第4章 7話 前へ
高校にいつも通りに通えるようになりたいと佳奈から相談された僕達は、準備を進めていく。
…が、佳奈から女になって欲しいと告げられた。
僕は男なんだが、マリに頼み込んだら何とかして貰えるか?
「よし。これで完璧ね。」
マリはドヤっとしながら眼鏡をかけて僕が全身に見える距離まで動く。
「どうかしら?」
「おーー! めっちゃ美少女じゃないですか!!! ほらウィストリアさん、休みがてらに見てくださいよー。」
「あ、あぁ……見ているが、もはや別人だな。」
眼鏡からは2人の声だけでなく、他の人の声も騒がしくなっていく。
佳奈の願いを叶えるべく、何故か男の僕を可愛くして欲しいと頼んで3日が経った。
まさか、骨格や体型までいじられる事になるとは思わなかった。不思議な気分だな。
「カップはデカい方がいいよね!」
「走りにくいのは嫌だな。最小限でいい。」
「えぇー」
仕上げにマリがウィストリアに頼み、中身以外はすっかり女っぽくなってしまった。
「そこまで変えなくても」
「脱いだらバレるじゃない。」
「脱っ…!?」
まぁ、色々と疑問はあるが、マリに頼んだ以上ある程度は言う事を聞くべきだな。
「あ。彩夢変な事しないでね。しないよね?」
「しない! 僕を何だとっ……」
「よし、後は」
僕の言葉を聞き流しながらマリは僕の長い髪を結ぶ。使い魔はその様子を静かに見守っていた。
「ポニーテールって言うのよ。」
「知ってるけど……動きやすくて、風当たりがいいんだな。」
ウィストリアから貰った鏡を見ると、僕の原型が無いほどの美少女がそこに居た。
「おにいさんすごーい!」
「……弥生もいたのか」
弥生がヒョコっと顔を出して目を輝かせていた。
「弥生、行きますよ。」
「はーい、みんな行ってくるね!」
「あぁ。」
カクラジシと弥生は風のように消えていくほどに忙しそうだ。マリはゴソゴソと荷造りをし終えると僕の背中を押した。
「よし、今すぐ佳奈に見せにいくわよ!」
「え?」
いつの間にか、僕は佳奈の家まで来てインターホンを押している。
「はーい!」
「その。遅くなってすまない。」
僕がそう言うと、佳奈は目を丸くして動揺していた。
「えっ……と、……だっ、……だれですか?」
「へ?」
バタン
「…………………。」
「すみません!いや、あの、気づかないよ……。彩夢君だったなんて!」
佳奈は申し訳なさそうに頭を下げた。
「そのくらい変化があるという事だ。気にするな。」
「もちろん、佳奈にも技術は教えてあげるわ! ねぇ、ピーちゃん。」
「はい、姫。」
使い魔はマリに渡された鞄を佳奈に渡した。
「こんなに!」
「そう! いいの揃えてるのよ!」
新鮮な魚を売るおじいさんのように、マリは道具を机に置いていった。
「結構お金とかかかりませんか?」
パッと服とか合わせて10万はかかった。ウィストリアは別にいいとは言っていたが、天空とマリの金銭感覚って凄いな。僕は日焼け止めさえあれば何もいらないんだが。
「あんまり安いと肌に悪いのよ。」
「へーそうなんですね。」
佳奈は関心するように見とれていた。
「これはねー」
「うん。」
マリは道具を見せて解説している一方で、このままだと1日メイクの講座で潰れる事を僕は察した。
「悪いが細かくは次にしてくれないか? 今日はやる事が。」
「あっそう言えばそうだったわね!」
マリはガっと机の端に道具を寄せた。水を飲み場の空気を切り替える。
「今日は何をするの?」
佳奈はメイク道具を気にしながらも、僕に関心を向けた。
「偵察だ。」
「え! 行くの…私の学校に!?」
佳奈はアワアワと目をクルクルさせる。
「混乱させて悪いが、出来るだけ速く様子を見たいんだ。生活風景、治安を見るだけでも分かることはあるからな。」
「そうですけど、あの、どうやって入るんですか?」
「大丈夫! ちゃんと用意はしているわ!」
マリはそう言うと、教科書を興味深そうに読んでいる使い魔に合図を送った。
「…っ、すみません。つい。」
使い魔はすぐに立ち上がると、何をするのかと思えば急にボタンを外し始めた。
(……?)
「あっちなみに場所は何処かしら?」
マリはスマホの地図を見せると、佳奈は焦りながら場所を指している。
「あの……何してるんですか?」
僕の声を聞くと、使い魔は喋れないのか気まずそうに会釈をして片方の肩を出し
ーガリッ
と噛み付いた。鈍い音と共に血が流れ始めていく。
「……っ」
大丈夫なのかこれ?
(聞いた内容より痛々しいんだが?)
(そうよねぇ。止めたんだけど。)
マリは少し困り顔でうつむいた。
使い魔は、牙を離し体から黒い羽を咥えて取り出した。羽には血が少しもつくことなく輝いている。
「これで……いいですね。」
使い魔はフラフラとベランダに出て口笛を吹くと、たくさんの鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「ピチピッ」
「チュチュ!」
数匹の小鳥が肩や頭に乗っかかっる。鳴き声で聞こえないが、何かを話しているようだ。
「お願いします。」
「チピチッピ!」
小鳥が羽を咥えて飛んでいくと、使い魔はそれを見守りながら元の場所に戻った。
「すみません、お見苦しい所を見せてしまって。でも、これで大丈夫です。」
「えぇ。準備は出来たわ。」
マリは血の糸を小指に巻き付けて自信満々に頷いている。
「僕は何すれば?」
「何もしなくて大丈夫よ。繋」
一瞬に佳奈と僕の指に血の糸が巻きついた。糸は何処かに繋がるかのようにフワフワと浮いている。
「えーと……んっ!?」
問いただしている間に、ある学校の廊下が目の前にあった。
「私の羽は刺した場所を映像として見ることが出来ます。今、屋上に刺していますが影になっているのでバレませんし、脳の信号は羽とリンクしてるので、ご自由に動いて見てください。」
使い魔の声が脳に響く。
「あのっ……これ。」
佳奈は隣で混乱していて今にも倒れそうだ。
『佳奈、大丈夫、姿はぜっーたいに見えないから! 練習だと思いなさい。また行きたいんでしょ?』
マリの声も響くと、佳奈も、はい。と覚悟を決めていく。
『あっ一緒に行動してください。1枚しか無いので』
「……案内するね。」
「行けるか?」
「はい。私なりに出来る事はしたいから。」
私立、芽出高校……私立なら口実は思いつくな。どの部屋も静かに勉強している。
『目標達成に向けて』『日々精進』『向上心は高く大きく』
ペタペタといろんな文字が並んでいる。
「マジメなんだな……」
「ここだけだよ。」
このフロアは全体2年生の部屋だ。4つの部屋を歩き終えると奥に暗い雰囲気を漂わせる教室があった。
「っ」
無意識のうちに、僕は息を飲んでいた。みるからにやばそーな。
「大体分かった。とんだ押し入れ部屋だな。」
「……はい。たまたまここに当たった人は、皆辞めちゃいました。」
僕が教室に入ると、「自習」と書かれた黒板に大量のプリントが積み上がっている。
「でー………がさー!」
「はっはは!コレ見て受ける!」
「ティクフォク撮ろうでー」
1部の机は投げ捨てゴミだらけだ。黒板にも落書きし放題だな。
「よくこんなんでやっていけるな。潰れないか?」
「全くですよ。頭がいい方の私立ですけど、ある程度は緩いですし補習とかも皆が無視しちゃいますし。」
ここに乗り込むのかー辛いなー。しかし、今は2月。新学期までに蹴りをつける必要がある。
「よし、じゃあ今日はこれまでだ。」
佳奈が僕の背中に掴まっているし僕も本当に乗り込めるか不安になっている。
こんな場所なら、同性の仲間が欲しい気持ちも分かる。
「彩夢くん、どうかな……?」
「やるよ。それに、正しい人が何も出来無い環境が嫌いなんだ。」
佳奈が自殺しかけた程だ。ちゃんと見てないし、まだ判断出来ないが……そんな人が平気な顔で過ごしているのが好きじゃない。ただ、それだけだ。
「なぁ…どうしてこんな学校に残りたいんだ?」
僕がそう聞くと、佳奈は下を向きながら口を開いた。
「私、小学生になってからお母さんがいなくなったんだ。……ここはお母さんが過ごしてお父さんに出会った場所で。」
「……そうだったんだな。」
「急にごめんなさい。……私、小さい頃にお母さんの思い出話を聞くのが好きだったんです。そして、いつか…ここの高校に入学したい!って思って」
…確かに母がいた影が佳奈の部屋にはなかったな。
「一生懸命勉強して、やっと入学したんです。……でも上手くいかなくて、馴染めなくて。」
玄関に出ると、横断幕が沢山並んでいる。
ラグビー、バスケにゴルフ…何でもあるな。陸上は無いが。
あの何割かは部活から…というのもありえるか?
「もう嫌で……頑張っても報われなくて。それがいつの間にか、自分もお母さんの元に行ってもいいかなって。」
「……そうか。」
僕には、親がいたから……どんだけ辛かったか気持ちは分かりきれない。けど……必死にどうにかしたいと足掻いていたんだなら、
「でも、そんな時に彩夢くんに出会った時……スっとそんな考えが消えたの。」
「……」
佳奈は僕を見て微笑んでいる。
「希望が……まだ頑張ろうって思えたんだ! 私、ここを卒業して笑顔で終わりたい。」
「分かった。なら、すぐにでも動かないとな。」
「うん!」
目的は、佳奈の保護とあの状態の緩和……あとはクラスを離してもらえるように動くとかか…
「あっ彩夢くん! 前! 前!」
「ん?」
気がつくと、目の前に水が飛び散った。
「っ!??!」
背を反らした反応で、姿勢を崩し佳奈に支えられていた。
「これでヨシヨシ。今日も綺麗だねー」
おばあさんがホースを撫でながら呟いていた。何だ、花の水やりか……。
「ビックリした…」
「ふふっ、だね。」
佳奈は僕の姿勢を戻してくれた。
「私、もう1回頑張ってみる。」
「あぁ。」
「めっちゃプリントが家にあるじゃない。」
「勉強ができないので…先生に頼んで持ってきて貰っているんです。」
「裏は白面だし…くっつけたら重ならないかしら?」
「流石に…数百はあるし、無理だろう。」
「あっ彩夢くん、実は同じ紙が3枚ずつあるんです。これで勉強しててください。」
「分かっ……なんだこれ。数学………。」
本当に遅くなり申し訳ありません!!
話は変わりますが、活動報告の方で少しずつ彩夢などの紹介文などを書いていきます。明日更新予定です。




