第4章 5話 準備とチョコ
佳奈を説得し、いじめを解決する事になった。
使い魔とマリはとある2人を捕まえて天空に連れてくる。
「これでよし」
ウィストリアは2人の手に鎖をまきつけ、城の地下室に閉じ込めていた。
「離してくださいまし!」
「出せ!」
「君たちが情報を出さないならこの件が終わるまで拘束する必要がある。それまでは大人しくしておいてくれ。」
ウィストリアはガチャンと扉を閉め鍵をかけた。
「本当はこんな扱いをしたくないんだが。」
「大変ですね」
「お疲れ様です、 ウィストリアさん!」
ウィストリアにかける言葉を探していると、後ろからスプラウトが顔を出した。
「スプラウトか」
「具合が悪そうですよ? 私も手伝っていますし1日くらい休んでください!」
「しかし」
ウィストリアはそう言いながらも、頭を抑えながらフラフラと歩いている。前に倒れて復活したばかりなのになんか前よりも具合が悪そうだ。
「そうですよ。寝るとか甘いものを食べるとかゆっくりした方がいいと思います。」
「甘いものか?」
「はい、糖分は頭を回す事や脳や疲労回復に必要ですから。」
おすすめはチョコらしい。ちなみに、僕はラムネが大好きでラムネが無いとテストが受けられないほどの中毒だ。
「そうなんですね! じゃあ彩夢くん!」
スプラウトは目を輝かせながら僕に顔を近づける。
「彩夢くんのオススメの甘いものを現実から買ってきてください! あっ作ってもいいですよ!」
「えっ?」
急に言われると悩むな。チョコ……キットカッキとか?
「何を言ってるんだ、彩夢だって忙しいんだぞ」
ウィストリアは僕に目を輝かやかせるスプラウトを落ち着かせた。
「だ、だって! ウィストリアさんが心配なんですよ!また倒れたら!」
スプラウトは泣き顔で僕に頼み込んだ。
「……えーと」
ウィストリアにはお世話になっているから力にはなりたい。ただ現実世界の地形がまだ把握出来てないし、作るとしても時間がかかる。
でも、僕はやらなくてはならない。
「わかり………」
「話は聞かせてもらったわ!!」
「姫っ」
僕が考えていると不意に声が聞こえた。振り向くとマリがドヤ顔で立っている。
「私がするわ。だから持ってくるまでウィストリアは休んでいなさい! 」
「本当ですか! ありがとうございます!」
スプラウトはパッと顔を輝かせると、ウィストリアを自分の家に連れて行く。
「待て! おいっスプラウト!」
「休ませているのでお願いしますねー!」
2人はあっという間に消えていった。
「さっ行くわよ! ピーちゃん、彩夢! あと弥生も!」
「えっぼくも? まだいかなくてもいいって」
「なにが始まっているんですか!? 弥生! 弥生を引っ張らないで……」
という事で、現実に4人と1匹で来た。
「まだ約束の時間ではないのに。休んでいたのに。」
カクラジシは困り顔でうつむいていた。弥生が心配でついてきたらしい。
「よし! じゃあ彩夢は佳奈の所へ! あっ自分で帰ってきてね。あとは私についてきて頂戴!」
マリは何かウキウキテンションだった。
「はい彩夢!」
その調子のまま地図を手渡してくる。
「これは」
「佳奈の家よ! 調べたから使ってね。」
マリは早口で答える。そういえば聞いてなかったが、何故知っているんだ?
「さっ速く行って!」
「はっはい!」
聞く暇も無くマリの勢いに負け、僕はすぐに家へ向かった。
――佳奈の家
普通のマンションだな。
僕は地図とマンションを何回も見た。多分ここだろう。えーとマンション番号がないんだが?
「あっ彩夢さん!こっちです!」
佳奈が窓で顔をだしながら手を振っている。ナイスタイミングだな。
「お邪魔します。」
「どうぞ!」
佳奈がスリッパを出してくれたので、礼をして入った。なんというか薄暗い部屋だな。
そっと電気のスイッチを押したが反応が無い。
「えーと彩夢さん。」
「あぁ。どうした?」
「これからどうするんですか?」
僕はお茶を飲みながら返事をすると、佳奈は不安そうに僕に聞いてくる。
「学校に行くんだろ? 君が安心して行けるようにするには何が必要だ?僕も近くでいた方がいいか?」
「はっ……はい。」
彼女は少し考えながらに返事をする。引きこもっていたはずだし1人ではキツいだろう。
「高校2年?」
「はい!」
「高校の種類は?工業とか普通科とか」
「……普通の学校ですよ!」
普通科か。
「どうしました?」
「いや」
工業高で絵を描いていた自分には勉強が……いや、ここはしっかりやるしかない。
「あと彩夢さん。」
「なんだ?」
佳奈は申し訳なさそうに僕を見た。
「女の子だと嬉しいんですが。」
「そうか。マリでいいか?」
「……彩夢さんの方が詳しいと聞いたので」
そりゃそうだ。男が隣にいても。ん、僕?
「ちょっと待て! つまり僕が?」
「はい!」
僕が恐る恐る声をかけると思いっきり首を振る。
「僕、女でいいのか?」
「はい! 気にしませんから!」
僕は気にするんだが。佳奈は嬉しそうに制服を僕に見せてくる。可愛いレザーにピンクのリボン、短いスカート。
キツい。
「――っ」
「購入手続きしますか?」
「……見せて…くれればこちらで手配する。あとは……僕に任せてくれ。」
佳奈は、承諾した途端に目を輝かせながら制服を合わせてくる。お人気遊びってこんな気持ちなんだな。
「よりにもよって、このタイミングにバレンタイン……」
使い魔はブルブルと震えながら商店街のチラシを見ていた。
「何言ってるの?バレンタインだから引き受けたの。さっ買うわよ! 皆!」
「仕方ないですね。弥生、残り物があればあの子にチョコを渡してあげましょう」
「うん!」
マリは使い魔を連れて凄い勢いでチョココーナーを回っていく。
「嫌ですっ! 姫! 使い魔の立場ですがチョコは作ってはなりません! 反対します!!!」
「ピーちゃん大丈夫よ。今回はちゃんとするから!」
「……っ。」
使い魔は絶対に折れない彼女を見て諦めた。
「あの、これ」
佳奈に色々見せて貰った後、小さな箱を渡してくれた。青いリボンでラッピングされている。
「今日バレンタインだから!」
箱を開けるとチョコが入っている。陸上以外で貰った事がない僕には新鮮だな。
「賞味期限はまだまだあるから、ゆっくり食べてね。」
「ありがとう。味わって食べるよ。」
「うん! あとあの二人にも」
2人分のチョコも貰い、僕は部屋を後にした。
「そうそう。僕も17歳だからタメでいいよ。」
「そうなの?えっとじゃあ彩夢くん。これからよろしくね」
「うん。じゃあ」
僕は軽く手を振り笑顔で笑ったが、帰りながらに脳が悲鳴をあげるように顔が引きつる。
「まさか……女として学校にいく事になるとは。色々と不味いぞ。」
――天空
僕が帰ると何故か弥生が家の前で倒れていた。なんだこの急展開。
「弥生!!!」
弥生をゆすり目を覚まさせた。
「おっ……にいさん」
弥生は、か弱い声をだしながら僕を呼ぶ。
「誰に殺られたんだ! 言ってくれ!!!」
「――っ」
弥生はスプラウトの家を指さすとバタッと眠りこんでしまった。
「弥生ーーー!!!!」
誰かが乗り込んできたのか!?僕は急ぎながら扉を思いっきり開ける。
「ぐっ!」
とんでもない匂いが鼻、頭まで回り全身が痙攣してくる。どんな魔法なんだ。これ。
「ウィスト………さん…ガクッ」
「誰か助けて……ください」
ウィストリアは泡を吹いて倒れ、スプラウトにカクラジシまで倒れている。揺すっても返事がないとはな。
敵が乗り込んできたのか?僕はナイフを構えながら匂いのする方へ向かう。匂いがどんどん酷くなっていく。……何か男の声が聞こえる。
アラストリアはいない。でも皆を守らなければ!
「誰だ!?!?」
僕がキッチンに踏み込み声を出すとマリと使い魔が居た。
「あーおいひいですー。ひめ、さすがですねー」
使い魔は目の光を失いながらガタガタと首を振り答えている。
机に黒い物体。
鍋?ちゃんこ鍋?黒いスープにはカラフルな何かが浮かんでいた。
「彩夢! お帰りなさい! 彩夢もチョコ食べるよね!?」
マリは手に持ったスプーンを瞬時に顔の前に出した。グツグツと鳴く物体が僕に向かってくる。
「僕はチョコはいい……糖分はまだ…っん」
問答無しにマリは僕の口に何かを突っ込んできた。
「………」
その時僕の目は光を失った。簡単に言うなら人間の味覚では判別出来ない何かだ。ジャリジャリ、辛い、甘い、酸っぱい、ドロドロ様々な物が踊り狂う。
「あっ……あ…あ…」
舌が動かない。脳の信号は壊れ全身が痙攣し始めてた。
「さあ、彩夢もハッピーバレンタイン! はい、もう一口!!」
「……っ」
バタッ
「彩夢?おーい! ピーちゃんまだ食べる?」
「はい! こんなにおいしいくて、あまくてーおいしーです!」
僕達のバレンタインは終わってしまった。
「騒がしいね! でもちゃんと監視しないと意味が無いよね?」
黒いローブを着た少年が地下室に侵入する。
「彩夢くん。今日は駄目だけどまた会いに行くからね!」
ちなみに、姫は冥界では「チョコ」といいながら爆弾を渡していました。
男というのは…何も警戒しないんですよね。不思議です。
少し、巻いた気がしますが…間に合わないので投稿します!