第3章 20話 迷いと居場所
精霊達の病気を治す為、純霊という精霊達に会いに行った。
…しかし、クロクにとって思い出したくない過去を知っているらしい。
クロクは疲れて倒れ込み 僕が背負いながらフェアエストと帰っていた。
そして、半神。人間と神が半分になっている事。
クロクと一緒にいて欲しいと頼まれたが…
「クロクにはお世話になりました。でも長くはいられません。僕にはまだやる事があるので。」
天空を手伝って最終的には現実に帰ると決めている。だから、精霊界でこれからもという考えは出来なかった。
「ふむ。いいんじゃ急に変な事を言って悪かったのう。」
「いえ。 でも、帰るまではクロクと一緒に居ます。」
フェアエストは「そうかそうか。」と笑っていた。僕はその声と言葉を聞いて心が軽くなった気がする。
確かにクロクには助けられた。でも、僕に出来ることは分からない。クロクにとって何が苦しいのかも分からない。
思い出す事がクロクにとって悪い事だってある。
純霊達がいた森を抜けると外は暗くなっていた。フェアエストのランプと共に草原を踏みしめクロクを背負いながら歩く。
今日は長く感じたが色々と進歩したはずだ。
「ここじゃな。」
小屋の明かりが目の前に見えた。長い旅だったが何とか帰ってきたんだな。
「ワシは皆が心配するから、もう帰るかのう。ウェディとクロク。ほかの者も色々と押し付けてしまうが頼んじゃよ。」
「分かりました。」
フェアエストは、ほっほっほと穏やかに笑う。
「そうそう。」
「……?」
「もうお主の魔力は十分に回復したようじゃ。帰る時はワシに言ってくれ。」
「はい。」
ランプの明かりが少しずつ森に溶けていく。
僕が精霊達を治したら帰れるのか。僕は天空に帰れる事に安心したが、ここを離れる事に寂しさを感じた。
「さい…」
クロクが弱々しく僕を呼んだ。こんな事をしている場合じゃない。
「もう着いたからな。クロク。」
「ぅ…」
今は速く休ませないと。
門の所まで行くと精霊達が待っていた。僕を見つけると「おかえり!」と迎えてくれたので、僕は「ただいま。」と返す。
もう外にも出られるようになっているとは。
「クロク?」
僕の背中で寝むるクロクに気づくと、精霊達は心配していた。普段全く弱ってる姿を見せないようだしびっくりしただろう。
「クロクの調子が悪いんだ。寝かすからドアを開けといてほしい。」
「うん!」
早足で歩きクロクを横に寝かした。最初よりはマシそうだが苦しんでいる事には変わりない。
精霊達が残り物でご飯を作ってくれたらしく、僕は食べながらクロクの様子を見ていた。
「……」
何時間か経った後、うとうとしているとクロクが目を覚ます。
「……がとう。」
「別に構わない。体調はどうだ?」
少しだけだが顔色が良くなっている。きっと帰ってきて安心したんだろうな。
「大丈夫。今は……水が欲しい」
「分かった。」
クロクをゆっくりと起き上がらせ、葉で包んだ水を渡した。
「ありがとう……僕の事、フェアエストから聞いた?」
「少しだけだが。半神だと」
僕がそう言うと、クロクはそっか…と呟いた。
「……記憶が無いんだ。」
「前、神に会った時に力をくれた。僕を跡継ぎにするってね。」
僕と会った時に言っていた事か。
「無条件か?」
「うん。」
クロクは曇りひとつない顔で頷いた。大体、何かさせられると思ったが。
「僕の……記憶は不要だから消したんだって。思い出せば辛くなるからって」
クロクは葉っぱを床に置き手を開いたり閉じたりしている。
「でも。それはそれで苦しそうじゃないか」
クロクは今その記憶が引っかかって、それで苦しんでる。なら……
「別にいいんだよ。それによく夢をみるんだ。苦しんでいる人や悲鳴をあげる人。あとは、僕を知る人の声が」
「……」
僕は彼と同じ世界なのか分からないくらいに、クロクは僕よりきっと大変な目にあってきたんだろう。
確かに思い出さない方がいいというのも分かる気がする。
「きっと何か関係があるんだろうね。分からないけど」
僕の心情とは裏腹にクロクはスッキリしたような顔をしている。
「気づいたらこの姿だった。で、精霊界に戻った時に、純霊達に会いに行ったけど、何か思い出しそうで逃げちゃったんだ。」
それでずっと隠れていたのか。
「そうだったのか。そういえば、跡継ぎした神は?」
「うーん。力は継承して消えるものじゃないみたいだし、きっとどこかにいるんじゃないかな?」
それにしても身勝手な神だな。急にクロクに力を渡したようだし。
「それでいいのか?」
「うん。この力があったから皆を守れたし。」
クロクは精霊達のドアを眺めていた。ずっと原因を探りながら守ってきたんだな。
「そうか。」
「うん。それにあんなに元気になってくれた。本当に君に会えて良かったよ。」
クロクは僕に微笑む。顔色はすっかり元通りだ。
「さっき少し聞いたけど……もう帰るの?」
「まだ。やる事はちゃんとしてから帰る。」
そう言うと、「まだ居てくれるんだね」とクロクはまた微笑む。その顔を見るとだんだん寂しくなるな。
「ご飯食べるか?」
「今はいい。でも皆が作ってくれたし明日食べるよ。」
「あっ明日の食料どうしよっか」
「まだ一日分は大丈夫だ。」
「そっか。じゃあ今日はゆっくりしようかな。」
「今日は僕が全部するから休んでくれ」
そんなたわいのない話を暫くした後、クロクはまた眠りについた。
――はずだった。
「クロク様!」
ドアをドンドン!と叩く音がする。
「……!?」
僕が扉を開けると夜行性の精霊達が焦り顔で待っていた。
「大変です! 魔力を持った人間らしき者が!」
っと言った途端、僕を見て何だお前かと言いたそうな顔をした。
「クロク様を!」
「待ってください。」
止める僕を押しのけ必死にクロクを呼ぶ。
その時、ザッと音がし黒い影が上の穴から出て行った。
「えっ」
僕達がクロクの所に行くと彼の姿は無くなっていた。ただ木の板が置いてあり『精霊達は任せた』と書かれている。
「クロク!?」
「やることはやった。私達はもう時間ですので消えます。」
と、夜行性の精霊達は食料を置き消えていく。
僕は残された板を握りしめた。何が起きている。
「はぁーあ、あともう少しよね?」
「はい。あの……鳥の方は?道案内出来ていませんし」
「あぁピーちゃん?大丈ー夫! 彼は磁力に敏感なんだから。」
「今頃近くに居るんじゃないかしら。もう少しよね! 頑張ろっと。」
「やっーとアタシの出番よ!」
「やっと来ましたね。姫。」
「悪いな。次は弥生にバトンパスだ。」
「は!?」
「何だと!?」
「という訳でまた次回。」




