第4章 3話 届く望み
転生前者…濁流の酷い川にいた彼女を説得しようとしたが、彼女と共に川に落ちてしまった。
「何処に行ったの! ねぇ、ピーちゃん!?」
「与えられた物を簡単に手放す考えは生憎分かりませんね。」
川に飲み込まれた感覚があった。でも意識はまだ残っている。
「うっ…ごっほっ! はっ、はっははっうぇ!」
泥水を飲んだ感覚はあるが呼吸が上手くできない。
「…?」
何かに首元を掴まれている。助けてくれたのか?浮かんでいるというよりは僕は飛んでいた。バザバサと羽ばたく音へ目を向ける
(黒い翼?)
片腕は翼はもう片方は肩から出ている。翼になっていない腕にはさっきの女の子を抱え込んでいた。同様に水を飲んだらしく顔色が良くない。
「ごほっうっう…」
「――っ。」
男はその様子に気づいたらしく、地面へ身体を傾け、翼をまっすぐにして風の抵抗をコントロールする。
「ウィストリアさん。1つお願いが。」
『すまない助かった。何だ?』
男はウィストリアを知っているようで、僕の眼鏡に話しかけている。
この声……まさか使い魔か?
「雨を一瞬でいいので止めてください。」
『あぁ。そのくらい簡単だ。』
その言葉通り土砂降りの雨はピタっと止んだ。
――っ!
男は身体をねじるようにスピードを緩めず地面に向かっていく。
(……止まらない!)
「!?」
いつの間にか僕の視界は黒く塗りつぶされていた。
目を出来るだけ開いても視界は暗いままだ。声も出ないし、呼吸が浅いまま、どんどん苦しくなっていく。
「……………!! ………さい!」
何か声が聞こえてくる。それと共に胸に痛みが。
「ガハッ…はっはっ…!」
口から水が勝手に流れていく
「 生きてください!」
「ガハアッはっ!はっ!」
視界が見えてきた。
「生きてください! 生きろって言った癖に! ここで死ぬなんて許しませんから!」
誰かが僕の胸骨を押している。押されれば押されるほど意識がはっきりしていく。
「はっ…はっ…」
この子、助けた子だ。
「彩夢!!起きてよ!」
横にはマリが泣き叫びながら口を思いっきり近づけてきた。これ。まさか心肺蘇生されてる!?薄い目をはっきり開いた。
口元にマリの感触が!
僕は足を動かし手でマリの顔を触り唇を遠ざけた。
「彩夢!!」
「良かった。」
マリは僕に抱きつき、彼女も嬉しそうにしていた。
「その助かった。ありがとう。」
少し頬に熱があるのを感じながらもお礼した。
「ピーちゃん!」
「はい、分かっていますよ。」
使い魔はすぐに僕に毛布を巻いてくれた。
「暖かくしてください。冷たいままだと風邪をひきますから」
「ありがとうございます」
使い魔はいつものように微笑んでいた。羽も無いし変わりない。じゃあ、あの人はなんだったんだ?
マリは薪を暖炉に投げている。
「はぁ。びちゃびちゃだし、髪もぺたぺたしてるし」
マリと使い魔は僕を見ると、安心しきってタオルで全身を拭いている。
そういえば、この部屋は狭いし暗いし暖炉しか無い。
「あの。ここは?」
「私が作った空間です。狭いですがここなら安全かと。」
「ここ地面の中だから、変に歩くと影の空間から出て地面に埋もれるからきをつけてね。」
マリはさらっと怖い事を言いながら笑っている。
「はぁ、あんまり関わる気は無かったんだけどね」
マリは仕方無さそうに彼女の元へ近づいていく。
「もうあんな事したらダメよ?彩夢が死にかけた時に生きて欲しいって思ったでしょ?焦ったでしょ?アンタが死んだ時も同じように思う人はいるわ。」
「……っ」
「だから死んだら駄目よ? アナタが悪い事をした訳じゃないんだし。死ぬならいじめたやつの方よ。佳奈は胸を張って生きなさい」
「……」
彼女は口をつぐみながら静かに泣いていた。
「でも怖いの。生きるのがもう苦しいの!」
マリは彼女の頭を撫でながら僕を見た。
「大丈夫! 彩夢が何とかしてくれるわ!」
「ほんと?」
「えぇ!」
本当に綺麗な丸投げだな。まぁ、最初からそのつもりだが。
彼女は泣きながら僕を見つめた。
「いいんですか。私なんかの為に……」
その様子を見るに、自己肯定感が酷く落ちている。腕の傷の自傷行為。ずっと思い詰めて我慢してきて自殺しようとしたら僕が邪魔した訳だ。
相手は高校生以上。これまでより明らかにレベルが違うが僕はただ彼女の力になるだけだ。
「勿論。さっきも言ったがそのためにいるんだ。」
僕は彼女に座らせ話をする事にした。まずは冷静になにをするのかを知っておこう。
「じゃあ。まず、君がどうしたいかを聞きたい。」
「えっ?」
「いじめを解決して学校に通う。他の高校に行く……その他にも色々と手はあるから。君がしたいようにするよ。」
そういうと彼女は静かに考えて口を開いた。
「学校に……戻りたいです。」
「よし分かった。僕はマリが言っちゃったし彩夢でいいよ。君は?」
「私は望無 佳奈 (のぞむ かな)です。」
マリが名前を知っていたという事はマリ達は大体聞いたみたいだな。まぁ、偽名を使うとややこしいから、バレないなら使っていいか。
「分かった、よろしく佳奈。」
「あっ…はい! あ、ありがとうございます。」
「変に水を吐かせるより、心肺蘇生をした方がいいかと!」
「なるほど!えーと押し方忘れたわ! キスするのは分かるけど…」
「あいにく、その類は分からないので毛布を持ってきますね。」
「じゃあ、私がするから…タイミングは指示するからマリちゃん口から酸素送って」
「えぇ!?ま?」
「この人…死ぬよ!?」
「あーわかったわ!これはあくまで救助!そう…救助!」




