第3章 25話 ヒヨコと姫
「……ん」
目を開けると天井がみえた。どうやら、死んだ訳ではなく僕の意識が飛んで暫く眠っていたらしい。再び目を開けれるようになると僕は知らない場所にいた。
意識はあの時よりはっきりしているがまだぼーっとしている。色々あって死にかけたが僕は生きているようだ。
あれは走馬灯だったのか?
「……」
分からない事を考えても仕方ない。
僕はゆっくりと身体を起こし周りを見る。クローゼットに机、本棚。僕が寝ているのはベッドか。
現実ではよくある部屋だ。ん?ここは精霊界じゃないのか?
起き上がった途端に、僕の口につけられたマスクが反動で外れる。そういえば使うのを忘れていたな。
「……」
とりあえず今の身体の状態を確認しよう。
切られたはずの首は綺麗に治っている。……が動かすのは少し怖いから後回し。足、手は?
「んっ?」
左手が動かない。手を開こうとしてもずっと何かを握った状態だ。僕はゆっくりと首をうごかし手元を見る。
(……!)
僕の左手首からから腕にかけて血が流れていた。色を見るに新しいのと古い血が混じっている。
何故だ?血を辿っても損傷部分は無いが、何か大きな事を忘れている気が
「――!?」
僕の曇りきった意識は急にはっきりした。ベッドの下から誰かの手が僕の手を握りしめている。
ベッドの下を見ると誰かが倒れていた。
この金髪は!
「クロク!?おい、クロク!!」
クロクの目には酷い隈に呼吸が苦しそうに乱れている。そんな状態でも僕の手だけは必死に掴んでいた。
「……?」
僕が意識を集中すると、ふわふわした力のようなもの……クロクから何か血と共に流れてくる感覚がある。
彼の手首の血管は破れ、そこから血が流れているようだ。口からも血を吐いている。まるで命懸けのよう…っ……
「っああ。あああっうっ!!」
僕の意識が回復していくほど、左手の違和感が痛みが変わる。これっ骨が。
「…っ……!!」
僕がはっきりと目を覚めた事に反応するかのようにクロクも苦しみだす。今は僕の骨よりクロクが先だ。どう見ても危険な状態だし、このままでは危ないだろう。
僕は肩を使い無理矢理引き離そうとした。しかし、離れない。
『待て』
「――っ!!」
その時、僕の耳にはアラストリアの声が聞こえてきた。
「アラっ ! っ……速く教えろ!」
僕は嬉しい感情を振り払いアラストリアに叫んだ。
『まずは右手でコイツの手首を掴め。掴んだらお前の力を使って離す』
アラストリアも状況を理解したかのように早口で教えてくれた。
僕の力?まさか……
『その手の効果を破壊しろ』
僕は息を飲むように右手でクロクの手首を掴んだ。
「概念破壊」
そう唱え終わり、思いっきりクロクの手を引き離した。パチッと音が鳴るとクロクの手は離れ彼は静かに眠る。
「ありがとうアラストリア。助かった。」
(別に構わない。次はナイフを取れ。)
そう言われ僕は机に置かれたナイフを見つけ手に取った。
(お前にもう1つ技を教えてやろう。前は我がやったが、お前でも出来るはずだ。)
頭に文字が浮かんでくる。
「概念変化」
と言うとナイフは黒く染まった。僕はアラストリアに聞き耳を傾ける。
『コイツの心臓に突き刺せ』
!? そんな事出来るわけ無いだろう!?
『安心しろ。そのナイフに切る能力は無いからな。いいから速く刺せ。安心しろ、コイツはナイフ程度で死ぬ奴では無い。』
「――!」
その瞬間、アラストリアは僕を乗っ取った。身体は言う事を聞かずクロクの心臓に向かい、震えた手でナイフを構えた。
「嫌だっ」
僕が必死に抵抗しても身体は動かない。
グサッ
「――っ!!」
クロクの心臓にナイフが突き刺さった。
「っ!…………。」
クロクは多少痛がっていたが、その後安らかに眠っている。
「死んでないよね」
『あぁ。』
僕は少しキレた声でアラストリアに尋ねた。確かに呼吸はしているし血はないが。
『本当に大丈夫だ』
「本当?ほんとに?」
僕は疑問を抱きながらもクロクを抱き抱え、ベッドに眠らせて布団を被せた。
『まずはご飯でも食べろ。飢え死にするぞ。』
アラストリアは僕を心配しているようだ。確かに長い間眠っていたのか足が訛っている感覚がある。この感覚は1週間くらいだな。
「ほんとーにクロクは大丈夫なんだな?」
『あぁ、本当だ。』
なら、今は信じてご飯を食べるか。
僕は扉を開けると精霊達が眠っている空間があった。これまでの小屋の中か?
精霊達が気づかれないように歩き、前にある扉を開いた。
「……?」
ずっと僕達が過ごしていた場所だ。という事は、さっきの場所は奥の部屋だったのか。
クロクは何で隠していたんだろうか?あんな部屋があるならそこで眠ればいいのに。普段寝ていた床では女の人が眠っていた。あぁ僕を殺した人か。
まぁいいや。僕は気にすること無く食料を確認する。いつもより木の実や山菜が多い。クロクはあの状態だし、一体誰が?
「ピヨー! ぴっ!」
僕が具材を探していると、後ろから甲高い声がきこえてきた。女の人の方から何か叫んでいる声がする。
僕が向かうと黒いヒヨコのようなものが女の人の腕に挟まれて苦しそうにもがいていた。とりあえず引っ張ろう。
「よっと!」
「ピッぃ……」
ヒヨコはスルッと抜けてコロコロと回る。すると、急に人の形になった。
「姫は私を心配しすぎなんですよ」
黒い髪に執事のような衣装、高身長で黒い目をしている男の人が現れた。
「えええ!?!?」
僕は目を丸くして尻もちをついた。なんだこの人。
「……っ」
男の人も僕の反応に反応するようにびっくりしていた。彼はボサボサの髪を触って落ち着いたのか。僕の前で手を差し伸べた。
「すいません。驚かせてしまいましたね。」
僕はふらついたまま手を取り立ち上がった。
「そういえば貴方は私を知りませんでしたね。私は姫の使い魔です。以後、お見知りおきを。」
「はっ…はぁ。僕は信田 彩夢と言います。」
僕は男の人に挨拶をした。
「貴方の名前は?」
「ありません。私は正式な物ではありませんので。……いちよう、姫からはピーちゃんと言われています。」
「えっ、なんて言いました?」
「すいません。忘れてください。」
男の人は恥ずかしそうに目線をずらす。
「あっお腹空いてますよね?暫くお待ちください。」
彼は話題を変え、さっーと食料の方へ向かった。言ってないんだけど察しがいいのかな。
「精霊の方の分も作らないとですね」
男の人はテキパキと動き、山菜を煮詰めながらコウモリのような翼が2枚つく獣を5匹取り出し捌いた。
「僕も何か手伝います」
「では、小さなお椀を全部持ってきてください。」
男に従いながら準備を整えていく。
「そういえば、姫が変な事を言ったようで申し訳ありません。」
姫とは、おそらくあの女の人の事だろう。
「いえ、気にしていませんので。」
「そうですか……でも、少しだけ気にはかけてもらえると助かります。ずっと会いたがっていましたし。」
僕の反応に少し驚いたような困った顔をしながら引き笑いをしていた。という事は、あの紙の事を彼もしっているのだろうか?
「姫は貴方を探して、悪い人では無いんです。ただ、迷いがあまりない方でびっくりさせたかもしれません。でも……私自身それに助けて頂けた身です。えっと、なのでゆっくりと見てあげてください。」
男は懐かしむように言うと僕に小さい器を渡してくれた。
「味見してくれませんか?」
僕は軽く頷き言われたままにスープを飲み干す。
「んっ。美味しい!」
「そうですか良かったです。」
男の人は机に鍋を置き、姫を起こしに行った。
「彩夢くんは先に食べていてください。」
「あっはい。ありがとうございます。」
見たことない獣だが、あの人からは料理が出来そうなオーラがある。少し上から塩を撒いていても違和感がない。
「ん……おいしっ」
「この山菜や木の実は?」
「これは私が見つけました。私、紫外線と言いますか熱が見えるんです。」
「少し複雑ですが、少しいじると美味しい物とか毒物も見分けられますよ。」
「便利ですね。」
「ただ……その状態だと白黒なんですよね。でも、その状態だと種族とか人の属性とかも見えるので便利だとは思います。」
(ナビの才能があるんじゃないか?)
前回言えませんでしたが、あけましておめでとうございます。そして、今年もよろしくお願いいたします。
最初見返すと本当に酷くて……今も少しづつ直しています。そんな中読んでくださる人がいてここまで来れました。
どうか、今年も彩夢の物語を宜しくお願いいたします。
あと、次回で終わるか分からなくなってきました。大変遅れてしまい申し訳ありません。




