第3章 11話 力不足
精霊病は移らないはずなのに…
僕達は言いふらす人をみつけて説得を試みる
「なら、証拠を見せてもらおうか」
僕が声をあげた途端に周りがこちらに振り向いた。
「なんだ君は」
「疑問があるから聞いたんだけど」
これは選挙でもないし横槍しても問題ないだろう。それに、ただ危ない危ないと言われてもな
「証拠を見せて欲しいだけだよ。」
「何?貴方!」
「人間じゃない?」
「あれ、この子前噂になった例の医者じゃない?」
噂がとても速いな。まるで近所のおばあさん電通網みたいだ。
こんなにたくさんの精霊相手でもクロクのおかげではっきり聞こえる。流石だな。
――少し前
「クロク、少し皆のためにやりたい事があるんだ。行ってきてもいい?」
「え、じゃあちょっと待って!」
僕が出ていくのを止め腕に何かを書きはじめる。
「何してるんだ?」
「ちょーっと複雑な術式をだね……はい、出来た!」
クロクは微笑みながら指をクルクル回している。
「これなら暫くは声が聞こえるはず。相手にもはっきりとね」
「?」
あの時はよく分からなかったが、精霊たちと話せるという事の意味が今よく分かった。
おそらく、僕の言葉と精霊の間を変換する為の術式を書いてくれたというところか。あんな数時間で出来るなんて凄いよな。
「まっ、行ってみなよ。頑張ってきて」
「ありがとうクロク」
クロクの言われた通りに、声がはっきり聞こえてくる。
「君!例の奴らに会った子じゃないか!とっとと出ていけ」
「そーだ!そーだ!」
「近づくな菌が」
「僕は罵倒を聞きに来た訳じゃない。精霊病、これが精霊に移るという証明が欲しいだけだ」
「…」
「だって、それが嘘だという証拠は既にある。ね、ウェディ。」
「うん。」
「お前は!?」
「接触してた例の子!」
僕の言葉の後にウェディがうなづくと、ざわめきが強くなった。
最初に門にいた精霊が言い広めてくれて感謝だな。彼女は精霊病の子達に関わっても異常無し。
夜行性の精霊に、あの時に会った子の絵を見せて探してほしいと頼んだんだ。すぐに見つけてくれてビックリしたが。
まぁ潜伏期間とかあーだこーだ言われたら詰むが。この世界の研究なんてほとんど進んでないものだろう。
「これは精神的な物だ。そして、それは君達の根の葉もない噂が症状を悪化させた。」
「そうよ! 皆が分かってあげないからもっと苦しんでるの!」
「……!」
男の大きな精霊は言葉を失っていた。
「証拠を見せろ。確証が無いことを言いふらしやがって!」
「…くっ」
「はやく」
僕は彼が縮こまるほど目を鋭くする。
男の足元には沢山の貰い物があった。
なるほど。こいつ、他人を汚して生計を立てているとはとんだクズだな。
「私はこんなにも周りから信頼がある! そ…それがしょ…証拠だ!」
「そーだ、アイツに脅されたんだ? きっと元気なふりしてる!」
「私達の目を覚まさせてくれたのは彼よ!」
洗脳してんのはどっちだよ。正直、ここで攻めないと長くなりそうだな。
「お前が信頼?笑わせるなよ。あの精霊達が病気にならなければ、表にも注目すら浴びなかった奴が何を言ってるんだ?」
「なっ!!!」
「精霊達が苦しんでいるのに、お前らは嘘をでっちあげて広めて不安を煽って嘘の信頼築いて仲間ごっこか?馬鹿らしいな」
「信頼なんてな。一瞬でこわれるんだよ。」
「他人を汚して手に入れた地位は居心地いいか?飯は美味いか?」
「許さないから!」
男は大きな石をぶつかったように面食らっていた。
このままいけばいけるな
「じゃあロボットじゃない?」
「誰だお前は」
僕は背後からの声に顔を向ける。すると、パーカーを被った子が笑っていた。
顔どころか髪色もみえない。
「僕は君と同じそこら辺の存在だよ。」
「………その精霊、ロボットだと思うな?だったらかからないし。あと、君ぃ天空から来たんでしょ?だったらその位手が回るくない?」
何を言い出すんだ?ロボット?この世界に?
天空でも聞いた事ないぞ。
「そんな訳ないだろ」
しかし、あの男はフードの助け舟に直ぐに乗り込んだ。
「いやっそうだとも!彼は卑怯な手を使い私達に被害をかけようとしている。天空の力は未知だ、信用出来ない!」
「そんな!最低だわ!」
「すぐにでも出ていけ!」
男は言わせまいと石を投げる。すると他の人もつられるように物を投げ始めた。
「ロボットじゃない!」
ウェディは声を張りあげた。
「なら、証拠は?」
パーカー男がニヤニヤとトドメを刺しに来た。
「……え」
「そんなの証明できる訳ないだろ!!!痛い!」
あっちは勝った顔をし団結していく。僕が声をだしても馬尾雑言にかき消された。
聞く耳を全く持たないし。くそっ
本当に数ほど厄介なものはないな。
事実だってねじ曲げて!!
「痛い!」
「……っ」
ウェディの顔に血が流れている。あちらは大きな物を投げ始めているし。
このままじゃ不味い。
逃げるのは悔しいがウェディが大事だ。
あのパーカーで一瞬で場が変わった。僕にあれほどの影響力なんてない。
「くそっ次は証明するからな」
僕はウェディを抱きかかえ、急いで逃げる。今の僕にはこんな事しか出来ない。
周囲を取り巻く、アイツのような力が僕にもあれば。自分の無力さと共にウェディの姿が目に焼き付いた。
「くそっ」
僕は草むらに入り、さっきの来た道を見通しながら遠回りする。このスピードと起点をずらす走り方に追いつけるやつはいない。
「逃げたー!」
「バーか!!」
聞きたくない。僕は何度もそう頭に唱えた。声は少しづつ小さくなっていく。
僕は陸上のアイツらにやられた時と同じように逃げるしかない。最近は自信が付いてきたが………あれは偶然だ。
このままじゃ昔と変わらない。皆をこちら側につかせる話術もオーラもまだ掴めない。
「クロク!すまん。失敗した。」
僕が扉を開けると休憩していた場所に精霊達がいた。いつも奥の部屋なのに、どうしてこんなところに?
「ウェディ…預かる」
「私…達に任せて」
僕は精霊達にウェディを手渡した。
精霊達は机に置かれた水晶を見ていたようだ。何故か僕がピンポイントで写っている。
「これは」
「……しんぱいそう…にみてた」
「でもね……」
「急に飛び出し……ていった」
「え?」
「分からない…出ていっちゃった。あんな顔見たことない。」
「必死……そうだった。」
すぐに家の中を走り回って探したが居ないようだ。とりあえずさっきの道を戻ろうか。
――はぁ困るんだよね。君みたいな存在がうろちょろするの」
「へぇ………じゃあ彼は例外かい?」
「それに答える義務はないよ」
クロクはパーカーと森の中で向き合っていた。彼は薄らかに笑い、クロクは不愉快そうに腕を組んでいる。
「君がここにいるとはね。しかも精霊に取り付くなんて」
クロクはパーカーの男へ向かって飛び出し一瞬で身体を切り裂いた。
(ハッハッ…流石だな。あいつの手駒なだけはある)
倒れた身体から黒い影が出ていき、形をとっていく。
「失礼だなー僕は自分の意思でいるだけなんだけど」
(返せ我が主を)
「嫌だね。君達に彼は渡さない」
クロクは見下すように笑い、獣の形をとった化物はギロリと睨みつけた。
(なら………力ずくといこう)
「いいよ。久しぶりに本気出させてよね!」
小さな風が吹き終わる頃、そこにはクロクの姿だけがあった。傷も埃1つつかないまま、ただ風になびかれ立ちすくんでいた。
「弱すぎ。僕の肩慣らしにもならない、はぁ」
クロクはガッと力づくで黒い影を踏みつける。
(全ては我が主の為に……)
「うるさい。もう負けたでしょ?さっさと消えなよ?」
黒い影の1部を握り潰すと全体が灰になって消えていく。
「よし、さーてと帰りますか!」
――またその頃
「はぁ……これで片付いたわね」
女は顔をタオルの半分で拭き、ヒヨコにもう片方の部分を使い拭いてあげていた。
彼女の周りには首輪だけ綺麗に飛び散り人間は山積みになっている。
「グゥグッ!」
「そんなのいいわよ。助けを聞いたから助けただけ」
「べぇ! ペェ!」
「うーん、そこまで言うなら。そうねぇ」
彼女はキラッと閃いた顔になり鞄に手を入れた。ヒヨコは静かに胸の隙間に入る。
「彼に合わせてくれないかしら」
彼女が紙をみせると精霊達は困った顔をしながら何かを話あうと声を出した。
「ぴぃ…ぴぃぴぃぴぃ?」
「へぇ。色んな精霊達からの情報を持っている男の子がいるのね。案内してくれるの?」
「サッン!」
「ありがとう。これなら何か分かるかもね。」
「ピィ!」
「今回からここは雑談にしようと思う」
「どうしたの彩夢。急に…」
「こっちの方が面白みがあるかもって思ったんだ」
「へぇ…でも、僕達重要な事以外はあまり話さないよね」
「なんか、無言でも落ち着いちゃって」
「僕もそんな感じ。何かしら僕達って気が合うよね」
「次回は弥生にパスだ」
「弥生…?」
「僕の仲間でね。まだ小さいのに僕の代わりに現実の世界に行ったんだ」
「そうなんだ…ちょっと気になるかも」
次回弥生編
今回から後書きを会話にしてみました
あんまり日常的な会話が無いので…何処かに入れられないかなーって思っておもいつきました
いちようあんまり伏線も何も無くしょうもないのがほとんどなので飛ばしても大丈夫です。
不評だったらやめますが…暫くはこんな感じにしていきます
次回も同じくらいの時期にだす予定です!




