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地平線の仲介者 〜死んだはずの僕が現実で転生を止める役目を受けました〜  作者: 大井 芽茜
第三章 精霊界徘徊編!

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第3章 19話 謎

クロクと精霊の病気を治すために純霊の元へ。

でも…彼の様子が

「神攫いの子!」

「……」


「神攫い?」

 僕が聞いてもクロクはずっと黙ったままだった。何か悲しさや苦しそうな感情を含んでいる表情に見える。


 純霊達も立ちすくし、ただクロクの言葉を待っているようだった。



 クロクはゆっくりと口を開く。

「そう。……きっと君たちが考えている人と僕は同じだよ。」


 そう呟いた瞬間、その言葉を聞いた純霊はクロクの元に集まっていった。


「お前はショウなのか! ショウだろう?」

「ショウ……!」


 純霊は「ショウ」と言う名を何度も呼ぶ。その言葉を聞けば聞くほどクロクは少しづつ顔色が悪くなっていく。


「クロク……大丈夫か」


 僕は純霊を押しのけクロクの傍に行くと「クロク」という言葉にハッとしたように青ざめながらも震えた手で耳を塞いだ。



「……僕はクロク。これ以上は知らないし分からない。」

 クロクは何度も同じような言葉を口に出した。自分を洗脳しているように何度も何度も。


 純霊はそれを聞いても言うのを辞めなかった。

「見違えたじゃないかショウ」

「見た目は違っても私達には分かるよ。」


「僕はクロク。僕は知らない。何も何も。僕はクロクだ。そう。僕はクロク。あの人から貰った名だ。何も思い出すな。それが僕にとって」

 クロクは段々と呟きが早くなり目が泳ぎ始めた。流石にこれ以上は不味い気がする。止めないと


「黙ってください。クロクが困っているじゃないですか。」

「ショウ!」

 変化無しか。なら、道を無理矢理作ってでも逃げよう。



「おいクロク! しっかりしろ!」

「……! ………彩夢。」


 クロクはやっと僕と目が合った。今なら

「彼は「クロク」だ。「ショウ」じゃない!行くぞクロク。」


 僕は力の限り声をだし前に進もうとしたが、より人波が僕を襲う。

「ショウ!ショウ!」

「行かないで。やっと会えたんだ。」


 20人くらいの純霊が周りを囲っている。無理に前を開けても行く手を阻む。


「彩夢ごめん……」


 クロクは少し正気を取り戻したようだが、このままいけばいつか、いや、もう壊れるだろう。


(クロクを頼んだぞ。)

 フェアエストがあんなに心配する理由も何となく分かった。なら、僕がやる事はクロクを守る事だ。


 この状態どうすればと思考を回している時だった。

「待ちなさい。」


 ピシャリと声がした。僕が振り返るとローブを被った純霊が少し離れた場所にいる。少しだけ背が高くゆっくりと歩いてきた。


「彼はワタクシが預かります。あまり混乱させるのは良くないかと。」


「ラウザー様!」

「待っていましたよ。ラウザー様。」


 ラウザー……という純霊は立場が上のようだな。見た目は白い小人だが喋り方や声質的に女の人だろう。そもそも姓はあるのだろうか?


「もう無理っ……」

 声が止み僕達が固まる中、後ろでクロクが倒れる音がした。


「よっと」

 その瞬間にラウザーは僕の後ろでクロクを抱きかかえる。


「付いてきなさい人間の子。貴方、面白い子ね」

「……」


 彼女は僕を興味深そうに眺めて笑った。近くで見て確信した。この純霊は只者じゃない。


 いや、今はこの解決しそうな状況に喜ぶべきか。


「はい。分かりました。」

 道を開けてもらいラウザーの後を付いて行く。クロクはずっと目をつぶったままうなされていた。


「クロクは」

「大丈夫です。ワタクシがそういうのですから。」

 ただそれだけを言って歩いていく。1歩道を開けるように草花が傾いた。



「ここよ。」

 木が光を遮りながら、草むらを通っていると、そこには草木が絡み合い洞窟のようになっている場所がある。周りには自然が溢れかえっていて傾かなければ周りから見えないだろう。


 ラウザーは中に入ると、木で編み込んだ丸い物の上にクロクを寝かした。純霊は光が無いと目や口がはっきり見えるようだ。


「それにしても久しぶりね。」

 と、ラウザーは呟いた。僕はずっと思っていた疑問を彼女にぶつける。


「貴方とクロク。どういう関係何ですか?」

 そういうとラウザーは微笑んだ。


「彼?私が拾った子よ。」

「拾っ……た?」


「そう。彼は私達が唯一受け入れた子よ。迷い込んでいたから

 連れてきてあげたの。」



 クロクは少しづつ唸り声が小さくなっていく。

「最初、彼は全身に火傷を負っていたの。しかもボロボロでね。きっと天空をさまよっていたら精霊界に来てしまったんじゃないかしら。」


 火傷……今のクロクには傷1つも無い。それに火を当たり前のように使う様子を見るにトラウマは無さそうだが。


「だから助けた。……で、面倒を見てあげたの。流石に死んだ時の傷を無くすのは不可能だったけどね。」

 ラウザーはクロクの頭を緑の光をまとった手で撫でている。まるで昔を懐かしむかのように。


「でも、ある日ここから消えてしまったの。私達は結界を出て精霊界全域で探したわ。見つからなかったけどね。」



「まさか自分からやって来るとはね」

 クロクが逃げていたのはそれだったのか。フェアエストが僕に純霊の事を言うまでずっと迷っていたんだな。


 治療を終えたラウザーは立ち上がり僕の顔を触りにくる。

「以上よ。次は私の質問に答えてちょうだい。」

「……はい」


「ねぇ人間。どうして貴方いきているの?」

「――っ!」

 この人、僕が死んでないと分かっているのか。


「それに、不を……死を喰らう獣の匂いがする。」

「……」


 アラストリアまでこの人にはばれているようだ。正直、逃げ切るのは不可能だ。腹をくくって正直に言うしかない。



「そうです。色々あって。でも……なんで生きているのに来れたのかは分かりません。」

 僕だって分からない。死んだと思えば色々巻き込まれ、遂には精霊界という訳の分からない世界に連れてこられただけだ。


「そう、まっいいわ。貴方達、私達の力が欲しいんでしょ?なら手伝ってちょうだい。」


「何をすれば」

 そういうと、ラウザーは笑いながら僕の肩を掴んだ。


「……!」

「その化け物、私に貸してちょうだい?必要なの。」


 ラウザーの目からは殺意が見える。怖いという感情が何度も悲鳴を上げた。


(おい、アラストリア! どうにかしろ。)

『……』

 僕の呼びかけにも全く返事をしない。クソっ


「いっ、今は出来ないん です。呼んでも出てこないんです…」

 僕は動揺しながら必死にそう言った。いつの間にか手足が震えている。


「ほんと?」

 ラウザーは怪しむ表情で僕を睨んだ。このままじゃ何をされるか。



「そうだよ。ラウザーさん、彼にはまだ力が無いからね」

 金髪が僕の前にヒラリと現れた。もちろん、その正体はクロクだった。


「……少し時間が欲しい。ラウザーさんの狙いも分かるから、ちゃんと協力する。」


 そう言いながらクロクは右手に文字を書き、彼女に手のひらを見せた。


「なら貴方に免じて少し待ってあげるわ。こちらも大変で困っているの。……アドセント」


 そういうとクロクの手のひらは一瞬だけ茨で巻かれていた。



「今日は治してくれてありがとう。また来るから。」

「えぇ「クロク」だったわね。」


「うん。」

 何とか僕達は帰ることができたが、クロクは少し力無さそうに歩いている。頭を何度も押さえ深呼吸をするほどだ。


「もう休まなくて大丈夫なのか?」

「……大丈夫だよ。彩夢が無事ならそれで構わない。」


 クロクは弱々しく笑っていた。僕は不安と申し訳なさが込みあげる。何かしてあげたらいいんだがな。


 バリッと音を出しながら結界を破るとフェアエストが座りながら待っていた。僕達を見ると立ち上がりクロクに向かった。


「大丈夫じゃったか!?クロク!」

「僕は元気だよ。あと条件付きで上手くいった。」

 クロクはドサッと限界がきたように木にもたれかかった。


「……やっぱり。ちょっと苦しいかも。」

「クロク!ワシはどうすれば」

 フェアエストはタジタジと足踏みをし始めた。僕に出来ることは一つだけある。



「僕が背負って帰るから、クロクは眠ってくれ」

 僕はクロクの前でしゃがんだ。力なら鍛えているし役に立てるだろう。


「でも」

「大丈夫だ。力だけはあるから。」

 150キロくらいはウェイトで上げていたし、このくらい平気だろう。



「ありがとう彩夢。」

 クロクは笑っていたが本当に苦しそうだった。いつもなら自分で歩けるとでも言うはずなのに。


 眠ったクロクを背負い僕達の居場所へ帰った。フェアエストは平気で背負っている僕を見て驚いている。



 暫く歩いているとフェアエストは口を開いた

「クロクの事じゃが」

「……」



「どうか彼を楽にしてやって欲しい。クロクは半神なんじゃ。」

「半神?」



「半分は神。半分は人間……だとは思うんじゃ。神に何をされたかは分からぬが、ワシが保護した時には記憶が無かった。」

 クロクは苦しそうに眠っている。思い出さない方が彼にとって幸せなのかもしれない。


「だから…」

「天界に定期的に行かなければならないと言っていたし、なにより世話になった純霊を恐れていた。だから、純霊の事を彩夢に話す時迷ったんじゃ。それでも行くと決意したのはお主のおかげじゃ。」



「彼と仲良くしてやってくれ。お主がいればクロクは幸せだと思うんじゃ。」

 フェアエストは笑っていたが僕には重りだった。僕みたいな人間じゃ。



 それに僕には帰る場所がある。ウィストリアや弥生……まだやらないといけない事がある。


 僕はどうしたらいいんだろう。ただ苦しそうなクロクの表情を背に僕は歩いた。

「ちなみにですけど…クロクのボロボロの服変えないんですか?」


「あぁ…クロクが身を隠す為じゃな。」


「そんなんで出来るんですか?」


「さぁ…分からぬ。魔法とか折り込みやすいんかのう?いちよう正装はあるらしいんじゃな」


「なるほど」


「お主も着るか?」


「いえ…大丈夫です。」

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