第4章 1話 そして、また
精霊界から帰ってきた僕とマリと使い魔は天空で暫くの時間をすごした。
マリが天空に来てから、暫くの日が経った。生活はいつも通りかもしれないが、急だった為に一つ困った事がある。
「っ……スーんスー」
ガン!
「――がっ!?!? 」
何故かベッドで寝ているはずのマリの足が地べたで寝ている僕に直撃する。
「ーっ!」
痛みで飛び起きるとマリがベッドから落ちていた。にもかかわらず爆睡だ。これで何回目だろう。
僕は明かりがあるキッチンの方へ向かうと、ウィストリアが作業をしていた。本を散らばらしながら頭をかかえている。
こうなったのは数日前に遡るだろう。
「彩夢。すまないが暫くの間、マリと一緒の部屋で暮らしてくれないか?その部屋が無くてな。」
冥界から来た2人と天空は和解した。が、信用はしきれないという事で、監視も兼ねてウィストリアの家で2人は暮らすことになった。
しかし、ウィストリアの部屋は情報が転がりすぎている。そして他の部屋は無惨に散らばっている。
という事で僕の部屋を使うことになった。
「ベッド1つしか無いじゃない。一緒に寝る?」
「寝ない。」
僕は軽い敷布団をしいて眠っていた。正直、いつでもどこでも寝れるからいいんだがな。
「もおーこれだから思春期男子は」
「僕は17歳だ。もう歳だ歳。青い春は真っ赤に燃えた。」
マリは最初は毎回ベッドに入れと言われたが、無視し続けてもう何も言わない。こうやって、たまに物理的に僕の寝床には来るが。
「おはよう、彩夢。今日はどうだ?」
「大分良くなりました。」
僕は精霊界で過度な集中状態にゾーン状態を何回も使った。その時は大丈夫だったが今になってガタが来ていた。
毎日酷い吐き気と頭痛。あと、マリに悩みながらも休暇を取りやっと回復した訳だ。
「もう動けそうです。」
「そうか! それは良かったがもう少し休んでも構わないぞ?」
「いえ、元気になりましたから!」
頭はまだ少しぼーっとするが、何もしないままここにいる訳にはいかない。それに状態は明らかに良くなっている。
「あっおにいさん! おはよう!」
「おはよう弥生。スプラウトさんもおはようございます。」
台所でスプラウトと弥生が何かを作ってくれていた。
「体調良さそうで何よりですね!」
スプラウトはニコッと笑いながら皿に何かを盛り付けている。弥生はその様子を見あげながら皿を運ぶ手伝いをしていた。
「おにいさん、あの2人おこしてきて!」
「あぁ。分かった。」
僕は弥生に急かされ2人を起こしにいく。マリはベッドから落ち使い魔は窓側で座りながら眠っていた。
使い魔的にはヒヨコ姿の方が落ち着くらしいが、マリが寝ぼけて布団に連れていく癖があるらしく人間のままだ。
「……おはようございます。彩夢くん。」
「何よまだ眠い。寝る。」
「起きろ。」
使い魔と僕でマリを叩き起こし部屋を出て椅子に座った。
「ありがとうございます。次は私ですね。」
「私も作るわ。」
「うわー! 楽しみにしてますね! 冥界の人のご飯も案外天空と似てて美味しんですよね!」
「スプラウト様の口に合うようで何よりです。また作り方をお教え致します。」
弥生達も僕達も疲れているので、今はご飯を交代制にしている。1番美味しいのがスプラウトと弥生の2人だ。
ウィストリアはご飯を見ると指を鳴らし本をしまった。
「ウィストリアさん、どうですか?」
「まだ分からない。少し足を使わないとな。本当はあのフォルナを今すぐにでも締めてやりたいんだが」
ウィストリアは物騒な事を呟きながら背伸びをする。
クロクから貰った紙が原因だろう。ウィストリアからは確信がついたら教えるとは言われたが結構難題なようだ。
「今日は獣魂の煮込みですよ! あと使い魔さんの山菜をいれているんで、栄養も大丈夫です!」
まるで魚の煮付けのような見た目をしている。味は肉という感じだが文句なしに美味しい。
「ご馳走さま、美味しかったわ!」
マリは目をパッチリ開けながら口を拭き手を合わせる。人間の僕達に合わせるようにウィストリア達も手を合わせて挨拶をする。
皆で片付けをしようとしたタイミングで僕は口を開けた。
「そろそろ僕は現実に行こうと思うんです。」
「大丈夫なのか?」
「はい。それにこうしている間にも、助けを求めている人はいると思います。」
僕の言葉にウィストリアは少し考えながらに頷いた。
「構わないが、私はまだ動けそうにない。遠隔でサポートくらいは出来るが」
ウィストリアは眼鏡を外し拭きながら動作の確認をしていた。確かに前はウィストリアやスプラウトがいたから何とかなった。力が無い僕だけじゃ頼りないかもしれないが、天空の力になるにはどうしたらいい?
「なんの話?」
マリは僕の話を聴きながら疑問を出す。そういえば、言ってなかったな。
「えーっとだな。」
僕はマリに、これまでの事を説明した。天空が転生者が多すぎて困っている事。そして、自殺をする人が増えているなどだ。
マリは、ん〜と声を出しながら考えこんでいた。
「アタシはそういうのは向いてない。けど、見守りくらいはしてあげるわ。暇だし。」
「姫、暇だから手伝うようなモノではない気が」
「いいじゃない。周りになんかいたら殺してやるし、安心して出来るでしょう?」
使い魔は困り顔で目線を逸らした。僕が決めろということか。
「力にはなれるかと。魔力とかは微妙ですが。」
これまでの事を考えるに負を喰らう死呪霊。それが何かしら人間の心理に影響しているという仮説だ。
恐らく、闘いは避けられない。
「なら頼むよ。2人がいてくれたら心強い」
「任せなさい!」
マリはやる気満々に腕を回し、使い魔もグッと合図を見せる。
「……おにいさん、頑張ってね。ぼくはカクラジシと ほかのところにいく!」
弥生も出来ると言わんばかりに胸を叩く。まあ、カクラジシがいれば問題ないか。
「そうか。気をつけてくれ。」
ウィストリアは僕の悩んだ様子を察したように、眼鏡を手渡した。
「変装や洗脳を遠隔にすると彩夢に酷い影響が出るだろう。だから、する時は戻ってきてくれ。それでいいなら、私は君たちを外に出そう。」
ウィストリアは忙しながらにも僕の想いを応援してくれている。
「次はちゃんと手伝う。今回は彩夢頼りになってしまうが人間を助けてほしい。」
「分かりました。僕、行ってきます。」
眼鏡もやる気があるのか飛び上がって踊っている。
「弥生くん。次は行きますから! 気をつけてくださいね?」
「うん!」
「大丈夫ですよ。私がいますから。」
スプラウトは弥生を心配していたが、カクラジシに後を託す。
そして、僕達は城に登った。ウィストリアとスプラウトが一気に送ってくれるらしい。
「その眼鏡で指示を出す。無理はしないでくれ。」
「はい、行ってきます。」
ウィストリアは魔法書を出し、スプラウトはウィストリアにすり着いた。
『ザッグルニア・ガーナトル!!』
ウィストリアとスプラウトの声と同時に視界は白く光りを放った。
「使い魔さん!寝床にこれはどうですか!?」
「これは……精霊界で貴方様宛に貰ったものでは?」
「使うのがもったいないのでヒヨコさんに使って欲しいなと! あっ、ちゃんと布と綿も敷きました! ふっかふかで睡眠バッチリです!」
「では、大切に使わせて頂きます。これならよく眠れそうです。」
(おにいさんあのちゃわん、なに?)
(さぁ?)




