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第3章 27話 別れ

「ありがとう、旅人さん!」

「助かったよ」

 その後、使い魔は精霊達を連れてマリの元に帰ってきた。


「どういたしまして。無事で何よりね。」

「そうですね。」

 その後ろで、すぐに違和感に気づいたセイファは彩夢の顔を心配そうに見つめていた。


「大丈夫。私が治すから。アナタ達も少し休んだ方がいいわ。ピーちゃん、皆に暖かいお湯でも入れてあげて。」

「かしこまりました。」

 部屋に戻る精霊達を世話をし終わると、使い魔も彩夢の様子を眺めていた。


「姫、適当に包帯を巻いても意味が無いですよ。それに怪我の場所が違うかと。」

「分かってる。あ、あれよっ聞く前に眠らしちゃって分かんないの! 代わりにしてよー」

「……分かりました。」


 使い魔は仕方なさそうにマリの包帯を取った。包帯を巻き戻した後、左手に包帯をあてて器用にクルクルと巻き付ける。


「ねぇ、ピーちゃん。」

「何ですか?」

 マリは使い魔に身を乗り出した。


「私ね、1つ決めた事があるの!」

「そうですか。」

 使い魔はクスッと笑う。


「何よ!?こっちは真剣なのっ」

「大体分かりますよ。長い間、姫といますから。」

「まぁ、確かにそうね。」

「ついでの人探しが、こんなことになるとは思いませんでした。これで期間は延長、さらに、彼が死獣霊持ちとは」

 2人で看病をしているとガチャと何かが入ってきた。



「ねぇ、僕のナイフ知らない?」

 心臓部分にナイフを刺したままクロクはフラフラと歩き、袖には血を拭った後があった。


「えっそれじゃない?」

 マリはつき刺さったナイフを指さし使い魔は頷く。


「あっほんとだ。」

 グッとナイフを引き抜くと使い魔の横に座り、分が悪いそうに頭を下げた。



「ごめん、僕が倒れたせいで……結界がきれたみたい。話は聞いた、迷惑をかけたね。」

「ほんとよ。まあ、彩夢がいたからなんとかなったけど」

 マリの言葉にクロクは軽く頷きながら、彩夢の左手を握りしめる。グッと力を入れると小屋の中まで風が吹き荒れた。


「これで良し。やっぱり僕、彼の骨を握りつぶしてたみたい」

「……!?」

(え、骨が折れた状態であの動きを?)

(確かに……左手は使っていませんでしたが)

 2人はその言葉を聞いて驚いていたが、クロクは気にする事無く立ち上がり背伸びをした。



「そうそう、小屋を色々してくれたみたいだね。日が当たるようになっているし。」

 そう言いながら、微かに聞こえる精霊の笑い声を聴き微笑んだ。


「窓を作ろうとする跡がありましたから。」

「わざわざ、アクリル板を冥界から持ってきたの。で、カーテン代わりに精霊達と葉を編みあわせたのを使った感じ。全く大変だったわね。」

 使い魔もマリに同情するように頷き、クロクはへぇと感心した。


「本当に色々と助かったよ。」

「こちらこそ、彩夢が死にかけたのを治してくれてありがとう。おかげで色々計画できたし!」


「そうなの?」

「えぇ!」

 クロクは満足そうな2人に笑みを返すと、椅子に座りナイフを研ぎ始めた。使い魔とマリはガラッと変わる様子に不安を感じながら目を合わせる。



「ねぇ、使い魔さん。」

「あっ……はい。何でしょうか?」

 使い魔は少し寒気を感じながらも反応する。


「例の人間達まだ居るよね?」

「は、はっはい、捕らえています。」

 キリッとした目に怯え震えながらに頷いた。ガッガッと研ぐ音には間違いなく怒りが混ざっている。



「場所教えてくれる?」

「今すぐに」

 使い魔はすぐ様立ち上がると玄関へ向かった。


「ピーちゃん、無理しないでね。」

「はい。行ってきます。」

 使い魔は礼をした後、クロクがヒョコッと顔を出した。



「あ、精霊達を外に出して欲しい」

「……?分かった。」

 マリはもちろん。と頷いた。



「はぁ。とんだ目に逢いまくってるな」

 それから暫くして僕は目を覚ました。身体が痛い痛い。歳かなあ。


「起きたみたいね。」

 マリは僕を見てニッと笑っていた。僕の左手と右足には包帯が巻かれている。少し痛みはあるが動かしても問題はなさそうだ。


「助かった。よく休めたし、それに手当ても完璧だな。」

「あっははっ。で……でしょ!?」

 何か引っかかる気がする。まあいいか。僕はガバッと起き上がる。


 マリはハッとすると机からある物を持ってきた。

「そうそう……このダサイやつ何?」


 前に貰ったマスクだ。急な事で全てがぶっ飛んで忘れていた。一応可哀想だしつけてあげよう。



「あぁ……多分大事なやつだ。」

「別に今つけなくてもいいと思うけど」

 マリは戸惑った表情をみせながらも、話を切り出した。


「ねぇ!頼みがあるの?」

「何?」

 僕はマスクでこもった声を出す。


「これからさ、アンタはどうするの?ここにいるの?」

「そうだな。……僕は天空に行ってやる事がある。」

「天空?」

 マリは、え?という顔をしていた。


「アンタ人間よね?生きてる」

 何となくだが、大体の人は僕を見るだけで生きている事が分かるようだ。

 よくよく考えると、帰る為の紙をあの女神と一緒に滅ぼしてしまった。詰んでる可能性があるし、改めて考えると不味いかもしれない。


「なんか色々あって帰れないんだ。」

「色々と大変なのね」

 マリは僕に同情してくれた。というより心配そうにしている。


「まぁ何とかなる。……はず」

 僕がそう呟くとマリは何か思いついたように顔を近づけた。


「じゃあ、手伝ってあげるわ!」

「えっ?」

「アンタが帰れるようにしてあげるって言ってるの!アタシは冥界で強いし、姫って言われるくらいだし。そこら辺よりは強いんだから!」

 マリはドヤっとした。……ふむ、冥界の姫というのはどのくらいの範囲だろうか、


「姫?オタサーとかの類か?」

「は?」


「すみません」

 確かに相当な実力はあるし只者で無いのは確かだ。これからの事もあるし、彼女がいてくれれば何かあった時に戦力面は十分カバーできる。


「有難い。……ただ、これだけ言わせてほしい。曖昧にするのは嫌だから言うけど君に好意を持たない。」

 いつまでも、『運命の人』という紙が頭から離れない。きっと彼女も少しは気にしているだろう。


 曖昧で、何も出来ないまま……ずっと好意を持ち続けるのは辛い。それを僕はよく知っている。だから、ここは男として、人間としてちゃんと言うべきだ。



「ごめん。」

 少し自信過剰だったかな。そんな事を言った後に思い返した。しかし、彼女は嫌な顔をせずに頷いただけだった。


「もう踏ん切りついてるから気にしてない。でも、アンタは違う意味で興味があるの。だから一緒に行かせてほしい! あっピーちゃんも一緒に!」

 なら、もう問題はない。天空からの許可は行ってみないと分からないが、とりあえず頼み込んでみるか。2人は死呪霊について調べているようだし何か分かるかもしれない。


「分かった。これから頼むよマリ。」

「えぇ!」

 そう言えば名前を言って無かったな。


「僕は信田 彩夢。よろしく。」

 僕が挨拶をすると、マリはクスッと笑った。


「実はクロクが教えてくれて知ってたけど、彩夢から聞きたいなーって。たまに焦って言ってたけどね。」

 そう言うと上機嫌な様子で玄関を開けた。


「彩夢、玄関の外を見てみて!」

「……?」

 僕はゆっくりと立ち上がり、外を見てみると精霊達が元気に遊んでいた。



「っ……!」

「みーんな、もう外に出て遊べるのよ?」

 精霊達と遊んでいたウェディは僕を見つけると、涙を浮かべながら飛びついてきた。


「良かった!彩夢っ! ありがとう!」

「どういたしまして。怪我は無い?」

「うん!」

 ウェディにつられ他の精霊達もやってきた。僕が眠ってる間に、すっかり元気になっている。もう普通に生活出来そうだな。


 嬉しいけど、少し寂しかった。



「……思ってたより元気じゃない。」

 僕が振り向くと、沢山の純霊達を引き連れたラウザーがいた。


「力を貸すわ。クロクとの取り引きだし、準備は出来ているみたいね?」

 ラウザーは僕を見て微笑んだ。


『アラストリア……大丈夫なのか?』

『少し彩夢とは居てやれないがな。あと彩夢、最初に言われた死呪霊にやられた精霊がいる事を忘れていないか?』

「……あっ」

 そういえば、最初に言っていた気がする。



『恐らく取り憑かれた類だろう。我が少しやるだけでなんとかなる』

『それでいいのか?お前に危険は無いのか?』



『大丈夫だ。我はお前が必要としている限り傍にいてやる。精霊達はお前が解決した、次は我がやろう。』


「彩夢?」

『安心しろ。すぐに戻ってくる』


「頼んだよ、アラストリア」

 僕がそう呟くと、黒い影は身体から出て行った。


「助かるよ人間。」

「精霊達は任せていいんですね?」

「純霊にはプライドがある。この名において衣食住全て解決しよう。」

 ラウザーはそう言い息を吸った。



「私達は貴方達の力になる為にきました。できる限り皆さんを支援しましょう。」


「えっ純霊様?そんな事が起きるなんて……ありがとうございます。」

「純霊様が支援!?」

「純霊様が守ってくれるなら安心かも」

 彼女を見て怖がる様子は無いし後は此処に詳しい彼女に任せようか。


「はい。私達は貴方達に力をお貸しします。」

 純霊達はショウの為に!と声を合わせているようだ。クロクには苦痛かもしれないが。



「……と言っても、お前たちのおかげで症状はもうほとんど無いようだがな。あとは何か働き手でも作っておく」

 ラウザーはそう呟くと帰って行く。


「簡単に周りに広めるだけで責める輩はしっぽを巻いて逃げるだらう。まさか純霊をロボット扱いする輩はいないだろうしな。」

 何でそれを。


「ありがとうございます。彼女たちをよろしくお願いします。」

「あぁ」

 マリとウェディも一緒に頭を下げた。これで大きな節目になるだろう。



 ――一方その頃、

「話してください。知ってること全て」

「知らないの!女を拘束なんて悪趣味だと思わないの!?」


 女の要請に使い魔はため息をついた。

「性別なんて関係ないです。姫かそれ以外の人間か……それだけです。」


 銃を女の額に当て脅すと悲鳴をあげた。

「いやあああっ!」



「ストップ。残念だけど巻き込まれただけなら仕方ない。これ以上はしない、ごめんね。」

 クロクは頭の上の壁にナイフを突き刺していくと、拘束が解け傷が癒えていった。



「君も思ったより物騒だね。」

「すみません。」

 使い魔は銃をしまい女に頭を下げた。


「先程は申し訳ありませんでした。これお詫びです。」

 使い魔はポケットから黒く光る羽を渡した。


「何これ」

「厄災からの守羽。私の地域に伝わる大切な宝です。」


「宝っ?ありがとう。」

 クロクが指を鳴らすと他の人間も一斉に消えていった。


「1番、匂いが濃かった男を尋問したけど収穫なし、駄目だったね。」

 血だらけのナイフをクロクは振った。


「帰ろう。皆、天国に送った。巻き込まれる事も無いし痛みも無いだろう。」

「はい。」


「それにしても君の羽ってそんな価値あるんだ」

「いえ……騙しただけです。限定物に人間は惹かれると聞いたので」


「へぇ」

 使い魔は足元に銃を叩きつけると地上に戻る。そこにはフェアエストが知っていたかのように椅子に座って待っていた。



「フェアエスト」

「やはりそこに居たんじゃのう。ワシが来た理由は分かるか?」


「もちろん」



 ――

「これ、やっと作ったからな!ハッハッハ!」

「町みーんなの協力付きだ。威勢がいいだろ?」

 引きずる音を聞いて来てみれば、僕とクロクの銅像を何故か漆と彫刻の精霊が持ってきている。僕の3倍近くデカイな。



「えっーと、これは何処へ?」

「勿論小屋だ!」

「ある意味、ここは歴史になると思うよ?語り継ぐ為にも銅像は必要さ」

 ドシッと小屋の傍に銅像が置かれる。なんか恥ずかしいし、こんなに凛々しくないんだが。美化しすぎだ。


「彩夢! 凄いねーこれ。」

「どこに行ってたんだ?」

「ちょっとね」

 クロクはそう言いながら銅像を見上げた。


「君のおかげで本当に助かった。ありがとう。」

「いやクロクのおかげだよ。」

 僕は笑いながらクロクにそう伝えると、クロクは漆器やらを入った袋と紙を持っていた。


「彩夢時間が来たみたい。」

「それって……あっフェアエスト様?」

 フェアエストはクロクの後ろから顔を見せた。


「そろそろ帰る時間じゃ。ウィストリアが目を覚ましたようだからな。それに皆も元気になっておるし、もう大丈夫じゃ。」



「ありがとう。いつでもまた来て!」


「待ってるから!」

「彩夢ありがとう!」

「また、見に来いよ!」

「また話を聞きたいもんだね」

 フェアエストに続き、ウェディや色んな精霊が声を上げた。



「いけましたか、姫?」

「もちろん! 許可は取ったわ。行くわよ彩夢!」

 なんか暗かった場所が信じられないくらい明るくなった。


「ありがとう。また来るよ」


「変なやつに捕まるんじゃないわよー!」

「色々とありがとうございました。」

 クロクとフェアエスト、そしてウェディだけ僕達に付き添い他の精霊達と別れを済ました。



「彩夢。」

「なんだクロク?」

「君はあの化物を信じるかい?」

 クロクは何故か悲しそうな声色で呟いた。


「アラストリアは僕の友達だから」

「そっか。」

 頷くと、僕に手を差し出した。



「握って。」

 僕は言われた通り手を握ると、ビリッと何かが酷く痺れた。左眼の方に痛みが。


「――っ!?」

「これは、僕からのお礼。きっと君の力になるから。」

 お礼?僕は意味が分からないがお礼をいった。そういえば、言わなきゃいけない事があったな。


「実はクロクから貰ったナイフ。駄目にしてしまって……」

「あれのこと?別にいいよ。あ、もしいるなら記念にあげる」

 クロクは風を掴むようにするとそこからナイフが現れた。



「魔力が少ないし、ただ造ったナイフだけど」

「別に構わない。僕はこれが気に入ったから。」

「そう?なら良かったよ。」

 僕はナイフを大事にしながらポケットにいれた。ここの思い出なんだから壊さないようにしないとな。



「そうそう。僕ね、未来が見えるんだ」

「未来?」

 そういうとクロクは頷いた。



「実は……自分があの小屋で死ぬ未来が見えたんだ。奥の部屋で皆が泣きながら息を引き取る未来がね。」

「……」

「もう全部変わったから大丈夫。1人の時はただその未来が嫌で部屋を使わないようにしててね。ちょっと疑問に思ったかもって事でネタばらし。」

 なるほど。だがら、あの部屋を使わなかったのか。未来が見えるのは凄いが、そういう面を考えると複雑だな。


「本当にありがとう彩夢」

「どういたしまして。楽しかった」

「僕もだよ」

 クロクともう一度握手を交わす。これからも色々起きる気はするが、何とかなりそうに感じてきた。



「後は私達が頑張る! だから彩夢は気にしないでね、彩夢が出来る事をして!」

「ありがとうウェディ。また会いに来るよ。」

 僕達は木の上に登ると、最初の場所にたどり着いた。


「本当にありがとうのう。彩夢。」

「こちらこそ、色々ありがとうございました。」

 ウェディとクロクが手を振り、フェアエストが杖を叩くと視界は一気に明るく照らしだす。別れは急だったがまた会えるはずだ。


「ありがとう皆」

「きっと…また、会えるよ彩夢。」

『君に良き風が導きがあらぬ事を』

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