不登校になるという事実を……」

「部活を頑張ってくれた子が、名を上げてくれたから今の学校があるんです。スポーツがなければ、この学校はありません。その子たちも部活ではしっかりと記録を残している貴重な存在です。」



「なら、いじめられた側はどうなるんですか?」

「もちろん、1生徒としては大事に思っています。ただ、人付き合いに恵まれなかっただけ。部活の子たちはストレスが溜まりますからこういう事もよく起こりますよ。それもコミュニケーションの勉強では?」

 勉強? 我慢しろ? その言葉だとまるで彼らの方が偉くて部活しない奴は下というような言い方にも取れてしまう。


「もういいですか? 仲間思いな気持ちは伝わりました。でも、あまり部活生を不安にさせるような言動をしないでください。不安定な精神だと大会とかで調子が悪くなってしまうし。」

 周りの加害者が便乗するように首をふる。


(運動部至上主義か。揃いも揃って厄介だな……)

 ここは佳奈の大事な思い出の学校だ。学校全体を落とすような事はあまりしたくない。学校を無くすわけにはいかないし。


 ……あくまで私立。校長が全てで、教育理念が何でも正しいと押し通れてしまう環境だ。


 僕の予想として今、周囲の目が鋭くなっている。問題が大事になった今、何かしら彼らに対策をしなければ駄目じゃないのか?

 このいじめの事実を認めてくれるのを願っていたが、現実は私欲にまみれた隠蔽か。



「待ってください。」

 考えていると、打破が手を挙げて立ち上がった。


「その発言は校長としてどうかと思います! 俺達は、この学校で学ぶ為に来ているんだ。部活やってるだけのやつが上みたいな言い方は気に入らない!」


「校長。お言葉ですが、学校はあくまで学業のための場所です。学業を妨げるような生徒がいた場合、その生徒を援護するような発言は校長として間違っていると思います。」

 教頭も打破に付け加えるように加担する。


 校長の歪んだ教育方針……校長としての責任や教育方針の歪みを指摘する。


 とりあえず、やってみるしかない



「貴方の発言はいじめを援護するかのように聞こえます。未来を、居場所を奪われそうな子どもを救わない、加害者に見方する、隠蔽……そんな学校に教育は務まらない!! これは、上に報告する案件にまで大事になっています。」


「そ、そんな揚げ足を取らなくてもいいじゃないですか。確かに、少し口走ってしまった事は謝ります。しかし、それは生徒を大事に思っていたこそ…………」

 確かに生徒に対する思いやりは本物だと認めよう。だが、何も対処せず野放しにする挙句、加害者を上げるような発言は許されるはずがない。


 それに、そんな部活さえあればいいような言葉を口走るならモラルが無いって話だ。



「教育委員会に好きに言ってください。それで貴方の気が済むなら。まあ…あそこは……」

「分かっています、侮らないでください。確か教育委員会は公立のものしか有効ではない。私立の場合、理事長か私学課、警察、マスコミ、弁護士あたりの選択肢があると調べました。」


「……!」

「知っていますよ。もちろん。」

 校長は予想の斜め上にいく発言に固まっていた。


 悪いが、教育委員会が使えない事くらい調査済みだ。泣き寝入りするなんてとんでもない。

 私学課でも注意程度。理事長に相談しても人による。そのくらい簡単に調べあげられる話だ。



「でも、、証拠も無いのにどうやって?」

「あっ…」

 そういえば、さっき証拠を取られていた。校長はボイスレコーダーなどが入った箱を抱え込んでいる。


「あーこれは……困りましたね。」

 その途端、校長の唇が緩むのを僕は逃さなかった。



 安心しきっているみたいだが、そんな訳ないだろう。まだ手段は終わっていない。


「全く校長を脅すとは何事ですか!!?? 学校の妨げになるのは貴方の方ではっ……」


「誰がこれで全部なんていいました??」

 そこにあるだけ。そんなわけがないだろう?


「…………?」

「このくらい計算済みです。デジタルなんて何が起きるか分かりませんし、信用しすぎないのが正しい使い方です。」

 僕が佳奈に合図を出すと、鞄から紙を取り出して僕に渡してくれた。佳奈は逃げるかのように後ろに消えていく。


 この戦い、周りからしたらあまり関わりたく無さそうだな。

 まあ、いいや。もう終わるし。



「これが次の証拠です。」

 僕は、あるコピー用紙を校長に渡した。


「……?」

 校長は目を細めるように紙を睨みつけるようにギチギチに書かれたプリントを見ている。


『……年……日……曜日…時 …分 場所……。クラスの……、……から…………の被害を受ける。周りにいた人……、……』


『…時…分 クラスの……グループから……の被害。この時、強い不安を抱いた。』

 校長に渡した紙にはそんな言葉が続けざまに細かく書かれていたのだった。



「受けた被害は全て紙に書き込んでいます。プリントの裏なんて誰もみないし、無駄もはぶけて自然に優しいですよね。まぁ、コピーなんで「お好き」に使ってください。」

「そんなもの……!!」


「知らないなら教えます。細かく日記を書く事によって立派な証拠として使えるんです。」

 校長の瞳孔が一瞬開いたように見えた。



「ちなみに佳奈にも書いて貰っています。暴力の怪我跡もしっかり記録していますし、小細工とか言えません。」

 日付、日時、場所、加害者の実名、細かい被害、内容、その時に受けた気持ち、出来るなら周りにいた人などを毎回毎回書いていけば証拠になる。


 相手は、高校生だし、何があるか分からない。だから、佳奈の部屋に積み重なっていたプリントを見た時から、これだけはしようと頭の中で固まっていた。



 それに、まだ証拠は残っている。

「打破。」

「あぁ、ほらよ。」

 打破に預けていた石を受け取った。


「何ですか…その石ころ……」

 校長は、疲れたように息があがっている。



 この石は喧嘩の時に投げていた魔鉱石だった。それにアラストリアの力を使う。


(アラストリア)

「――再生」


[ザ、…ッ………生徒達の未来をそこまで潰したいのですか? 可愛い生徒達が勉強が出来なくても人間関係が上手くいかなくても部活で……]

 校長の声が冷たい石から聞こえてくる。周りは不思議そうな目でその石を見つめていた。



 アラストリアの力を使い、声を録り記録する物として扱えるようにしている。僕の場合、基本的に魔力があるものなら大体の概念を変える事が出来るらしい。


「っ待ちなさい……それは盗聴です。」

「生徒に罪を述べるなら調べてから言ってください。私本人をいれての会話なので自己防衛に入ります。」


「訴えっ…………」

「仮に、訴えられても私はそれに対抗する知識があります。はったりだと思うなら、これ以上学校の評価を下げてもいいならご自由に」

 僕は、校長の目の前に立ち一瞬睨み付けた。まあ……はったりなんだけど。


「ーーっ」

「もういいです。貴方みたいに、小さい事に見ぬ気もしないまま事が大きくなってから必死に隠そうとする人間に教育者は務まらないかと思います。教育から降りてください。」


「なっ……」

「学校は、生徒がいないと成り立たない。そう、少ないから、利益に不必要だから、と切り捨て、生徒の将来を奪う貴方は経営者として失格だ。」


 校長は後ずさりをしながら壁にもたれかかった。

 僕は転校生だ。貴方には僕の事なんて何も知らないし、未知の存在だろう。この勝負、準備してきた僕が有利になる。



(逆転は不可能だろう)

「それは…」

「辞めるか、僕の意見を前向きに検討して頂くか……決めてください。ちゃんと録音しますから。」

 僕が近づいていき、石を向けると校長が静かに口をつぐむ。



「校長、頑張ってくれよ!!」

「そんな事されたら……春のシーズンが!!!」

「大会終わってからでもいいじゃない!!!!!?????」

 いや、まだ解決していない。後はお前らか。


「大事な生徒を守るだけが教育じゃないんです。本当の教育は子どものために何をするのかを考え、よき未来へ導く事では? 記録ではなく、人間として。運動部に頑張って貰いたいならスポーツマンシップくらいは持たせましょうよ。」

「……」


「他人の未来を潰そうとした人間にスポーツマンシップはあるんですかね? 相手を思いやり敬意を払う。この人達に選手を語る資格はないかと。」

 校長に追撃をしまくって反応がない。これまで、自分がしたいようにやってきたんだろうな。だからこそ、粗が出る。



「そんなもの無くったっていいだろ!」

「黙って受け入れろ。お前らがこれまでした事にしたイジメの数々。償うには足りないくらいだ。これまで何したか読んでもいい。校長や教頭、その他生徒の前で。」

「こいつっ」


 佳奈によれば、僕が来る前はもっと酷かったらしいし、このくらいしないと分からないだろう。

 何かをすれば、罰を受ける。それが社会だ。


「はぁ。そろそろ授業が終わります。校長、今日はこのくらいにしませんか? 時間も遅くなります」

 教頭は立場を迷っているような表情をしながらも、校長の傍に立った。


「まじめな生徒にはしっかりと教えて伸ばすべきです。校長と言うものは生徒への愛情がないといけません。しかし、偏ってしまえばただの差別です。」


「……君の考えはよく分かった。だが、校長は放心状態で私だけではどうにもならない。今日の件は先生達と話し合い、また報告しよう。しっかりと毎日提示するのも約束する。今日は解散してくれ。」

 必死に残ろうとする輩さえも追い出され、問題児達はそれぞれの顧問や先生に呼び出されていた。

 他の生徒達は喜ぶ事や悲しむ事なく何かを引きずるように帰っていく。



 僕としては高校生だし、再発防止も兼ねての行動だった。

 でも、現実は上手いようにスッキリと解決なんてならないな。


「昨日も今日もありがとう。」

 僕は、自転車に乗った打破を見送り、佳奈と話しながら帰っていた。


「こちらこそ。一緒にしてくれて助かった。徹夜は誰かとした方が効率化がいいしな。」

 話し合いの際に、ボイスレコーダーが壊れる事を予想して、言っていたことを全て書き上げたものを取り出した。

 役には立たなかったが……いちよう書いておいて間違いは無いだろう。



「でも、元は私が悪いんだよね。馴れ馴れしくしちゃったから。」

 話し合いのときに分かったのは、最初のきっかけは佳奈だったという事。


「そうだとしても、数人で暴言や暴力を振るって言い訳がない。」

「でも」

 このままだと、また佳奈は自分を責めてしまうかもしれない。


「溜め込んだストレスを吐き出せないまま行動に移すのは、人間らしい特徴だ。スイは佳奈を傷つけたくなくて抱え込んだんだろうな。」

 ある意味、その優しさが争いを産む結果になってしまったがな。


「……私…が1番悪いよね?」

 彼女は全部自分のせいにする癖が着いてしまっているようだ。いじめられた人間は大体こうなってしまうのは呪いのようなものか。



「違う。そうだな。僕が考えるに、人生は絵みたいだと思っている。好きに描いて描きまくって、消せる所は消したらいいし、消せないところは残して覚えておけばいい。」

「描きまくる?」


「自分が死んだ時に、人生の絵をこの世に残す。毎日毎日、僕達は誰かの印象に残るように少しずつ自分を描いていると考えている。生前というよりは……この生活で感じた事だ。」


 まあ、僕の人生の絵は適当に絵の具の入ったバケツを、キャンパスに殴りつけて終わりを迎えたようなものだろう。



「僕は後悔しないように好きに生きて欲しい。ある程度の事だけを教訓として頭に入れていればいい。失敗なんて絵にとっては味になるしな。それに前に進まなければ絵はそのままだ」


「うん…私。まだ頑張れってみる。いっぱい時間あるから」

 確かに、まだ高校生だし沢山時間はあるな。


「っ……ごめんなさい。 貴方も高校生で……」

「気にしないでいい。ある意味、この毎日も悪くない。改めて気づく事も多いし、その考えを生きている人に伝えられるならそれでいい。」

 まだ帰るチャンスはある。今は何も分からないが、今は僕に出来ることをやるしかない。



「あとは、後仕上げだけだな。気を抜かずに頑張ろう。」

「うん。」

「あぁ、そういえばチョコ美味しかったよ。パリパリしてて甘みと合っていた。」

「あっ食べてくれたんだね。」

「校長と話す前、瞬時にほうりこんでいた。流石に長くは頭が持たないからな。」

「そっか……役に立ってよかったよ。」

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