第3章 18話 弥生編 答え
凜々の悩みを解決するために好きな事を見つけることにした。
「うーん。やっぱり無理か」
その次の日から、僕達は会っては色々と「好きな事」を探していた。
ビリアード、ボーリング。あとはカヌーとか。
もうあっという間に3日が過ぎ去てしまった。今日も凜々はうーん。と唸りながら首を傾げる。
「好きな事を見つけるって中々難しいわね」
とりあえず興味がある事を片っ端からやろうという事で今は釣り堀?という所に連れて行ってくれた。
魚達は餌を見ぬきもしないまま、楽しそうに泳いでいる。
「弥生、あんまり近づかないでください。危ないですから」
「はーい。」
僕は座っているカクラジシと一緒に水面を見下ろしていた。
「それにしても鹿に少年って君たち変わってるわよね。」
凜々は釣竿を1回引き上げて何かを確認している。
「たまたま一緒になっただけですよ。」
「たまたまねぇ…でもさ、そういうのを運命だと思うのよ。きっとね。私には、そういうのないから羨ましいわ」
そう言うと、また釣り糸を垂らし軽くため息を付く。
「なーにも無いな私には」
彼女の曇りきった顔が水面に写っている。このままじゃ駄目だよね。
「そんなことない!」
僕は凜々の横に走って声を出すとカクラジシも隣で頷いていた。
「ありがとう2人とも」
凜々の頭を撫でてくれる手は暖かったけど、どこか弱々しい気がする。元気がどんどん無くなっているようだ。
ビッ
その時、釣竿は変な動きをしながら水面の方へ引き寄せられていった。
「あっ、かかりましたよ」
「えっ?………っあーー!!」
凜々が急に掴み引っ張る様子を見て僕達も協力する。重い竿を3人で引っ張りだすと大きな魚が水面から飛び出してきた。
ズテッ
釣れたのは良いけど僕達は反動で腰を抜かした。
「ははっ! こんな生活も何かいいものね!!」
凜々はバタバタと元気に暴れる魚を見ながら笑っている。
「あとは取って」
丸い何かを口から外した後、魚をバケツにいれた。
「このまるいのなに?」
「これ?これは釣り専用のぺったんこくんよ」
凜々は丸いものを僕に渡してくれた。
「ぺ、ぺったんこくん?」
僕が丸い物を触るとビョーンと弾力があり手に粘ついた。
「うわっ」
「最近は何かと動物を大事にしようってのがあってね。それは、口の粘膜にくっつくようになっているのよ。」
彼女によれば釣り針を使わなくてもいいように作られているらしい。便利だけど、あまりに大きいのは引っ張ってる間に取れちゃうらしい。
「大丈夫。このくらいの大きさなら多少引っ張っても取れないわ。」
自信満々に語る凜々とは裏腹に、カクラジシは「釣り堀の時点で魚をオモチャのようにしていませんか?」と小さく呟いた。
暫くすると凜々はいつの間にか2匹釣り上げている。
「はやっ」
「コツは掴んだわ。さっ、この魚を皆で頂きましょう!」
凜々はすぐに立ち上がると、僕達を何処かに連れていく。連れていかれた場所は調理場というらしい。
ここは無料で貸してくれて魚を捌く体験ができるっていうのが、この場所の売りみたい。
「はい弥生くん」
「えっ……ぼく!?」
凜々はニコニコと魚を僕に渡してきた。
「私は何回かはした事あるから。弥生くんも経験を積んだ方が為になるわよ?」
経験?
「弥生、これも1つの勉強だと思いましょう。私も手伝いますから。」
「うん、もちろん私も!」
確かに、これからの為に色々と覚えておくのは大事かな?それに2人もいてくれるし。
「うん、ぼくやってみる!!」
「ここ!」
「はっ、はい!」
僕は教えてもらいながら魚を捌く。動いていたりヌルヌルしてて怖い。
「さかなをさばくってむずかしいね」
「命を頂くには苦労も大事と言うことです。」
カクラジシはずっと透明になっているのでバレていないけど、僕が反応して声を出したり、捌いた魚をいれる食器を持ってきたりするから店の人がびっくりしていた。
「命か。」
なんか手が重い。切っていくほど僕の手には血がかかる。
血。
「……」
何か思い出してくる。
必要ないでしょ。ねぇ君もそう思わない?
黒い影は僕に微笑み始めた。僕はその影が誰なのかも声もはっきり覚えている。
(……こそ救済だよ。だから、弥生)
「弥生くん?」
「どうしたんですか?ぼーっとして」
「ーー!」
気がつくと凜々とカクラジシが僕を見つめている。あれっ何だったんだろう今の。
「ぼく、ぼーっとしてた?」
「うん」
「はい」
なんで今思い出したんだろう。
魚はもう捌き終わりそうだから速く終わらせよう。
「速く食べようよ!」
「私もお腹が空きました。」
「君、あともう少しだから頑張りましょう!」
そう店の人に励まされ、また教わりながら残りの調理をする。
刺身、寿司、焼き魚に雑炊。手伝って貰いながらもご飯を作ることが出来た。料理をしたこと無かったからいい経験になったかも。
「弥生くん流石ね!」
「頑張りましたね弥生。」
「うん!!」
さっきの事、もうよく覚えてないけど今は気にしないでいいかな。
「ではでは頂きます!」
「頂きます。」
「いただきます!」
僕は刺身を口にいれた。
「ーっ!!!」
美味しい!
「っん!美味しいわね!」
凜々もカクラジシも美味しそうに食べている。これまで食べた物より格段に美味しい。
「頑張ったからその分美味しいでしょ?」
凜々は雑炊を食べ、カクラジシは焼き魚を頬張っていた。美味しそうに。
そっか頑張ったから美味しく感じるんだ。
「うん!すっごくおいしい!!」
「まだまだ食べないとね!」
「ごちそうさま!」
気がついたら、あっという間に食べていた。
「おいしかった!」
「ふふっ。良かったわ」
「私もいい経験になりました。」
暫くして、水を飲みきった凜々が口を開く。
「私分かったわ。」
「なになに?」
「私の好きな事は、何かをする事じゃない。誰かと何かをする。それが私にとって好きな事よ!」
凜々は答えを出したみたいだった。
「そうですか」
カクラジシは嬉しそうに、まるで何かを知っていたように頷いた。
「貴方の答えを見つけられて良かったです。これで立ち直れますね。」
すると、カクラジシは立ち上がる。
「行きますよ弥生。私達は役目を果たしました。」
そっか。もう大丈夫なんだね。なんかあっという間で寂しいな。
「うん! わかった。」
僕が立ち上がると何故か凜々も立ち上がる。
「じゃあ今から好きな人……彼女に会ってくるわ!!!」
「………え?」
「……?」
凜々は言葉を残すと、急に走り去ってしまった。
好きな人が彼女?
「えーとどういうこと?」
「なら……最後に見にいきましょうか」
「う、うん!」
僕は混乱しながらも後を付いて行った。
何とか解決したみたいだけど、ほとんどカクラジシがしてくれた。僕はまだお兄さんみたいにはなれないな。
「ありがとう、カクラジシ。ぼくだけじゃ、なにもできなかった」
僕の言葉を聞いてスっとカクラジシは肩に乗った。
「そんな事ありません、まだ若いんですから。色々と学んでいけばいいんです。出来なくて当たり前ですよ。」
「そっか」
遠くに凜々の姿が見える。
「カクラジシ、こうなるってわかってたの?」
「好きな事を見つけても見つけなくても最後はこうなると、なんとなくですがわかってましたね」
カクラジシは淡々と呟いた。
――天空
「例の件は順調ですね! じゃあ今からカクラジシさんから教えて頂いたアレを準備しますよ!」
「それは、精霊界に行った方が速いんじゃない?」
セイファとスプラウトは紙に何かを描いていた。
「いえいえ作ったほうがいいです! 絶対に!」
「わかったわ。じゃあ弥生の為に作ってあげるわよ」
「はい!!!」
「弥生くん、今日もご飯食べないでいいんですか?」
「うん…もう、おなかいっぱい」
「毎日毎日…色々と頂きましたからね。」
「なるほど…!私はいつでも作りますから言ってくださいね!」
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