第3章 13話 交差
精霊達が消えかける鬱らしき症状
それを解決する為に動くが失敗に終わった
帰ってきた家にクロクはいなかった
一方、姫と呼ばれる少女は精霊達の奪還に成功。
お礼に道案内をしてもらう
――精霊界――
「あの、姫。」
「何?ピーちゃん。」
彩夢とは別の場所で女の人と精霊達は山道を歩いていた。それに追いつくように黒いヒヨコは走りながら、黒髪の男に姿を変え横に並ぶ。
「いい加減、その名前何とかなりませんかね?それよりさきほど倒した人間達、治療と共に睡眠状態にしておきました。ざっと20人ほど流石ですね姫」
「でしょー?」
彼女はドヤァとした顔で鼻を鳴らした。
「で、あの方達どういたしますか?」
男は気にすることなく淡々と話す中、トラウマを思い出したかのように精霊達が震え始める。姿が少しずつ消えかかっていく様子を彼女は心配そうに見て考えていた。
「大丈夫よ! はいこれ書いておいたから後よろしく」
女は小さな紙を出すと、サインと文字を書き殴り男に渡す。彼はその紙をした瞬間にシワをよせた。
「推薦状ってまさかこれですか?」
「そっ! あの人に渡してお願いすればアイツら全員冥界行きよ!」
「無茶苦茶なっ。そんな事をしては後で正式な手続きをしなかったと上に怒られますよ?」
男は眉をひそめながら紙を睨み困った顔をする。
「大丈夫、だって精霊界的に迷惑でしょう?ほっとくのはこの子達もいるし不安だわ」
精霊達は女の足元にしがみつき震えるのを止めない。その様子を見た男はやれやれと言いたそうな表情でため息をつくと紙を地面に差し込んだ。
「後で、この世界の偉い人にでも言えばいいわ」
「分かりました。姫の場所は把握できるので紙を預け次第、前方に何かいないか見張りをしておきますね。」
「えぇ頼んだわ。さっ彼を探しましょ!」
女は鼻歌を歌いながら精霊を連れ山を降りていった。
「………いればいいんですけどね。」
男は呟きながらヒヨコの姿へと変え闇に消えていく。
――そして彩夢達
「さっ帰りますか」
一方、クロクは腰にナイフをしまい首を左右に振りながら戻ろうとしていた。
あ…あああ………
「っ!」
灰の中から消したはずのうめき声が聞こえてくる。耳にこびりつくようなうめきが騒がしくなっていく。
「ん?」
クロクは首を傾げながら近づき
「………っ!これって」
さっきまで人の形だった灰をすくい上げ匂いを嗅いだ瞬間だった。
ザッ
「っ!!!」
沢山の影が周りから現れ一斉に襲いかかる。黒い影の勢いは止まらずクロクの姿は見えないほどに塗りつぶしにいく。
――が、クロクは焦る表情もなくニヤっと笑う。黒い視界を見通すように視線をあげた。
「なーんてね。僕の邪魔をしないでくれるかな」
「なら、クロクを迎えに!」
「クロクは君を外に出すなって」
僕が行こうとしても精霊達は弱弱しくも前を塞いで動こうとしない。クロクの願いだから動かなそうだし流石に押し通るのは駄目か。
クロクは何をしているんだろうか?
逃げてきた時に何かに着いてこられる気はした。でも、途中で消えてしまったし。
それと何か関係が?
いや、考えた所で分かることは今はない。
「わかった。じゃあ何かあったら呼んでくれ」
僕は仕方なくいつでも動ける用意をしながら掃除をすることにした。クロクなら大丈夫だとは思うがな。
「彩夢、ごめんね………心配かけて」
掃除の前にウェディの元へ向かうとベッドの上で横になっていた。傷は治っているがまだ疲れは取り切れていないようだ。
あの場のストレスは相当だっただろう。
僕はろくな経験がないせいで感覚が鈍っているからあまりストレス的な疲れが分からない。だから周りの人をもっと考える必要がある。
「そんな事ないよ。大丈夫?動く?」
「大丈夫。ありがとう彩夢」
ウェディはゆっくりと頷いた。気づくと、セイファに隠れるように精霊たちが僕をのぞき込んでいる。
「ありがとう治してくれて」
「……っ、うん」
お礼を言った後、ついでに気になるところの掃除をして少し仮眠を取った。
「よし」
目を開けるともう空は暗くなっている。でも、クロクの姿はまだないようだ。精霊たちもいることだし、残り物で料理でも作って待っていよう。
「……」
いつもは特訓に付き合ってくれるのに帰ってくる様子もないな。僕はクロクが居ない部屋に久しぶりの寂しさを感じていた。学校じゃ一人が当たり前だったんだけどな。
ザクッ
料理をしながらもずっと考えが回った。このままじゃ駄目だ。何も出来てないじゃないか。と。
例え力がなくても出来ることを考えないと。彼らの認識を変える。その為に出来ること。
「ねっ私も…手伝う」
「うん。」
声の方に振り向くと何人かの精霊が扉から顔を出していた。少し元気になったような雰囲気がある。
「でも体調は?」
「大丈夫。……それに、今は少し動きたい。」
まぁ気晴らしにはいいだろう。元気になりかけているようだし、これからは少し動く機会をいれた方が良い。
「分かった。じゃあ手伝ってくれ」
「うん…!」
僕は前の蟹を取り出した後、切っていた残り物を鍋に放り込み味見をする。
「……ん」
カニを出汁にしたが少し味が薄い。
「どうかしたの?」
「味が薄くて。僕、料理についてはあんまり知識がないから何したらいいか」
僕が言葉に詰まっていると、他の精霊達も味を確かめてうなづいた。
「ちょっと待ってね」
すぐに精霊達はある小さい樽を僕に渡してくれた。
「これ…使って」
黒い液体?僕は木で出来たスプーンですくい口に運んだ。
これは。
「ん!」
少し癖があるが、これは塩分。塩というより醤油に近い、。
「魚と塩をつけて置くと料理に使えるんだ。……昔、クロクに教えた事があって…たまに作ってくれるの」
昔の人ならではの知恵か。
「凄い!是非使わせてくれ」
「うん!」
精霊は羽を羽ばたかせながら嬉しそうに返事をする。
「良かった…喜んでくれて」
その後、精霊達は蒸した米に甘酸っぱい木の実を入れるなど僕の知らない知識を色々と使ってくれた。
料理の完成手前まできたし、仕上げだけになった。それにしても精霊達による料理の知識はとても面白いものだ。
やっぱりここで生活している人に聞くのが1番だな。
色々と知っているし視点が分かる。
「……!」
そうだ。僕に足りないのは知識じゃないか?
人間の事しか知らないで同じように精霊達と話し合っても上手くいくはずはない。精霊の文化や考え方を色々知ってから精霊の視点を持って話し合う必要があるはずだ。
「何?」
「うん、何でもないよ。」
「そう?」
「ねぇ、クロクが帰ってくるまで皆の事をもっと教えてほしいんだ。僕、なにも知らないからさ」
「……別にいいけど、なにが知りたいの」
好きな事や、この世界にある楽しい所……精霊達と雑談をしていると時間はすぐに過ぎていった。寝たっきりの時より元気そうだしなにより僕への抵抗も薄くなった気がする。
少しだけだが人間にも興味を持ってくれたように感じるし恐怖心も弱まってくれたんじゃないかな。
「あの。ありがとう…クロクの友達になってくれて」
「え?」
「クロク。ずっと1人で抱え込んでて辛そうだったから。早く治したくても治らなくて」
クロクも皆も大事な存在で共に心配させたくなかった。でも、状況がひどくなっていくばかりで厳しかっただろうな。
「クロクが笑っている顔久しぶりにみた」
「ありがとう。彩夢!」
次々と精霊は僕にお礼を言ってくる。
「こちらこそ、僕だって救われてる。……昔は、ずっと寂しかったから。」
学校の時は、合う友達がいなくて1人だった。もし、クロクみたいな人に出会っていれば少しは。
「そっか。じゃあ、クロクの為にも早く治さないとな」
精霊はハッとしたように思い詰めた表情をし始める。ずっとクロクが頑張っているのを身近に見ていたし辛かったんだな。
「鬱っていうのは頑張りすぎているからなるんだ。そして、限界がきて身体に影響が出る」
治さないとと思えば思うほど焦って苦しくなる。だから、鬱は中々無くならない。
鬱自体が甘えだと思ってしまう人はいるがちゃんとした心の病気だし休むべきだと僕は思う。
「だから、辛い時は何も考えないで休んだ方がいい。頑張らなくていいと思うのが大事なんだし、ゆっくり休んで忘れるくらいが丁度いいよ」
「彩夢」
「きっと、そうすれば治るよ」
「うん」
精霊は涙を浮かべながらすぐに笑顔に切り替わった。
(……っ)
この言葉は僕自身が求めていたものだったのかもしれない。気づけば無意識に自分の心に言い聞かせてきたことだ。だからなのか、精霊達にも伝わった気がする。
「……じゃあご飯出来たから盛りつけよう。きっと…クロクがびっくりするよ!」
「ああ!」
そうしていると、クロクはなにもなかったような顔で髪を気にしながら帰ってきた。全身みても傷は1つも無いし元気そうだな。
「ただいま。え、ご飯が出来てる」
「おかえり皆で作ったんだ。」
「うん!」
「本当?凄いね。ありがとう皆」
クロクはすぐにお皿を沢山持ってきて皆に取り分けてくれた。
取り分けると、すぐに口に運んで味わうように食べている。お腹は空いているみたいだな。
「っ。懐かしいなこの味。」
「実は精霊達が教えてくれたんだ。うん、我ながら美味しい。」
「皆、前より元気になったね」
「クロクが笑ってくれると元気が出る」
「そっか」
食べ終わるとクロクが食器を綺麗にして僕が運び片付ける。その後、精霊達が眠りについたのを見守ってから布団を敷きはじめた。
「今日は色々とごめんね。」
片付けが終わるといつもの椅子に座りクロクと話すのが日課だ。
僕の分までナイフを研いでくれているようだが、その背中には少し違和感がある気がする。
「クロク、今日何があったんだ?」
「……ちょっと用事でね。」
クロクの声も表情もなにか暗いものを感じる。これは聞くべきではないと僕は察し黙って反応する。
「そうか。お疲れ様。」
「……うん、ありがとう。彩夢」
クロクは立ち上がると鋭そうなナイフを渡してくれた。指を軽くきっただけで分かるほどの切れ味だな。
「クロクはあまり外に出ないのか?」
「…出れる。けど、出る暇も無かったしそれに」
「……?」
何かをいいかけたまま黙っている。
「僕はもっと精霊界を知りたいんだ。解決には精霊界を知るのが先だと思うんだ。」
何も分かっていないのに無闇に突っ込むのは馬鹿だった。それにクロクからも色々と聞き出さないと。
「そっか。うん、分かった。じゃあ明日にでも精霊の町にでも行く?」
「いいのか?」
「うん。勿論だよ。」
クロクは火を消し僕達は毛皮にそれぞれくるまった。
「ねぇ彩夢。彩夢は僕の事怪しいと思わないかい?その色々と変でしょ」
クロクは身体を上げたまま呟くように小さい声を出す。顔は暗くて見えない。
「思うけど、クロクが言いたくない事は聞かない。それに守ってくれたんだろ?何かは分からないけど」
「…っ」
クロクは落ち着きながらも驚くような声がした。あの精霊の様子をみればクロクが怪しいヤツじゃないと分かる。
「助かったよクロク。おやすみ。」
「……うん、お休み彩夢」
数日前
「なぁクロク。ここにはお風呂とか無いの?」
「あるにはあるけど……。自然のやつしかなくて、ものすごく遠いんだ。大体は魔法で何とかするし」
「……」
「ん、そういえば彩夢は魔法が」
「今すぐ頼めないか!?」
「ごめんね。もちろんだよ彩夢!!」
次回
「精霊界」
近いうちに更新します!




