第3章 9話 弥生編 願い
「ありがとうな弥生。でも、また何か来るかもしれないから誰かと行ってほしい。危ないしな」
「うん、わかったよ。おにいさん」
「じゃ……頑張ってね。何かあったらすぐに知らせてくれ」
ペンダントから光が消えていった。おにいさんは忙しそうな気がする。
よし、僕も頑張らないと!!
「連絡出来ましたか?」
カクラジシさんは木の実を食べながら僕を見ていた。
「うん! でも、ひとりでいくなって」
「そうですね。じゃあ私が行きましょう」
「いけるの?」
おにいさんの身長と同じくらい大きいし、目立ちそうな気がする。
「私は貴方の力になる為に来たんです。そのくらい問題ありません。」
「……っ?」
カクラジシは、光を放つと小さなぬいぐるみのような姿になって僕の肩にのった。
彼女は神獣が暮らす聖獣界から僕の魔力に惹かれて来てくれたみたいだけど、それ以外はよく分からない。
でも、おにいさんが例外なだけで大体はこんな感じに人間に力を貸すらしい。
「ちょっとおもたい………」
「羽のように軽いと言われた私ですよ?」
「………」
そう言われてたって肩が下がっていく。
「わかりました! 体重を絞ってきます」
とぼとぼと何処かにいったと思ったらすぐに帰ってきていた。
「え」
カクラジシが小さいだけでなくて細くなっている。少し暗そうな表情でスプラウトの元に向かい始めたので僕もついて行く。
「調子は?」
「呼吸が安定してきましたから〜きっとこのままなら大丈夫ですね」
向かうとパナヒルさんとセイファさんが話していた。
「あぁー君が弥生くんですね〜私はパナヒルと申します」
ゆったりした声でパナヒルは僕に声を掛けてきた。
「うん。よろしくね!」
「はい、こちらこそ。」
パナヒルはほんわかと笑みを見せてくれた。
「えっと……カクラジシ様。行くのですか?」
「はい。ここまで来たら行くしかありません、彩夢も頷いたようですし」
パナヒルに付いていきながら、セイファとカクラジシ、僕は話をしながらウィストリアが眠っている建物の中に入っていく。
「皆さんどうしましたか?」
スプラウトは目を擦りながら、僕達を歓迎してくれた。僕は今からやる事を説明する。
「ぇぇええええ! 本当ですか!? 弥生くん??あぁ。どうしましょう! ウィストリアさんが……! でも、ウィストリアさんなら何故行かないんだと言うかもしれないし………あぁぁぁ! あっでもでも、ウィストリアさんの身に何かあれば大変だし………でも! 弥生くんを1人には出来ない! あああああああぁ」
「落ち着きなさい。スプラウト」
説明した途端、スプラウトは焦りながら何かを言っている。心配したセイファは必死になだめてるけど、落ち着く様子は無さそうだった。
「私が行きますよ。」
「えっ! カクラジシ様の声がどこから?はっ! これは幻聴!? 弥生くんは大丈夫だという神様の?」
スプラウトはどんどん落ち着きがなくなっていく。
「下を見てください下を」
「ぼくみて!」
「ん?」
スプラウトは僕をもう一度見て肩に視線をずらした。
――その瞬間
「ぇぇええええ! カクラジシ様!? どうしたんですか! やせ細ってますよ!」
「このくらい出来ます。まぁ少し吐きましたが」
吐いたの?
なんか悪いこと言っちゃったかな、僕。
「だいじょうぶ?」
「食べ過ぎただけです。お構いなく。」
「私もスプラウトから離れられないし、カクラジシ様が行ってくれるならありがたいですが。」
「大丈夫ですよセイファ。人間に力を貸す、それが私の役目です。」
カクラジシは皆を安心させるためか胸を張るようにしている。
「そうですね。ならお願いします。」
「あっ、ちょっと待っててください!」
スプラウトはシュッと走り去っていく。と思えば、すぐに戻ってきて僕の元に息を荒らげながら現れていた。
「ぜ…ぜぇ………これ…を」
スプラウトは、小さな箱を渡してくれた。
「護身用………にでも……と思い…作って………もらいました…ぜ…」
「ありがとうおねえさん! これあけていいの?」
「はい…」
箱を開けると小さな球体が沢山入っている。
「これは?」
「見た感じだけど、弥生は引力操作っぽい事が出来そうに見えるの。いちよう磁力も入れてるし他の能力だとしてもいい武器になるはずよ」
「弥生くん専用の………魔力のみにしてます。これがあれば……操って大体は自由にでき…るかと」
「これはいいですね。後で使ってみましょう」
スプラウトは僕のために作ってくれたんだ。
「あと…カバンですね。軽い食べ物も入れてきました」
スプラウトは手に持っていた小さなポシェットを僕にかけてくれた。所々刺繍があって可愛い。
「ありがとう! おねえさんたち」
「このくらいしか出来ませんが………後は頼みました。」
「任せてください。神獣の名にかけて」
パナヒルさんも聖水を持ってきてくれたので、僕は壊さないようにそっとしまった。
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけてー!」
「うん!」
僕は、3人に手を振って旅立った。よし、これを使って頑張るぞ!
「ね、これ。どうするの?」
カクラジシは僕の手から小さな球を地面に落とした。
「これはやはり魔珠ですね。魔力を流してみてください」
「えっ! できるかな?」
そんな事、急に言われてもどうしたらいいの?
「彩夢に銃を渡した時と同じようにすれば大丈夫です。対象に引きつけるという事でまずは的でも出しましょうか。」
カクラジシは地面に頭をつけると小さな木が生えてきた。
「えっ!」
「木と言っても魔素の塊ですがね」
「さ狙ってください。まずは1つ」
「うん」
僕は力をいれた。あの時、おにいさんの手に銃を渡したように! 魔珠を当て
球は浮き上がり的に引かれるように
「――!」
バンッ
音を立てて戻ってくる。
「そんな感じですね。上達すれば的が無くても空間に浮かべたり大きな対象も動きます」
「へぇ、すごいね!」
爆発したはずの球が地面に転がった。それを咥えてカクラジシは僕の元に戻ってくる。
「火の魔素をいれて復元魔法を使っているみたいですね。こんな技術があるとは」
「これがあれば、おにいさんもてつだえるね」
「そうですね。じゃあ行きましょうか」
カクラジシは大きくなり僕の前にしゃがみ込んだ。
「乗ってください。連れていきますので」
「うん!」
乗った瞬間、空を登り勢いをつけて雲にぶつかった。
「えっ!?」
下が見える……現実世界!
カクラジシは空を駆けながらおりていく。
「あっ魔素が薄い」
「え!?」
その瞬間、僕とカクラジシは落ちていく。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「いてて」
僕が目を覚ますと人影のない所にいた。
何かしてくれたのか痛みはあんまり無いけど?
あれ?
「カクラジシさんー。どこー?」
「やっと目が覚めましたね。良かったです。」
上の方から声が聞こえ僕の肩に飛び乗った。
「なにしてたの?」
「あまりに起きなかったので少し遊んでいました」
カクラジシは鼻を上に向けた。
ん?電線?
「あれで遊んでたの?」
「あの紐……4時間くらいは暇を潰せますね」
「そうかな、あぶないよ?」
そんな事を言いながら僕達は町を歩いていく。カクラジシは見たことがない物ばかりだったけど時間がないので歩いた。
「あっちですね」
「なんでわかるの?」
「勘です」
「そっか!」
カクラジシは急に飛び降りると走り出したので、僕は若干心配しながらも付いて行く。
「それにしても、こんな事になるとは。そもそも会ってまもない彼をどうしてそこまで慕うのですか?」
「うーん。」
(「助ける事が出来る。痛みの分かる僕らなら」)
「ぼくずっとひとりで さまよってたから。ただうらみを、はらすことしか……かんがえてなかった」
「でも」
「はい」
カクラジシは首を降って聞いていた。
「ずっとさびしかった。ひとりで」
友達なんて………人なんて大嫌いだった。力を持ってから、気の向くままに学校で暮らしてた。
そんな、恨みしか無かった僕をお兄さんは変えてくれた。
僕のような人間をお兄さんは受け入れてくれた。あんなにボロボロだったのに僕の為に動いてくれた。
なぜかは分からないけど、あの時から少し心が軽くなった気がする。
死獣霊もあるけど、それとは違う軽さを僕は感じた。
「だから、おにいさんについていくってきめた」
「そうですか」
「もし彼が居なくなったらどうするのですか?」
「…」
「さびしいけど、ぼくはおにいさんにしあわせになってほしい。がまんするよ」
お兄さんはまだここにいる。なら、時間が許すまでいよう。
一緒にいたいけど心配させちゃダメだ。お兄さんには笑って帰ってもらわないと。
それが僕の願い……なんだと思う。




